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ラスト・コンチェルト  作者: 樹 鈴
第1章
6/10

第4話 青い騎士 Ⅰ

深夜の三原市、駅に隣接する倉庫街を中年の男が必死の形相で走ってた。


でっぷりとしたお腹の振り、何度も足をもつれさせ、それでも『何か』から逃げている。


中年の男の背後100メートルほど後方、黒い霧のようなモノが男に迫っている。


それは少しづつ姿を変えやがて甲冑を着込んだ騎士に姿を変えた。


青いマントを付けているが全体的にほつれところどころ穴が開き、黒い汚れが目立つ。


そして甲冑もまた然り、右手に持った等身大の大剣を振りかざし男に迫る。


「-------------------!!!!!!!」


「一体……なんだって……言うんだよ!!」


声にならない雄たけびを上げ、甲冑の騎士が悪態をつく男との距離を着実に縮めていく。


やがて男の足腰が限界が訪れた、運動不足でメタボな身には全速力の疾走は無理だった。


足の回転が鈍り足首を捻り転ぶ、頭の中では「逃げろ」と言っているが身体がもう動かない、肺は吸った空気を満足に取り込むことが出来ず、心臓は普段ではありえない負荷に痙攣しているかのような心拍を刻み、酸素不足に目が霞む。


甲冑の騎士があっという間に中年の男に追いつき、なんら躊躇もなく右手の大剣を中年の男の胸に突き刺した。




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7時間後・三原市6番倉庫街


パトカーのサイレンがひっきりなしに倉庫街に響き、中年の男性の遺体を包囲するように停められる。


鑑識の人間が遺体の具合や周囲の証拠品の押収をし、捜査を始める。


そのころ、一台の黒い乗用車が現場に到着し車内から二人の男女が事件現場に立つ。


青いショートヘア、スーツを着こなし20代半ばといった女性と無精ヒゲを生やし疲れた表情をした中年の男性だ。


「状況は?」


「被害者は宇佐美義彦40歳。サラリーマンです。駅前の居酒屋での飲み会の帰り道で犯人に遭遇、その後ここまで逃げてきたようですね」


遺体の近くにいた同い年くらいの警察官に女性は説明を受けた。


「ここまで逃げてきたってことはあまりお酒は飲んでなかったのかしら?」


「ええ、被害者は飲めなかったようでウーロン茶を飲んでいたようです」


「死亡時刻は?」


「午前0時から1時の間です」


「また例の奴の仕業か」


中年の男性が遺体の胸の傷を見てそう言う。


最近、無差別に人間が刺し殺されるという事件が今回を入れて4件起きている。


いずれも胸部から背中にかけての刺し傷、しかも心臓を貫き即死させている。


そして、数少ない目撃証言から犯人は青いマントを着た甲冑の騎士・・・通称「青い騎士」と呼ばれるようになった。


「遺体はラボに運んでおいて。私たちはこのままラボに向かうから」


「わかりました」


警察官は遺体のそばに戻り、2人は車に乗り込んで倉庫街を後にする。


この男女は魔法関連の事件を専門に捜査する『特捜7課』という部署の所属、若干25歳の若さの捜査官・本条葵とベテラン捜査官の桐原正信。


コンビを組んでまだ一月ほど、最初のころ正信はなかなか葵を認めようとせず度々衝突したものの葵の真っ直ぐな性格に考えを改め、今はお互いを認め合いいいコンビ仲を保っている。


2人が向かったのは街の東にある三原警察署。


そこの地下1階、西側のエリア一帯が7課のオフィス兼ラボがある。


ひんやりする空気が2人を包み、オフィスの引き戸を開けるとそこには実験器具や色々な計器が所狭しと置かれている空間に出た。


ここが先ほど葵が言ったラボ、遺体から証拠を集め犯人を追う手がかりを掴む場所だ。


「う~さ~ぎ~お~いし~か~の~や~ま~」



と、ラボの奥の検死台に先ほどの倉庫街の遺体を乗せ、口に細い麺棒を突っ込みながら初老の男性が上機嫌に歌っている。


「おはよう美姫、博士」


『博士』と呼ばれた初老の男性の横にいる葵と歳が近い遠藤美姫が葵の元にやってきた。


「おはようございます葵さん、正信さん」


「おはよう。何か見つかったか?」


「まだ何も。以前の遺体と同じく手がかりがなくて」


「ミク、勝手に決め付けるな。まだわからんぞ……」


「博士、私の名前は『ミキ』です」


「おっと、そうだったか」


「これで何回目よ……」と小声で美姫が不満を漏らすがそんなことなどお構いなしに麺棒を遺体の口から取り出し、上の空でそう答える「博士」。


岸沼和義……このラボの持ち主にして天才的な頭脳を持つ科学者。


しかし、他人と思考回路が極端にズレておりよく注意して聞いていない人の名前を間違える。


世間一般でいう「奇人」だがその科学の様々な知識を買われこのラボで魔法関連犯罪の顧問として7課創設時より勤務している。


「博士、何でもいいから手がかりが欲しいの」


「わかっている……」


麺棒には何もついていなかった、それを確認し和義は近くにあったデスクチェアに腰掛けた。


「駄目だな。死因は胸部から心臓、背中に達する深い刺し傷による失血死。それ以外何もわからん」


葵は思案する……被害者には何ら接点はなく年齢もバラバラ。


無差別殺人の快楽殺人者……それが今考えられる犯人像。


しかし、仮にこの殺人に何らかの意味があるならどうだろう?


犯人が殺人を犯すことで何らかの意味が生まれる、例えば魔法を使った実験や新兵器のテスト等。


「もし、この殺人事件が新魔法や新兵器の開発のためのテストだったら?」


「それは考えられる。どこかのアホが動く肉を的にしたのかもな」


「そうか……そう考えられるな。でかしたぞ本条捜査官!!」


と、自分のことにように和義は喜んだ。


「事件は全て駅周辺で起きている、この周囲に何かの実験が行われているのかもしれないな」


「ではチームを動員して捜査しましょう。魔力の強い場所を念入りに探せば」


「ああ、そうだな。よし早速出かけよう」


葵と正信は踵を返しラボを出ようとする、そんな2人に右手を振り「帰りにチョコフレークを買ってきてくれ、今朝食べたので切れてしまった」と和義は場違いな注文をする。


そんな注文は葵と正信には届かず無視してラボを出て行った。


「博士、チョコフレークは私が買ってきます」


「そうか、いつものやつだぞ?それ以外は食わんからな!」


「わかってますよ、でも先にチームを召集してからです」


和義の子供のような言い分を聞いてラボの固定電話で捜査チームの要請を上に依頼、7課の情報に上は納得しすぐに許可された。




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昼食時、義之は春樹たちと屋上で昼食を食べている。


五月の爽やかな風が頬を撫で実に清清しい、見晴らしもよく街を一望できる、屋上は最高のランチポイントだ。


「そういえば、また出たんだってね。青い騎士」


春樹が購買で購入したBLTサンドをハムハムゴックンし、そう3人に話しかけた。


「今朝のニュースでは報道されてなかったぞ?」


「携帯電話のネットニュースさ。今日の0時ごろに中年のリーマンがやられたって」


「全く、これで4件目でしょ?まだ捕まらないわけ?」


小ぶりな弁当箱に収められたおかずのから揚げを食べ、そうみなせが言う。


「青い騎士……まさか騎士王が現界したんじゃ……」


ホットジャーに入れたビーフシチューをすすり、よくわからないことを言う灯華。


「誰だい?それは?」


「え……偉大な騎士王を知らないなんて!!『エクス!!カリバァァァァァァァ!!』よ!?」


そう言われ、義之にはピーンと来たがあえて突っ込まないことにした。


灯華が言っているのは最近読んだラノベに出てきた架空のアーサー王のことを言ってるに違いない。


しかしここで「いや、サーヴァントはないだろ」と突っ込めばみなせは激しい追及をしてくるだろう。


「なんで灯華の話がわかるのよ!?」とうるさく聞かれる、平和なランチのひとときをこんな追求で潰すのは断じてあってはならない。


なので、無心に美奈都の弁当を食べることにした。


中央に梅を載せた白米とおかずは冷食のカップグラタン、長ネギ入り玉子焼き、アスパラのベーコン巻き、冷食のミニハンバーグ&スパゲッティ、今朝の残りの鮭の切り身。

冷食もあるが栄養のバランスを考えたおかずはどれも等しく美味しく、今、箸で口に運んでいるのは長ネギが入った甘い玉子焼き。


長ネギの程よい苦味と辛味と砂糖の甘さがマッチしていてとても美味しい、歳のわりに毎日長ネギを使った料理でも苦にならないほど長ネギ好きの義之にとってはまさに夢のようなおかずである。


「それにしても、義之のお弁当はいつも美味しそうだね」


話は騎士王の話から義之の弁当の話に移った、「余計なこと言うなよな……」と最後の玉子焼きを口に放り込んで内心春樹に舌打ちをする。


「うんうん、こんな愛妻弁当……本当に妬ましいわね……」


「愛妻なわけないだろ。俺は購買のパンでいいって言ってるんだが美奈都がどうしても作りたいって」


「ふ~ん、美奈都ちゃんってホントにいい子よね」


珍しくみなせが義之に突っかからず美奈都の話題を持ち出した、何かうるさく突っ込まれると覚悟した義之だったが話題が変わり安堵とする。


このまま平和なランチタイムを過ごし、午後からの授業を心置きなく受けられる。


そう義之は思った矢先であった、屋上のドアを開け一人の女生徒が颯爽さっそうと入ってきた。


「あの子、隣のクラスの妙法寺桃歌みょうほうじももかだね」


「知り合いか?」


「義之……君はもう少し世間の噂に耳を傾けるべきだよ」


「はいはい、俺は世間知らずですよ。それで?」


「彼女は1年の中で飛びぬけて可愛いと噂の子さ」


「あーいう周りからチヤチヤされてる人間って気に食わないのよね」


と、桃歌を睨み付けいつも以上にイライラしているみなせ。


そんな彼女を見て、なぜそこまでに対抗心を燃やしているのか……乙女心がわからない義之にはさっぱりだ。


そして、桃歌は真っ直ぐこちらに向かってきた。


女性関係に疎い義之だがその桃歌の容姿に思わず息を呑んだ。


美しく可憐な出で立ち、二又の長く艶やかな黒色のロングヘアー、それをより一層引き立てる、紅く細いカチューシャ。


それに反逆するような、可愛らしい猫のような目付き。


簡単に言えばファッション雑誌に載るモデルか売れっ子のアイドル、そんな感じだ。


「河野義之くん。それとその仲間たちね」


その言葉を聞くや否や、みなせは勢いよく立ち上がり桃歌を先ほどより更に鋭くにらみつける。


「何の用?」


みなせのいつもは見せない低い声に義之は内心ドキリとした、ここまで相手に敵意を向けるみなせを初めて見たからだ。


「あなたに話があるの」


しかし、みなせの言葉を無視し桃歌は義之に話しかけてきた。


「私と戦ってほしいの」


「え?」


「ちょっと!!何無視してんのよ!!」


「あなたに用はないもの。なら耳を傾ける必要ないでしょ?」


冷淡に、冷めた目でみなせを見ながらそう言い放つ桃歌。


まるで轟々と燃え盛る炎を遠目でバケツを持ち、いつでも消せるとでもいうかのような余裕さを窺わせる。


いくら鈍い義之でもわかった、「妙法寺はみなせを見下している」と。


「この……」


「止めろみなせ」


義之がみなせと桃歌の間に入る、これ以上何か言われたらみなせは逆上し何をするかわからない。


そして、大切な幼馴染に辛辣な言葉を言われ黙って見ていることはできない。


「俺と戦うと言ったな。なぜだ?」


「こないだの模擬戦を見てあなたと戦いたくなったのよ」


校則では訓練の一環として生徒同士の自主的な模擬戦を教師立会いの下認められている。


「そうか。なら一つ条件がある」


「いいわ、言ってみて」


「戦うなら2人1組のタッグ戦、それを2チーム作り戦う」


義之の条件に桃歌は一瞬目を丸くするがすぐに「なるほど」とうなづいた。


「木戸くんと天枷さんも参加させる気ね。いいわ、こっちも2チーム作るわ」


「勝負は4日後の放課後、いいな?」


「ええ、問題ないわ。じゃあ、その時を楽しみにしているわ」


踵を返し、優雅かつ颯爽と桃歌は屋上を後にした。


「義之くん、ナイスよ!」


と、灯華はグっと親指を義之に向け立てた。


「私も我慢できなかった、義之くんが言わなかったら私が一撃魔法をお見舞いしてたわ」


「そうだね、僕も何時でも一撃を加える準備はしてたよ」


灯華も春樹も、桃歌の態度は我慢できなかったようだ。


いや、義之にはわかっていた、この2人も大切な幼馴染が無視され見下されて何も感じない薄情者ではないと。


小さいころからたくさんの楽しいこと、悲しいこと、辛いことを共にし分かち合ってきた。


「みなせ、いいな。あいつらを倒すぞ」


「当然よ、無視されて黙っていられるわけないじゃない!」


「まぁ、4日あれば戦略とかも練られるしね」


「フフフ……彼女とその仲間には地獄の業火の苦しみを味わってもらうわ……」


勢い任せになってしまったが、義之たちは桃歌一味の打倒を誓った。

はい、3話終了です。


今回からわりとシリアスな話に入っていきます。


殺人事件のお話は始めて書くので上手く書けるかちょっとドキドキしてます。


そして、リア友の琴吹佑人さんの作品「なつぞらつばさ」から妙法寺桃歌先輩をクロスオーバーさせていただきました。


なつぞらつばさを読んでビビッときたキャラだったので自分の小説に出していいか聞いたところ快諾してくださいました。


原作よりやや冷淡ですが、個人的に興味のない人にはこんな態度なんじゃないかなーっと思ったのでこうなりました。


あ、前回の後書きに書いたキャラの名前の件ですが、実はゲームのキャラの名前と苗字をバラしてくっつけてるんです。


詳しくはお手間ですがググってください。


それでは、あでゅー(>ω<)/



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