041 救援
「ぐぁあああああああ!」
「ひぃぃぃぃ、無理だぁあああああ!」
王都側のパーティーは、大半が戦意を喪失していた。
勇者も冒険者も、筋肉派も回復派も関係ない。
圧倒的な数を誇る魔物の前に、手も足も出なかった。
「セリアン、もっと広範囲に魔法を使え!」
「やっているわよ! でも、これ以上は無理!」
そんな中、〈ブラッディ・ナイトメアーズ〉は諦めていなかった。
王国最強の勇者パーティーとして、先頭に立って戦う。
ラグナスは味方に指示を出しながら、攻撃魔法と剣術のコンボで敵を圧倒する。
「おい、回復しろ!」
グレイドの怒声が飛ぶ。
彼は戦士のスキルを使い、敵を引き付けていた。
魔物の軍勢をここで足止めできているのは、ひとえに彼のおかげだ。
その代償として頻繁な回復が必要になるのも仕方ない。
しかし――。
「うっ……もう……」
メインの回復役を務めるフィオナは限界に達していた。
地面に突き立てた杖にしがみつくのが精一杯だ。
そんな状況でも、必死に回復魔法を連発していた。
「ひ、〈ヒール〉!」
もう一人の聖女、クラリスも回復魔法を使う。
だが、彼女の魔法は回復力が低く、この激戦では焼け石に水だ。
「みんな! 大丈夫だ! 俺たち〈ブラッディ・ナイトメアーズ〉を信じて諦めるな! 攻勢を強めろ!」
ラグナスが他のパーティーに向かって叫ぶ。
だが――。
「無理だ……」
「数が違い過ぎる……」
「質も向こうが上だ……」
今回のスタンピードは、普段よりも過酷だった。
異常増殖した魔物は、どれも強力なタイプばかりだったのだ。
「これは、ネオ・スタンピードだな……」
斥候のノアールが矢を射かけながら呟く。
「ネオ・スタンピードって何だよ!?」
グレイドが大剣を振り回す。
「この現象のことだ。通常のスタンピードと違い、ランクの高い魔物が増殖する。書物によれば、数百年前に発生した際は、人類を滅亡寸前まで追い詰めたそうだ」
「そんな物騒なもんがこの国で起きたっていうのかよ! つか、回復が遅れてるぞ! 早くしろ、フィオナ! 俺を殺す気か!」
「ご、ごめん、グレイ……ド……」
次の瞬間、フィオナが倒れた。
回復魔法の反動が限界を超えたのだ。
「「「フィオナ!?」」」
ラグナスたちが叫ぶ。
「おいおいおい! フィオナが倒れたら俺たちだって耐えられないぞ! ラグナス!」
「ラグナス、フィオナを連れて撤退しましょ! 無理よ!」
グレイドとセリアンがラグナスを見る。
「俺も二人に賛成だ。クラリスの回復だけでは維持できない」
ノアールはフィオナを抱える。
「だが、ここで俺たちが撤退すれば、他のパーティーは全滅し、魔物が王都を襲うぞ……」
ラグナスの言うとおりだった。
逃げたところで、待っているのは地獄だけだ。
「じゃあ、どうすればいいんだよ……」
グレイドが弱気になる。
まさに絶体絶命の状況で、誰もがなすすべを失っていた。
そんなとき、一人の女が現れた。
「よく粘りましたね、ラグナス」
そう、私だ。
「「「ミレイユ!」」」
皆が叫ぶ。
「ここは私が引き受けます。あなたたちは他のパーティーとともに撤退し、態勢を立て直しなさい」
「おい、ふざけんじゃねぇぞ、筋肉女!」
グレイドが怒鳴る。
「ふざけているのはあなたです、グレイド」
「なんだと?」
「あなた流に言うと、『ザコはしゃしゃらずに引っ込んでいろ』ということです」
「お前……!」
「戦場では強い者が偉そうにしていい……それがあなたの理念のはず。そして、あなたは私よりも遥かに弱い。わかったら下がりなさい」
「ぐっ……」
グレイドは言い返さなかった。
「ミレイユ、すまない――皆、撤退だ! この場はミレイユに任せろ!」
ラグナスは撤退の指示を出した。
「ミレイユ、大丈夫なの? あなたが前線にいてくれるなら、私は安全に援護できるから残れるわよ?」
セリアンが心配そうに私を見る。
「問題ありません。〈ブラッディ・ナイトメアーズ〉を追放されたあとも、私は筋トレを怠っていませんから。今の私なら、この程度の敵は一人で十分です」
「グオオオオオオオオオオオ!」
話していると、ミノタウロスが襲いかかってきた。
巨大な斧を私に向かって振り下ろす。
しかし、その斧が私を真っ二つにすることはなかった。
「遅いですね。筋肉不足ですよ」
私は敵の斧を左手で掴み、刃を握りつぶした。
「ブォ!?」
「これだけ距離が詰まっていると、手刀による風の刃は仲間に当たるので使えません。なので、あなたを武器として使わせてもらいましょう」
私はミノタウロスの足首を右手で掴んだ。
全長五メートル級の牛頭巨人は、武器に最適だ。
「ふんッ! えいやッ!」
ミノタウロスを振り回し、他の魔物をなぎ倒していく。
「巨大な敵を軽々と……」
「すごい、Aランクの敵がスライムのようにあっさり倒されていく……」
「あれが筋肉聖女の実力か……」
「〈ブラッディ・ナイトメアーズ〉ですら比較にならない強さだ……」
撤退中のパーティーが私を見て感嘆している。
グレイドは悔しそうに舌打ちしていた。
「もっと頑張らないと、私に返り血すら浴びせられませんよ」
私は淡々と魔物を減らしていく。
二万体の軍勢が、見る見るうちに崩壊する。
あっという間に一万を下回り、そして――。
「これでラストです!」
逃げようとしていた最後の一体を仕留めた。
「いい運動になりましたね」
私は額に浮かんだ汗を腕で拭った。
思えば汗をかいたのは久しぶりのことだ。
「あれが……今のミレイユか……」
「俺たちと一緒だった頃よりも格段に腕を上げていやがる……」
ラグナスとグレイドが呟いている。
「おい、見ろ! 森の色が元に戻っていくぞ!」
誰かが叫んだ。
その言葉どおり、前方の森が紫から緑に変わる。
スタンピードが終わったのだ。
「もう終わりですか。思ったよりも早く済みましたね」
スタンピードは、一週間以上の持久戦だと聞いていた。
しかし、蓋を開けてみればわずか一日で決着だ。
「さて……」
私は振り返った。
ラグナスをはじめ、その場の全員が静かに私を見ている。
どうやって駆けつけたのかは知らないが、ペンネの姿もあった。
馬より速く移動する手段を、彼女も持っているようだ。
化け物かな?
とにかく、勝ち鬨をあげるとしよう。
私は拳を突き上げて叫んだ。
「筋肉的勝利です!」
「「「うおおおおおおおおおおおおおおお!」」」
場が熱狂に包まれ、「筋肉! 筋肉!」と誰もが叫ぶ。
筋肉コールは、しばらくの間、鳴り止まなかった。
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