038 作戦会議
野営地の連中が一カ所に集まる。
皆が視線を向けるその先に、〈ブラッディ・ナイトメアーズ〉の面々がいた。
ラグナスが先頭を歩き、グレイド、ノアール、セリアン、フィオナ、クラリスと続く。
ラグナスの顔色は、前に会った時よりも良くなっていた。
グレイド、ノアール、セリアンも自信に満ちた顔をしている。
クラリスはおどおどしているが、まだ馴染んでいないのだろう。
聖女フィオナは――。
「フィオナさん、そろそろ二度目の休養離脱がありそうですね」
――今にも死にそうな顔をしていた。
化粧を厚くし、作り笑いで隠しているが、私の目はごまかせない。
足取りもおぼつかず、時折、杖で地面を突いて体を支えている。
かなり無理をしている様子だ。
「そうなの? 私にはわからないけど。とにかく、撮影しておかないと! せっかくキャメラを持ち込んだわけだし!」
ペンネが〈ブラッディ・ナイトメアーズ〉のもとへ駆け寄っていく。
よほどテンションが上がっているようで、「カメラ」を「キャメラ」と言っていた。
「あれが〈ブラッディ・ナイトメアーズ〉か!」
「やっぱり本物は風格があるな!」
「二人の聖女を従えるなんてたまんねぇぜ!」
「彼らは回復派の象徴だ!」
「筋肉派がどれだけイキっても、最後にモノをいうのは回復だ!」
聖務庁の考え方を支持する「回復派」の者たちが勢いづく。
大半が勇者だが、中には冒険者も含まれていた。
(絡まれたら面倒だし、私は戦いが始まるまでテントに避難しておこう)
そう思ったときだった。
「師よ、筋肉の万能性を証明するときがきたな」
どこからともなく騎士のレオンが現れた。
さすがはストーカー、今回も当然のような顔をしている。
私も当たり前のように受け入れていた。
「そうですね。ところで、あなたは騎士でしょう。どうしてここに?」
ここにいる戦力は冒険者と勇者だけだ。
騎士は都市に留まり、最終防衛ラインとして街を守るものだ。
「師の全力戦闘を拝見できる機会はめったにない。見過ごすわけにはいかないと思った」
「つまり、騎士の仕事を放り出してきたわけですね」
「それは誤解を招く表現だ。私は休暇申請を出して承認されている」
「……そうですか」
とにかく、レオンは私と行動を共にするようだ。
彼の戦闘力は本物だから、いても邪魔にはならないだろう。
◇
私は自分のテントで休む予定だった。
わざわざラグナスたちと顔を合わせても、不毛な時間を過ごすことになるからだ。
しかし、ラグナスがそれを許さなかった。
作戦会議に呼び出されたのだ。
そのため、「作戦本部」と銘打った大型テントで対面することになった。
「ミレイユ、ようやく来たか」
私がテントに入るなり、ラグナスが口を開いた。
「お待たせして申し訳ございません。まさか呼ばれるとは思っておりませんでした」
その場には、〈ブラッディ・ナイトメアーズ〉のほかに、四組のパーティーがいた。
どうやら各領地の代表を集めたようだ。
〈ブラッディ・ナイトメアーズ〉は王領の代表で、私は子爵領の代表という扱いだろう。
「久しぶりじゃねぇか、筋肉女。田舎で調子に乗っているらしいな!」
グレイドが威勢のいい声で話しかけてくる。
近頃の戦果が良いのか、その表情には余裕があった。
「久しぶりですね、グレイド。今でも筋トレを欠かしていないようで安心しました」
「はぁ!? き、筋トレなんざしていねぇよ! 嘘つくんじゃねぇよ! 殺すぞ!」
グレイドが慌てた様子で否定する。
私の追放以降、筋トレをしていないという設定なのだろう。
だが、彼の肉体を見れば、最低限の筋トレをしていることは明らかだ。
私の目は、重厚な鎧の内側をも見通す。
とはいえ、口論をしても時間の無駄だ。
私は「そうですか」と流した。
「雑談はあとにして、作戦会議だ」
ラグナスが仕切り、私たちは大きな木の机を囲んだ。
机には周辺の地理を詳細に記した地図が置いてある。
「知っているとは思うが、スタンピードで発生した魔物は最寄りの集落を襲撃する。しかし、今回は場所が悪く、最寄りと呼べる都市が二つある。一つは王都、もう一つは公爵領のヌーベルダークだ」
私は地図に目を落とした。
ラグナスの言うとおり、王都とヌーベルダークは似たような距離にある。
「森のどこを起点とするかによって、魔物の標的が変わりますね」
私の言葉に、ラグナスは「そうだ」とうなずいた。
「森の魔物を10とした場合、王都とヌーベルダークに分かれる戦力の割合は6:4か7:3といったところだろう」
誰も異議を唱えない。
私もラグナスと同じ感想を抱いていた。
「では、こちらも戦力を分ける必要がありますね」
「そういうことだ。ここに集まってもらったのは、どう分けるかを決めるためだ」
「王道と邪道で分けたらいいんじゃねーの?」
グレイドが笑いながら言った。
王道とは回復派のことで、邪道とは筋肉派のことだろう。
「その分け方では、王都側の戦力が手薄になる。勇者パーティーより冒険者パーティーのほうが圧倒的に多いからな」
「では、領地ごとに分けるのはいかがですか?」
さっさと済ませたいので、私は積極的に提案した。
「領地ごととは?」
「例えば、公爵領で活動しているパーティーはヌーベルダーク方面……といった形です。これなら調整しやすいのではないでしょうか」
「なるほど、それは名案だ。採用しよう」
ラグナスは、あっさり私の意見を取り入れた。
彼自身、あらかじめ同じ案を考えていたのだろう。
先に周りの意見を聞いてから、結局、自分の意見を採用する――。
それが、ラグナス・ヴァレンという男のやり口だ。
「問題はどう振り分けるかだ。王領のパーティーは王都、公爵領のパーティーはヌーベルダークでいいとして、残りはどうする?」
「筋肉女、お前はヌーベルダークで決定だからな! お前と肩を並べて戦うなんざ、俺は認めないぞ!」
グレイドが吠える。
「よろしいのですか?」
「なんだと?」
「肩を並べたほうが、どちらが上か皆に証明できますよ?」
私が微笑んでみせると、グレイドは視線を泳がせた。
「追放された分際で偉そうな口を利いてるんじゃねぇよ!」
「肩を並べて戦うかどうかはともかく、ミレイユはヌーベルダーク方面が望ましいだろう」
ラグナスが口を挟む。
「よろしいのですか? 私と一緒なら、王都側は〈ブラッディ・ナイトメアーズ〉だけで対処できますよ。そうすれば、残りの戦力はすべてヌーベルダークに配置できます」
純然たる事実を告げる。
すると、フィオナが舌打ちして睨んできた。
光環正教の敬虔な信徒なので、私を敵視しているのだ。
クラリスも似たような目で見てくる。
「ミレイユ、そういう驕り高ぶった発言は控えてもらおう」
「別に驕り高ぶっているわけではございません。では、皆様にとって現実的と思える内容で、筋肉的証明をしてみましょう――ヌーベルダーク方面は、公爵領のパーティーと私だけで十分です」
「「「なっ……!?」」」
その場の全員が驚いた。
「詳しく調べてはいませんが、公爵領のパーティーだけで野営地にいる冒険者の約二割に相当するはずです。なので、戦力配分はざっくり8:2となります」
「子爵領の他のパーティーも連れていったらどうだ? それで7:3くらいにはなるだろう」
「いいえ、なりません。なぜなら、子爵領の冒険者は私しかいないからです」
「「「なんだって!?」」」
またしても全員が驚く。
「子爵領では現在、都合のつく冒険者がまったくいません。ですから、私がこうして参加しているのです」
「ふざけた話だな」とラグナス。
「それはさておき、戦力配分に関しては、公爵領のパーティー全員と私をヌーベルダークに配置するということでよろしいですか?」
「かまわんが、それでヌーベルダークに被害が出れば……」
「もちろん、私の責任にしてくださってかまいません」
「なら文句はない。他に意見がなければ、これにて作戦会議を終了とするが、どうだ?」
ラグナスが皆の顔を見る。
皆はうなずくだけで、何も言わなかった。
「決定だな。では、公爵領の冒険者パーティーとミレイユは、速やかにヌーベルダーク方面への移動を開始すること! 解散!」
「じゃあな、筋肉女!」
グレイドが大股でテントの外へ向かう。
「グレイド、体幹も鍛えるのですよ。あと、下半身の筋肉を疎かにしているのもよろしくありません」
「うるせぇ!」
グレイドに続いて、私たちもテントを出る。
その足で野営地を去ろうとしたが――。
「ミレイユ、待ちなさい」
――背後から声をかけられた。
振り返ると、そこにはフィオナが立っていた。
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