第1話
「明日は土曜だ。一週間お疲れ!解散!」
そういって担任が出て行くと教室はとたんに喧騒に包まれる。
「悟」
名前を呼ばれて振り向くと幼馴染がいた。
「なんだ麻由美」
「明日一緒に遊ぼうよ。見たい映画があるの」
「悪いな矢野間、明日武田は俺の貸切だ」
太い声のした方を見るとガタイのいい男が立っていた。
ちなみに俺が武田で、麻由美が矢野間。
「貸切って、悟と寺瓦君そういう関係だったの!?」
「違う!鉄男に稽古つけてもらうだけだ!」
なにを想像してるんだこいつは。
「そういえば寺瓦君の家は道場だったっけ」
「ああ、空手と柔道と剣道教えてて、門下生も結構いるんだぜ」
「実用的なことで結構有名だから週一で稽古つけてもらってるんだ」
同学年のやつは大抵知ってるんだがな。稽古がキツイことでも有名だし。
「じゃあ映画は無理だね。残念」
「いや、午後からなら大丈夫だぞ。なあ、鉄男」
「そうだな丸一日やると疲れるしな」
疲れるで済むのは鉄男だけで俺は立つのも辛いぐらいなんだがな。
「で、何を見に行きたいんだ?」
「んっとねー、これ!」
麻由美が取り出した雑誌の指差す先には有名アクション映画の3作目の広告が載っていた。
「1と2はテレビで見たし一緒に行くか」
「俺も行っていいか?」
「いいけど、寺瓦君ってテレビとか映画とかあんまり興味無いと思ってた」
「アクションは結構見るぞ。わりと参考になるし」
「お前アクション映画みたいな動きできるのかよ……」
少し呆れながら荷物をまとめて教室を出た。
◆◇◆
「ね、明日の稽古ってどこでいつからいつまでやるの?」
帰り道でも話題はそれだった。帰り道と言ってもこの学校は全寮制なのであってないようなものだ。
「学校の武道館を借りて大体8時から11時までの3時間やってる。でもいつまではともかくどこで、いつからなんて聞いてどうするんだ?」
「稽古って具体的になにやってるのか見に行こうかなって思って」
「矢野間もやってみるか? いい運動になるぞ」
「へーどうしよっかなー」
「やめとけ、麻由美が稽古なんかやったら冗談じゃなくぶっ倒れるぞ。俺も最初の内は2時間で立てなくなったからな」
「……本当に?」
「そういえばそんなこともあったな。武田は2時間もったが門下生の多くが1時間でグロッキーになるぞ」
「……見学だけにしとくよ」
「そうしとけ」
そこで寮についた。当たり前だが男女別だ。
「じゃ、明日8時に武道館でね」
「おう、じゃあな」
「じゃあな武田、矢野間」
そう言って麻由美と鉄男と別れる。
そんな日常が続くと思っていたのに。