表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
精霊樹の守り人  作者: Anzu
第0章 小さな村の大きな悲劇
1/104

前日談~遥か昔の物語①~

『精霊と呼ばれる存在が、人間に文明を与えた世界。ここは、全てが精霊によって存亡する世界であり、精霊の存在が無ければ人間は存在する所か、生きる事すら出来ない。そんな、少し不合理な世界。

 精霊から力を分け与えられる換わりに、人間は精霊を祭る“精霊樹”に“貢ぎ物”を捧げ、今日この時まで生きてきた。


 ――それが、全ての始まりだった。

 人は傲慢で、とても愚かだった。

 自らが存命する為に、人はけっしてやってはならない最大の禁忌を犯した。

 

 ――人間を犠牲にして、人間を生かす、そんな選択を』



 空気を鋭く裂く音。

 子供達の気合の入った声。

 それに答える――彼の声。


 私はそんな日常が好きだった。

 毎日普通に笑って、食事をして、思いっきり遊んで、思いっきり寝る。何気無い毎日が、私は好きだった。

 だって、この世界はあまりにも理不尽で、傲慢で、誰かに依存する人間が嫌いだったから。

 でも、だからこそそんな世界を薔薇色に染め上げる普通の日常が楽しかった。


 ――今日も、その日常の幕開け。


 木の板が引き詰められた道場には、汗の臭いが溜まっていた。

 手足を投げ出して倒れこんでいる子供達に、私は声を上げた。


「皆、今日もお疲れ様。お昼ご飯持って来たよ!」


 右手に下げられた籐籠を見て、十人以上の子供達が一斉に歓声を上げた。


「やった~! ローラ姉ちゃんのご飯を待ってたぜ~!」


 そう言って真っ先に駆け寄ってきたのが、彼と対峙して木刀を振っていた子供。

 茶髪の髪を汗で濡らして、


「師匠の稽古はいつも腹が減るんだよなぁ……あ、でも師匠の稽古が辛い訳じゃないからな」

「ふふ、分かってるって」


 籠の中から布巾に包まれたサンドイッチとミルクの瓶を渡して、


「それじゃ、おさきにいただきまーす!」


 子供は放り投げた木刀を拾って外へと走って行った。きっとまた、いつもの木の木陰で食べるのだろう。


「あ、ずるいぞアルー!」


 次々と子供達は私の元へ駆け寄って、布巾と瓶片手に皆飛び出していく。

 全員が外へと食事をしに行くと、急にこの道場がしん……となる。

 子供達が去っていった後のこの静寂もまた、私の好きな時間だった。


「……全く、皆いつも賑やかだね」


 くすくすと笑って、彼は私に振り向いた。

 深緑がかった長い黒髪が風に揺れ、翡翠の瞳が真っ直ぐに私を見詰める。

 ――やっぱり、かっこいいな。

 そう思わずに入られない美貌の青年――レオは、


「いつも悪いね、皆の食事を持ってきてもらって」

「君が居ないと、子供達は誰が師匠の一番弟子かで喧嘩を始めちゃうからね」


 子供達皆に慕われている彼は、その人気ぶりから子供達の間で一番弟子を巡る喧嘩や、誰が師匠に指導を最初に受けるかなど、私達大人から見れば些細な事でもめる事が多いのだ。

 だから、彼がお昼を取りに行く代わりに、私が正午に道場にやってくるのが日常となった。

 ――私の方も、あれこれ理由を付けては道場に来ていた……ううん、彼に会いに行っていたのだから、正々堂々と会いに行ける口実が出来て満足しているのだけど。


「……そうだ。ローラが良ければどうかな? 一本と僕と勝負する?」

「へぇ~……剣術の腕がどれだけ上がったか私に見せ付けたいの?」

「……そ、それが無い事もないけど……一つ、新しい技を思いついてね。ちょっと付き合ってもらいたいんだ」


 そう言って彼は、持っていた木刀を構えて、


「あ、ちょっと待って。新技って……二刀流じゃないの?」


 彼の流派はちょっと変わっていて、この村で代々男子が習う流派ではなく、彼が独自に編み出した流派なのだ。

 それはつまり、刀を両手に持つ二刀流。

 だが、


「ううん。子供達に教えたい方なんだ。あまり複雑な型じゃないし、無理に力を使わなくても威力のある一撃が出せる……ね」

「……オッケー。なら、やってみようか」


 私は籠を部屋の隅に置き、代わりに立ててあった木刀を軽く構えて、


「……うん。どこからでもいいよ」

「それじゃ……三つの技の最後に新技を出すね」


 彼は正面に木刀を構えた後、


「……鋭陣剣!」


 技名と共に下から衝撃波を放った。

 私は木刀を盾に構えてガードし、


「一針泉!」


 剣先に水を纏わせて、三角形の頂点を打つように突きを三回繰り出し、


「奥義、灰塵乱舞!」


 地を砕くような剣技を披露する。

 右上から切り下ろして右上に切り上げ、もう一度右下に切り下ろしてから衝撃波を放って相手を吹き飛ばす。

 ここは吹き飛んだ時のシュミレーションだと思った私は、最後の一撃をバックステップで回避し、


「スキル、跳躍改進!」


 最後の一撃を外された彼は、そのまま何故か私の背後へと回り、


「鋭陣剣!」


 後ろから衝撃波を放って私を倒れさせた。


「それで、さっきのスキル? あれはどういった仕組みなの?」


 彼と私の試合を見ていた子供達の乱入によって訊くに訊けなくなっていた事を、私は夕方になってから木刀を素振りしている彼に訊いた。


「バックステップで回避すると相手の後ろに回り込んだり、または更に後ろの安全地まで逃げられる能力とかを見てね……なら、技のシメである最後の一撃を交わされたらどうするか……そう何となく考えてたら、今の方法を思いついたんだ」

「集中……回避だったっけ? それの最後の一撃バージョンって所?」

「うん。最後の大技……奥義の最後の一撃を外されたら、地と風の精霊の力で瞬時に後ろへ回りこみ、一撃だけ技を繰り出せる……」

「命名跳躍改進……か。私はいいスキルだと思うよ」


 彼に刀を握らせたら村一番……ううん、世界一と言っても過言では無い彼ならではの、いい案だと思った。

 けど、


「それは、精霊に“愛されている”レオだからこそ出来るスキルだと思うよ」

「……そこは否定できないね」


 私達の生活に……生死に精霊の存在は必要不可欠。だけど、技や術といった攻撃手段は、精霊の力をあまり借りる事が出来ない。

 理由は、世界を改変する力だから。

 衝撃波を放つには、空気を振動させてそれを相手にぶつければいいだけ。それは風を司る精霊から力を借りる事でいとも簡単に成し遂げられる。腕力なんて要らない。精霊の力だけで現象を起こす事が出来る。

 精霊の力が強ければ強いほど、技や術も強力な物になる。だけど、強い力を持つ精霊はそう簡単に人間に力など貸さない。

 人は強い力を持つと力に溺れてしまう。力に溺れた人は何を仕出かすか……それこそ、世界を壊そうとするかもしれない。

 それを防ぐ為の措置。だから、精霊は人と精霊を傷つける技や術に力を貸さないのだ。

 それがたとえ、身を守る術でも。

 だけど精霊を心を通わせ、しかも精霊を束ねる『大精霊』と信頼を築いたレオならば、精霊を愛し、愛されている彼ならば、どんな現象も起こす事が出来る。

 精霊を生み出す樹“精霊樹”を守る“守り人”にしか使えない、精霊の力を最大限に引き出した“精霊術”も、レオは使う事が出来る。

 最も、彼が信頼を勝ち取ったのは“火の大精霊イフリート”だから、火の精霊術しか使う事は出来ないけど。


「うーん……確かにそうだよね。風に地……二つの精霊達に力を借りるのは大変だから……でも、集中回避も似たような物だし……少し難易度が高かったかな」

「高すぎだね。“天空の頂”より難易度が高いよ」


 “天空の頂”とは、雲に閉ざされた山の事。実際には、山頂が雲を突き抜けているだけの、麓は子供達でも簡単に登る事が出来る山だけど。


「……やっぱり、まずは精霊達と心を通わせる所からやるべきだったかな?」

「でも、“精霊樹の巫女”である私でさえ精霊と心を通わせるのは十年掛かったもの。基礎だけ教えて、後は只管反復……」


 と、私は言葉を続けかけて、


「……ごめん、私なんかが口出しできる事じゃなかったね」

「ううん。いつもローラの言葉には励まされているよ。ありがとう、ローラ」


 そんな彼の優しい微笑みに、私の心臓は急に速くなる。


「う、ううん。こっちこそ」

「うん。おあいこだね」


 彼は笑って、木刀を片付け始めた。



 レオは村の出自じゃなかった。

 今から七年前、村と町を繋ぐ街道で倒れていた所を村長に見つけてもらい、そのまま村に住んでいる。

 他に行く所が無かったらしく、住ませて貰っている代わりにと、彼は子供達に剣術を教え始めたのだった。

 独自の流派に加え、精霊術の使い手。

 格好良い容姿に温和な性格はすぐに村に馴染んで、その時に私は彼に一目惚れしたのだった。

 彼は全く気付いていないけど。


「……そう言えば、もうすぐ次の“儀式”の日だったね」


 他愛も無い雑談で会話をしていた所に、彼は目を顰めてある一角を見詰めた。

 四つある祠の一つ。そこには、木の札に文字が書かれている。


「次の“貢ぎ物”は村で一番若い娘……か」


 精霊が存在する為には、精霊を生み出す源に“貢ぎ物”をしなければならない。

 貢ぎ物、なんて誤魔化されてはいるけど、実際には……、


「また生贄を差し出せって精霊樹は命令したんだね」


 遠慮容赦いっさいない彼の言葉の通り。

 この村は“精霊信仰”が盛んの村だ。

 精霊に感謝し、敬い、彼等の望みをすぐに叶えようとする熱心な信者の村。

 実態は、


「盲信してる村人に容赦のない要求……今年で四人目の生贄ね……」


 一年に一回、いえ、十年に一度“精霊樹”に“貢ぎ物”を捧げる事で私達は精霊に力を借りていた。

 だけど、信者の村が興った事で、彼等の要求はエスカレートしていったのだ。

 元々、“貢ぎ物”は人間ではなく、貯め込んでいた食料や供物、彼等を崇拝する象徴である品を捧げて、力を借りていた。

 それが、今ではこの様だ。


「……次の生贄はニーニャだね」

「……うん、多分そうなると思う」


 ニーニャは村で一番若く、活気のある娘だ。

 私より二つ年下で、でも底なしの明るさや達者な口回りは村のムードメーカーだ。

 でも、彼女が生贄となると知ったら、家族は黙ってはいないだろう。

 彼女の両親は前から生贄という考えを否定していたし、彼女自身もあまり好きでは無いと言っていた。

 だけど、精霊樹と……村長様の命令なら、彼女は身を投げ出す。

 責任感の強い子だから、皆を巻き込まないようにって思うに違いなかった。


「先々月はムーンで、今月はニーニャ……精霊樹に反抗心がある人ばかり狙われるようになってきたね」

「うん……でも、だからなんとかしようって出来る訳でもないし……」


 私は“精霊樹の巫女”だ。

 “精霊樹”に仕え敬い、彼の言葉を聴き授かる役目を持っている。

 私が巫女として精霊樹と守り人に“貢ぎ物”を捧げ、彼等は何の言葉も残さずに立ち去っていく。

 だけど、仕方が無い事だった。

 私は巫女で、村長の言葉は絶対で、精霊樹に逆らってはいけない立場だった。

 ううん、巫女として精霊樹に仕えられる事に感謝しなければいけない立場。

 だから私は、友人を捧げる。

 捧げる事しか出来ない。


「……何を考えているんだろう、精霊樹は」

 初めまして、作者のAnzuです。 

 この前日談はプロローグとは別の物語で、云わば前菜の前の飲み物です。

 出来るだけさくさくと投稿しますが、この物語の登場人物は本編では結構先まで出てきません。ので、こんな過去が在ったんだ~的な感じで読んで下さい。

 ちなみに、ちゃんと前日談は本編と関係ある話になっていますので、安心して下さいね~。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ