第10話
俺は今にも雨が降り出しそうな曇天の空を教室の窓から眺めていた。
その日も嫌な予感がしていてあまり返りたく無かったが、今日は傘を持ってきていないから今の内に帰らないと濡れてしまう。遅くなって母さんを心配させたくも無かったので、しぶしぶながら家路に着いた。
正直に言えば帰りたくないのは嫌な予感がしていたからというだけじゃない。
最近父さんは夜遅くに酒と香水の臭いをプンプンさせながら帰ってくる事が多くなった。
母さんは父さんの浮気を疑ってピリピリしてるから居心地が悪い。
でも、うちに限ってそんな事あるわけない。きっと父さんも会社の付き合いで遅くなってるんだ。
そのときは心からそう思っていた。
結局雨に振られてしまい、少しだけ濡れてしまった。風呂に入るほどではないが、着替えた方が良いかもしれない。
「ただいまー。あれ? 電気ついてない」
まだ夕方とはいえ外は雨が降っている。足下がおぼつかないほど暗いにもかかわらず電気はついていなかった。
ランドセルを玄関に置いて、リビングに向かい電気をつける。
止めておけば良かったのに。
暗くて良く分からなかったがリビングには父さんが居た。
「父さん。今日は早かったんだね。なんで電気もつけず、に……」
そこで気付いた。気付いてしまった。
父さんの足下にお腹から包丁を生やした母さんが倒れている事に。そして父さんの両手が赤黒く染まっている事に。
「かっ、母さん! 冷たい!?」
慌てて母さんに駆け寄るが、母さんの体は氷のように冷たかった。
「父さん! 救急車は! それになんで父さんの手に血が」
「……全部、こいつが悪いんだ。浮気ぐらい黙って認めていればもうしばらくはままごとに付き合ってやったのに、馬鹿な女だ。友香の方が何十倍もいい女だよ」
「とう、さん?」
何を言っているのか分からなかった。
ままごと? 母さんとの生活が? 父さんが本当に浮気を? 友香って誰?
「折角有給取って友香とデートだってのに。ヒステリックに喚きやがって。こんなババァとっとと離婚しときゃ良かった」
これ以上に無いくらい混乱して、焦点も定まらない。でも、父さんが母さんを刺したって事だけは分かった。
「見られたんじゃ、お前も殺さないとな。母さんも一緒だから寂しく無いだろう」
そう言って父さんに首を締め上げられた。
死にたくなくて、無我夢中で、そんな時、母さんに刺さっていた包丁が手に触れて。
気付いた時には転がっている死体が2体に増えていた。




