第1話 少年少女よ、謳歌せよ Ⅰ
春……それは様々な『始まり』の季節。
新しい制服を着込み、三原市の血管たる主要道路は高校生や中学生、小学生で溢れる。
三原魔導学園に続く歩道を河野義之は欠伸をしながらゆっくりと歩いていた。
入学して数日、すでにダルさはMAXだった、なにせ彼は朝が弱いのだ。
目覚ましを五個鳴らし、近所迷惑な騒音を出さなければ起きれない、それはもう小学生の時から。
「ふわぁ~……眠いな……」
と言うと彼の前を先導していたショートヘアの女の子・小牧みなせが呆れた声を上げる。
「全く、高校生になってまだ朝が弱いの?シャキっとしたら?」
「いやいや、これはある種の不治の病なんだよ。眠い眠い症候群と言ってな……」
「症候群だと眠いの他に色々な症状が合わさることを言うから、単純に『眠い眠い病』でいいと思うわ」
っと、義之の後ろを歩いていた胸まである黒髪を耳の後ろで二つに縛った天枷灯華が平然とそう言った。
「灯華、突っ込みどころが違うよ~。一体義之は夜中まで何をしてるんだかね~」
意地悪い笑みを浮かべ、義之の横の城戸春樹がそう言う。
「そうよ、何時に寝てるのよ?」
「12時には布団に入ってるな、10分もすれば寝てるけどな」
「ちょっと遅いけど、睡眠時間はちゃんと取れてると思う」
「確かにね~。普通に低血圧ってやつ?」
「なんにしても、もう高校生なんだからしっかりしなさいよ」
「あいあい、善処します……」
昔からの幼馴染同士のいつも通りの会話、そんな会話をしつつ4人は三原魔導学園の校門をくぐった。
生徒数12000人、高校から大学まではエスカレート式の日本有数の魔法の教育機関。
高等部には魔徒を倒す討伐員の育成の『魔徒討伐科』、魔法科学を教える『魔法科学科』、魔法を使った工業知識を教える『魔法工学科』、そしてそれら専門的な勉強をしない『普通科』がある。
4人は揃って魔徒討伐科で小さいころからの目標を変わらずに持ち続けている。
「絶対どんなやつにも負けない討伐員になろう」
あの日、ハルファスに襲われて助けてくれた討伐員の男の人を見て義之たちはそう決めた。
三原魔道学園は元々田園地帯だった場所に作られ、三原山と山の中腹にある歳納神社の麓に作られた。
田舎町だった三原市は学園が建ったことにより急速に都市化し今では日本有数の学園都市に成長した。
高等科は学園の上部、歳納神社に近い位置にあり学園都市の入り口から続く長い坂を登るわけだが、これが低血圧な義之にとっては苦痛なことこの上なかった。
自転車通学したいところだが彼の家は学園都市内の自転車通学の許可範囲外……徒歩で通える距離ということで却下されてしまった。
そんな内情を抱えた義之は今日もダルさを引きずりながら仲間たちと共に教室に入った。
ホワイトボードな黒板はペンでなぞることで液晶が反応し線になるデジタルな物で大学の教室のように起伏がある教室の造りだ。
予鈴が鳴りHRが始まる、担任の月代香澄・メルティーナが入ってきた。
誰が見ても「綺麗」というだろう腰まである長いストレートの銀髪、男子生徒なら凝視してしまうだろう魅惑的なスタイルを持つ。
日本人ととイギリス人のハーフで祖父はこの学園の創立者の月代 慶三郎。
「日本のみならず世界に名を轟かすとても有名ですんごいお祖父さま」らしい。(香澄談)
そして、教師今年で2年目……なのだがそのような雰囲気を感じさせずすでにベテラン教師の貫禄を漂わす。
「みなさんおはようございます。今日も元気そうですね」
ニコニコしながら挨拶をする香澄、すでに何人かの男子生徒は目がハートになっている。
「さて、先週の金曜日に行ったミニテストの結果ですが合格点に満たなかった方が何人かいました。先生は非常に残念です……」
と表情を曇らせる……しかしすぐににこやかにこう言った。
「残念だったので合格点に満たなかった方は校内新聞で点数と名前を晒すことにします」
にこやかに、こう言ったのだ。
心当たりのある生徒(主に男子生徒)は顔面蒼白した。
綺麗で(主に)男子生徒から人気のある香澄だが、女神のような微笑を持つ反面、容赦ない制裁を加えることで校内では有名だった。
校内新聞での晒しなどまだまだ序の口、一番酷かった時は学園都市の新聞に晒された生徒もいたとか。
上級生は何人か経験済みでこの制裁を受けた後は香澄に会う度顔を引きつらせるらしい。
幸い義之は合格点ギリギリで事なきを得た。
(しかし、こんなことがあるんじゃある程度勉強しておかないとマズイな……)
返されたミニテストを見ながら義之は戦々恐々した。
引き続き1時元目、「魔導学」の授業に入った。
担当は同じく香澄、魔導学とは魔徒に対する魔法の適切なな使い方を教える授業。
全ての授業の基礎に当たる大事な科目で低血圧な義之も睡魔と闘いながら賢明に授業に耳を傾け、ノートにペンを走らせる。
以外に授業態度は真面目な義之、勉強は好きではないが目指すもののため仕方なくやっている。
そのため、赤点は取らないが点数は低い。
一時元目を終え、背伸びをする義之。
次の授業は魔法戦闘訓練、内容は模擬戦を行う。
校舎のグランドと並列して訓練場がありここであらゆる魔法と使った実技を行う。
魔法の便利なところは相手を傷つけないように非殺傷というように武器や攻撃の威力を変えられるところだ。
いくら訓練と言えど流血ざたになっては意味がない。
訓練場に着いて少しするとチャイムが鳴り担当教師がやってきた。
宮沢貴明、30代くらいのガタイのいい戦技指導教師だ。
ぶっきらぼうに「以前決めたチームに分かれて練習を開始しろ」と貴明が指示をした。
義之の所属する1-Bには36名の生徒がいる。
4人ずつで組み、このチームで実技を行う。
つまり、1-Bには9つのチームがある。
義之たちはEチーム、義之とみなせ、春樹と灯華がそれぞれ模擬戦を行う。
眠気に負ける高校生 河野義之 VS 魔装はかわいい 小牧みなせ
「こないだ初めてで勝手がわからなくて負けたけど今回はそうはいかないから!!」
とみなせは身体を白い光に包まれながらそう言った。
そして、白い光が晴れるとみなせの服装は変化……白いマント、裏地が赤でミニスカートな騎士の服装をしていた。
白いブーツに黒のニーソをガーターベルトで止め、白い篭手は太陽の光を受け光る。
そして、左腰には片手剣が鞘に納まっている。
討伐員の基本技能『エンチャント』……魔力で身体能力を強化する、これはその応用で魔力で自身の装備や防具を作る『魔装』と呼ばれる技能。
みなせの場合、武器の片手剣『シャルルマーニュ』は彼女の固有武器だが総身を覆うマントや篭手、ブーツ、ニーソは全て彼女の魔力で作られている。
『魔装』とはつまり魔力を金属などの形に固着させる技術、それなりに難度の高い技術だがみなせは魔装のレベルはクラスでトップクラス。
その魔装は女の子の感覚で言う『かわいい』ものでよく魔装について聞きに来るクラスメートの女の子が多々いる。
逆に義之はエンチャントは得意だが魔装は苦手で殆ど装備を作ることができない。
そのため、エンチャントを極限にまで活用し身体全体の防御力を上げている。
そして、義之の得物は両手に握られた古式銃。
レバーアクションのライフル『モデル1887』、弾丸を発射する毎にグリップ部分のレバーで次弾を装填するアメリカ西部開拓時代の銃。
しかし、このライフルは改造が施され魔力の弾丸を発射する機構になっている。
弾丸として発射されるのは義之の持ち前の魔力、それを散弾と単射と切り替えができる。
「んまぁ、あんまり力まない方がいいと思うぞ」
クルリとモデルのレバーに中指をかけ回す。
回すことでレバーが引かれ弾が装填される、こうして両方の手に持ちながら弾の装填をするのだ。
「私にまぐれ勝ちしたからって調子に乗らないことね!」
気位の高いみなせは前回の模擬戦の敗北を根に持っている、お互いに接戦だったがみなせのわずかな隙をついて義之が勝ってしまった。
負けず嫌いな幼馴染の言葉を聞きながら溜息を漏らす義之、(どうせ負けてもあーだこーだ言うからうるさいんだよな……)
みなせが勝てばその時は「あの時はこうすれば」とか「その状況でその判断はおかしい」とか難癖をつける。
結局、勝っても負けてもみなせはうるさいのだ。
「それじゃあ行くわよ!!」
義之の溜息を意に返さず、かぶりを振ったみなせが義之目掛けて突撃してきた。
義之は中・遠距離、みなせは近距離がそれぞれ射程距離、両者の射程が完全に食い違っている以上戦闘は自ずと得意な射程の取り合いになる。
みなせの接近に義之は冷静に自らの得物を構え散弾を発射、二つの銃口から発射された細かな魔力弾はみなせの進路上に圧倒的数をもって広がる。
すかさずみなせが剣を突き立てると剣の先を中心に透明な魔力の壁ができ散弾を防ぎながらなおも突撃する。
みなせの戦闘スタイル、防御と攻撃をバランスよくこなせるシャルルマーニュ・・・みなせのの魔法は全てシャルルマーニュを軸として発動する。
彼女の従姉妹の平岸文という有名な武器職人により作られたみなせ専用のワン・オフ・ソード。
特筆すべきはこの剣の刃の中に刻まれた術式によりみなせが「念じるだけ」で特定の魔法を発動できる点だ。
そんなレアな剣を持つみなせはこの防御魔法を展開しながら突撃という戦法をよく取る。
前面からの攻撃を完全に防ぎながら距離を詰め相手を一撃の下に切り伏せる。
単純かつ大胆、決まれば非常に合理的な戦法だ。
みなせの戦法を義之は熟知していた、だからまずは散弾でパターンを作る。
前回もこのパターンが初手だった、はっきり言ってパワーではみなせの方が上だ。
パワー差を埋めるには戦略しかない。
散弾を防ぎ切ると、防御壁は収束し剣の刀身を覆う、魔力のドリルになった。
「こんのぉぉぉぉぉぉ!!!」
防御を攻撃に転換、スキのない合理的……エンチャントを頼みとし義之は身体を捻り紙一重でかわしバック転をし距離を取る。
今度は両方のモデルを単射に切り替える、スナイパーライフルの銃弾とほぼ同じ破壊力を有する(もちろん今は非殺傷)。
初手の散弾はみなせの防御壁の硬さを調べるためのフェイク、前回も同じ方法を取った。
散弾でどのくらいの防御壁の防御力があるのか、散弾が防御壁に触れた瞬間の防御壁の魔力の減衰具合でそれを見抜いた。
もちろん、みなせにはこのことは言っていない……言えばこの戦略は無意味になる。
この単射の威力は自由に設定できる、今回はスナイパーライフル並みの威力で貫通できる難さだ。
一連の動作を無駄なく行い、モデルの引き金を引く。
放たれた魔力弾はたやすくみなせの防御壁を貫き、その防御能力を低下させる。
防御壁に開いた穴は少しずつ大きくなり、やがて維持ができなくなり消失した。
「ウソ!?」
みなせの素っ頓狂な声、そしてすかさず義之はみなせの足目掛けてスライディングし足払いで転倒させる。
「うわぁ!?」
また素っ頓狂な声を上げみなせは背中からグランドの土に転び次の瞬間には義之の右手のモデルの銃口が眼前に突き付けられていた。
「勝負あり、だな」
転んだ衝撃か少し瞳を潤ませ、頬をプクーっと膨らませたみなせが義之を睨んだ。
「あーーーーーもう!!!またまーーーけーーーたーーー!!!」
訓練場の隅にあるベンチに座り、子供のように地団駄をみなせは踏んでいた。
「駄々こねるなよ……」
「だって!!ありえないじゃない!?私の魔法壁が破られるなんて!!『勝った!!』って思ったし!!」
みなせにとってかなり自慢な強度を誇る魔法壁、それを破られてかなり悔しい様子。
実際、義之の射撃のコンマ数秒後には彼の眉間にみなせのシャルルマーニュを包んでいた魔法壁のドリルが到達するところだった。
「強度の計算が甘かったのね……鋼鉄程度の強度じゃ駄目ね。ダイヤモンド並みにするか……」
(はぁ……だからみなせとは戦いたくないんだよな)……
溜息しかでない、横でギャーギャーうるさいみなせを無視して義之は辺りを見回した。
少し離れたところで春樹と灯華が戦っていた。
灯華は遠距離戦向けな魔法戦を好み春樹は近・中での戦いが得意。
春樹の得物はレイナード社の最新バスターブレード(砲撃剣)のアーリヤ、春樹の背丈とほぼ同じ長さの刀身の中に魔力発射機構が組み込まれていて刀身を展開することで魔力砲撃を放つことができる。
接近戦と砲撃戦の両方をこなすことができるためあらゆる戦局に対応できる。
対する灯華の得物は杖……高性能AIが搭載された魔法詠唱に特化した物だ。
黒い杖の先端に長方形の入れ物がありそこにAIが搭載されており装備者の魔法詠唱をサポートする。
ここで、魔法の種類について説明しておく。
この世界の魔法は大きく二つに分けられる。
一つは古くからある呪文詠唱によって魔法を発動させる『古典魔法』
術の安定性が高く、高威力、広い効果範囲が特徴だが呪文の詠唱を必要とし今の状況のような接近戦ではまず発動させることはできない。
もう一つはコンピューターやAIにより魔法を高速処理し発動させる『現代魔法』
超高速で正確に魔法を発動できる反面、古典魔法とは違い術者を介さないため威力の減退が著しく効果範囲も狭くなってしまう。
灯華はこの二つの魔法の良いとこを取り、古典魔法を高速で発動させる『ハイブリッド魔法』の使い手なのだ。
彼女のような術者は近年増加し、そのための武装としてレオーネ・エンタープライズ社製の魔法杖『ユリシーズ』を灯華は使っている。
春樹の斬撃を杖でいなし、呪文を紡ぐ灯華。
ガキン、ガキンと金属同士が触れ合う不協和音の中、灯華の透き通る声が義之の耳に届いた。
「風琴の奏でる旋律、荘厳なる雷!!バーストボルト!!」
詠唱完了と共にユリシーズの先端が青白く輝き雲一つない空から雷が春樹目掛け落ちた。
寸前のところでバックステップで雷を避ける春樹、だが雷は地面に落ちた瞬間に爆発、煙と粉塵が二人を包んだ。
「なるほど、『炸裂する雷』ね」
アーリヤを振り煙と粉塵を晴らす……灯華はその中で次手を講じていた。
「来たれ、闇の従者よ!!シャドウサーヴァント!!」
春樹の視界が開けた瞬間、黒い魔力の塊が6個ほどカーブを描きながら彼に向かって飛んでくる。
「おーっと、灯華の新魔法かな?」
陽気にそう良いながら春樹は剣を振り塊を無力化する。
「追尾式の誘導魔法ね。視界がゼロの状況なら確かに有効かもね」
「炎よ!!フレイムバースト!!」
今度は灯華の杖の先から日の弾が放たれ、春樹の目の前で爆発した。
「うわ!?あっぶないな灯華~火傷したらどうするのさ~」
春樹の軽口を意に介さず、灯華はさらなる詠唱を始める。
「汝、光の内にて悠久の安息を得るだろう。天の啓示を受けた光は汝を焼き尽くす!!カタストロフィ!!」
これは上級魔法だ、今まで灯華が使っていたのは下級と中級の魔法で詠唱が短いものばかり。
しかし、今の魔法は長い詠唱を必要とする上級魔法、それに気づいた春樹は……
「いきなり過ぎるよ灯華!!」
と言って全速力で灯華から離れる、刹那の瞬間、空から白い光が降り注ぎ春樹がいた場所に直撃。
直径5m程の穴を開けた。
「あ、危なかった……灯華に殺されるところだった……」
「ふぅ……春樹君、私の負けでいいわ。さっきので魔力使い果たしちゃったから」
「え~……」
「今回はカタストロフィの運用と効果確認がしたかったの。動く的じゃないと意味ないでしょ?」
と、身体の埃を払いながら怖いことをさらりと灯華は言った。
「もう、相変わらず灯華は研究熱心だねぇ……」
お互いに武器をしまい(魔法技術の発展により武器は位相空間に収納する技術が確立されている)溜息をつく春樹と涼しげな表情の灯華。
「今度的になってくれたお礼するから」
「あ、ありがとう。楽しみにしてるよ……」
春樹の心臓は今だ早鐘を鳴らしていた。
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それから再び魔法関連の授業を受け、帰宅時刻となった。
義之たちは揃って帰宅部、寄り道をして帰るいつもの通りの道を通る。
三原市の中心街はデパートなどはないがゲームセンターやショッピングモールなど学生が暇を潰すには申し分のない娯楽施設が充実している。
学園からもそう遠くないため帰宅時刻ともなると学校帰りの生徒が多く目につく。
大通り222号線沿いは先ほど述べた娯楽施設が左右の通りに軒を連ね、三原市の財政に貢献している所だ。
特にどこに入るでもなく義之たちは駄弁りながら通りをブラブラしている。
ふとゲームセンターを義之が覗くと薄い緑色の作業着を着た中年の男が熱心にクレーンゲームをしていた。
そして、その男をカメラが向けられており何かの撮影をしているようだ。
(もしかして……)
深夜にテレビを点けた時そっくりな男がゲームをただクリアするだけの番組が入った時のことを思い出した。
(この街にも来たのか)
その番組、ロケで地方のゲームセンターを取材するコーナーがありその撮影ではないかと義之は思った。
田舎者の義之にとって芸能人や有名人など大して興味がないので間近で見ても「へぇ、来たんだ」くらいの感想しか浮かばない。
(こいつらに話すとうるさいから黙っておくか)
義之の前を歩く3人に視線を移し、歩みを進めた。
いきつけのファーストフード店に入り、各々財布の中身と相談しながら注文をする。
とは言え、安上がりのポテトとドリンクのMサイズを全員が注文した。
「そういえば、最近気になってたんだが。灯華のしゃべり方変わったな」
「ん~、確かにそうだね。高校に入ってからじゃない?」
「私も気になってた。ちょっと冷淡というか静かなしゃべり方になったなーって」
3人の疑問に灯華はポテトを一つまみ口に放り込んでモグモグした後に答えた。
「その……高校生になったから冷静なしゃべり方の方がかっこいいかな……って思って」
返って来た返答に刹那沈黙が流れる。
「あー……なるほど……つまり灯華は痛い子ってわけだね」
義之には覚えがあった、何かのアニメやマンガの設定に憧れてそれを現実に持ち出してしまうような人がいることを。
灯華は昔から何かと影響を受けやすい子だった、ある日の休みによく4人で遊んでいた公園で木の棒を振り回して何かのゲームの技名を大声で叫んでいたことがあった。
彼女の姉がゲーム好きで横で灯華が見ていて影響されたと後に判明したのだが、成長するにつれて除々にそういったことをやらなくなっていった。
『高校』という新たな変化に伴いかつて発症した病が再発したのだろう。
「悪い?誰にも迷惑かけてないからいいでしょ!!フカー!!」
と、開き直り猫が喧嘩を売る時のようなポーズで春樹を威嚇した。
「いや、僕たちが恥ずかしいから止めて?とりあえずフカー!止めてね?」
「まぁいいんじゃない?見てて面白いし」
「みなせ!私は見せ物じゃないわよ!右手でその幻想を打ち壊すわよ?」
「灯華、さすがに痛いから止めろ」
ポテトをパクつきながら義之が言った。
灯華はこの事で機嫌を損ねたようで始終プリプリしていた。
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午後5時を少し回った、義之は家のドアを開ける。
鍵は開いている、家に入ると夕げの匂いが義之を包んだ。
「ただいま」
パタパタとスリッパが転がる音が聞こえ奥からエプロンを着けた女の子がやってきた。
「おかえり、義兄さん」
義妹の山吹美奈都、今年の3月からこの家に来ている。
美奈都の両親は海外出張で今はヨーロッパ、親戚のよしみで河野家で預かることになった。
彼女が中学を卒業するまでという条件で河野家に居候中、そして河野家も一つの条件を出した。
河野家も今月から出張で両親が家を空ける、そこで義之の面倒をみてもらうということを河野家は条件として出した。
この話し合いの結果は同席していた義之と美奈都も了承し(美奈都は今にも泣き出しそうだったが)決められた。
来た当初は人見知りな性格でなかなか慣れずまして年頃(当時中学1年生、今は中学2年生)の女の子が男子中学生(当時)と生活するというのは彼女にとって耐え難いものだっただろう。
それも2ヶ月もすると慣れて今はこうやって普通の会話ができるまでになった。
「この匂い、今日はシチューか?」
「うん。あ、綾音来てるから適当に相手しててもらっていい?」
島村綾音は美奈都の一番の親友、おバカだが友達思いな子だ。
何度か顔を合わせたことのある義之とは仲はいい方で見知らぬ土地で寂しい思いをしたであろう美奈都にとってはありがたい存在だろう。
リビングに行くと綾音がテーブルで何かをしている。
「よ、いらっしゃい」
「ちーっす、お邪魔してまーす」
とニヒヒな表情をして義之のあいさつを返す綾音。
どうやら宿題をしているようだ、数学の方程式がノートに書かれている。
「宿題か」
「そうそう、美奈都先生は宿題写させてくれなくって」
「写したら宿題の意味ないだろ。シチュー食わせてやるから頑張れ」
キッチンで鍋をかき回しながらそう言う美奈都
「おお!!さすが美奈都様!!この島村綾音どこまでお供します!!」
と、美奈都と綾音のやりとりを聞いて思わず義之は笑ってしまった。
「本当にお前たちは仲いいんだな」
「でしょでしょ?美奈都は私の公認親友だもん」
「いや、それ普通に親友でいいじゃん」
普段は口数の少ない美奈都も綾音と話す時はいつも以上に言葉を返す、いい傾向だなと義之は思った。
シチューを軽く一杯平らげ、綾音は帰宅することに。
夕食の後片付けをしている美奈都の代わりに義之が綾音を玄関先まで見送ることに。
「んじゃ、また来るから」
「うん、またな」
「そうそう、美奈都ってけっこう淋しがり屋だからなるべく一緒にいてあげてほしいな」
「ああ、わかってる。島村が帰った後はいつも元気ないからな」
「あーやっぱり?あまり本心言わない子だからねぇ……付き合い短いけどそこんとこはすぐわかっちゃったもん」
うーむと腕を組み唸る綾音、彼女の話によると中学2年に上がり初めてこっちの中学に来た時、大抵一人でいることが多かったらしい。
それを見かねて綾音は美奈都に声をかけたようで、それがきっかけで今では冗談を言い合える仲になったらしい。
「そうか、ありがとうな。島村が声かけてくれなかったら一人ぼっちだったかもな」
「うんうん、一人ぼっちは寂しいもんね。だから私もなるべく一緒にいるようにしてるんだ」
おバカだが友達思いの優しい子、冗談やおふざけばかりしているが気配りを欠かさない、義之にはできないことをやっている綾音に義之は感心した。
「これからも頼む、俺もなるべく一緒にいて話をするようにする」
「了解、頼まれました!!んじゃ今度こそまたねー!!」
と、手を振り踵を返して綾音は帰っていった。
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それから少しリビングで美奈都と話をして自室に上がった。
綾音と約束はしたものの、なかなか会話が続かない。
義之が質問をしてそれを返すが美奈都から話すことはなかった。
ベッドに転がりながら考え込む義之、考えてみれば慣れたとはいえ長い時間一緒にいることはなかった。
短い時間なら普通に会話できるがそれ以上は今の美奈都にはできないのだろう。
(仕方ない、ゆっくり慣れてもらうしかないか・・・)
と事態の保留を決定し思い出した尿意にトイレに一階に下りる。
階段を降りリビングを横切り洗面所のドアを開ける。
ここに来て、義之はとあることを失念していた。
今まで彼は一人っ子だった、よって洗面所のドアをノックなんてする習慣なんてなかった。
しかし、今は違う。
この河野家には今思春期真っ只中の女の子が居候している。
洗面所のドアを開けると、シャンプーの香りが立ち込めバスタオル一枚を羽織った美奈都が今まさに下着を穿こうとしているとこだった。
中学生にしては大きめな胸にスベスベな肌義……之の未体験な光景がそこには広がっていた。
「……」
頭が真っ白になった、思考が停止し美奈都の聞いたことのない悲鳴に反射的にドアを閉めた。
「ごごごごごめん!!その、あの……とにかくごめん!!」
脱兎の如く、義之は洗面所を脱出した。
数分後、リビングで戦々恐々していると綾音がパジャマに着替えてきた。
顔は真っ赤でのぼせたんじゃないかというくらいだ。
「その悪……かった」
「もういいよ、気にしてないから……」
うつむき加減で美奈都は答えた。
「今度からは気をつける、入浴中とか壁掛けのボード買ってくるか」
「うん、そうだね。私も義兄さんがお風呂入ってる時にドア開けるかもしれないし」
どうやら事なきを得たようだ、義之はホっと胸をなでおろした。
「じゃあ、明日にでも買ってくる」
「義兄さん、今日はごめん」
と、謝るのは義之の方なのだが……と思いキョトンとしてしまう。
「さっき、私と話しようとしてくれたのに全然話せなくて……義兄さんが私が寂しくないように気を使ってくれてるのはわかってるんだ。
それなのに、何も話できなくて……」
美奈都も気にしていた、そして悩んでいた。
それを知って義之は胸が熱くなった、それは美奈都が初めて本心を話してくれたことに対する喜びだった。
「それは気にしなくていい、これからゆっくり慣れていけばいい」
そう言って、義之は美奈都の頭を撫でた。
ほとんど無意識だった、ビクっと美奈都は身体を振るわせたが黙って撫でさせた。
「まずは第一歩、これくらいなら大丈夫だろ?」
「うん……」
少しではあるが、義之と美奈都の距離は縮まった。
これからの生活、楽しくやっていけそうだと思った義之であった。
はい、ようやく1話を完全うpできました。
長いですね・・・わっちは文字書くと長い話はホントに長くなってしまいますからね・・・
あと、小説を上げる時はジリジリうpしていくのでこまめに読んでくださいね。
それでは~(>ω<)