1.生徒狩り
世界は秩序を守ろうとはしない。その場の空気に合わせて生きている人間。みんな消えてしまえばいいんだ。人間という生き物は窮地におとしめ入れられた時、自我を捨て自分の事しか考えない動物になる。最悪は、仲間をも犠牲にしてしまうケースも少なくはない。でも、それでいいんだ。それが生きていくということなのだから。そうでもしないと生きてなんていけない。それは誰だってそうである。皆、同じなのだ......。
それは密かに進められていた「実験」であった。2000年代からの学力低下は凄まじい結果となった。それからの政府は学力向上のため様々な手を尽くし努めていた。しかし、結果はついてこなかったのである。2010年.....ついにその失態が日常生活に現れるのであった。
「それで、いつ遊びにいく?」
そう彼女は言った。正直言って少しめんどくさかったのだが、それを心に抑えて応じた。
「俺はいつでもいいけど....楓はどうなんだ?」
自分んで答えるのがめんどくさいので、とりあえず聞いてみた。秋野 楓 (あきの かえで)という女子中学生は、いつも気分上々でとにかくうるさい女だった。
「ねぇ、双夜〜。ちゃんと考えてる?」
丁度、机の真ん中に手をつき少年の逃げ場をなくした。夏平 双夜という少年は、少し背が低くかわいい一面もあるのだが、基本的には面倒くさがり。
「考えてるって。まぁまぁ」
早く席につけよと思いながらも応じてみた。そう、今は学校にいるのだ。時間的には朝のホームルームが始まるちょっと前ぐらい。正直言って朝には弱い。
「そろそろ席につけよ」
担任の藤谷 信吾先生が鳴り響く鐘と共に教室に入ってきた。楓は顔をしかめながらも席に着いた。
「じゃあ、また後でね」
「へいへい....」
しばし安堵しながら一時間目の教科書を出そうとしたときだった。
「みんな、見てくれ」
藤谷がそういった。クラス総勢35名全員が藤谷の方へと視線を向けた。その直後に、藤谷はテレビのリモコンを手に取り、電源をつけた。
「何だよ〜、面倒くさっ!」
ある生徒が大きなあくびをしながら、大口をたたいた。
「黙って見てろ!!」
藤谷の声が教室中に響いた。全員が驚いたような顔をしながらテレビの方へと視線を向けた。それは具合が悪くなるほどの沈黙だった。
「ただいま8時20分より、学力向上生徒狩り法が可決いたしました。」
生中継のニュース番組だった。どうやら、新しい法が可決されたようだ。双夜は実際のところ、このニュース番組が何の事を言っているのか分からなかった。
「本法が実行される最初となる実験場所は、慶安中学校です」
ー 俺の中学校だ。
双夜が、半開きした口をすかさず閉じた。クラス全体が、ざわざわとした空気になった。
「つきましては、3-1の藤谷教師に説明を受けてください」
一瞬の間が出来た。藤谷が口を開こうとしたときだった。
「学力向上生徒狩り法って何なんだよ!!」
また生徒が口出ししてきたのである。そうすると、藤谷がため息をつきながらポケットに手を入れた。
「お前は、残念ながら法に触れている..。だから.......」
ポケットの中から取り出したのは、鋭利な果物ナイフだった。それを、笑いを含んだ顔の藤谷が生徒の方へと向けたのである。
「お前は「八つ裂きの刑」だ。.....安心しろ、命だけはとっといてやるから」
そう言った瞬間、いきなり生徒へと近づいてきた藤谷がナイフをその生徒の腹部へと突き刺した。
「う、うわぁああぁっぁぁ!!!!」
生徒は人間と思えないほどの悲鳴を上げた。他の生徒もまた同じである。大量の血が一気に飛び散る。動揺を隠せない。吐き気がする。
「な、何なんだよ......これ」
思わず声を発してしまう双夜。それを仇なすかのように、今度は腕にナイフを突き刺す。ズシッという鈍い音がしたのを楓が感じ取った。
「ふぅ、腕切断しちゃったか...」
床を見るとトクトクと流れ出る生々しい赤が、見覚えのある腕から流れ出ている。それを見てしまった、他の生徒には思わず嘔吐してしまう者や、教室から出ようとする者がいた。しかし、教室は何らかの力によってキツく閉じられていた。
「開けろ、開けろ!!」
双夜もまた同じように開けようとしたが扉は閉じられたまま。乱々とした生徒たちは、まだこれが序章に過ぎなかったという事を知らない。本当の悪夢はこれからなのだ。
「さぁ、授業を始めるぞ」
赤く染まった教室で「生徒狩り」が始まったのである。
見ていただきありがとうございます。
今回は、「荒れ狂う人間」というのをテーマに作成しました。
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by,dairi-