036 次善の手
「ペンネさん、前から言おうと思っていたのですが、私は〈ブラッディ・ナイトメアーズ〉に関心を持っていません。ですから、鼻息を荒くして彼らに関する情報を持ってこられても――」
「新しい聖女がパーティーに入ったんだって!」
ペンネは私の言葉を遮り、駆け寄ってきた。
「新しい聖女?」
私の反応を見て、ペンネがニヤリと笑う。
「お? 興味を持った?」
「今回は少しだけ。フィオナさんは抜けたのですか?」
「いいえ、追加でもう一人パーティーに入れたんだって!」
ペンネが新聞を渡してきた。
見出しは『二人の聖女と再び栄光へ!』とあり、たしかに新たな聖女の加入について取り上げていた。
新たな聖女の名は、クラリス・メーヴェル。
記事には写真が掲載されており、なんとも可憐な少女だ。
「守ってあげたくなる」という表現が似合うタイプである。
「うわぁ! すっごい可愛いですね! まさに聖女って感じだ!」
カイが記事を覗き込んで声を弾ませる。
「カイ、私は『まさに聖女』って感じではありませんか?」
「あ、いえ、その……」
「ふふっ、冗談ですよ」
私は記事をさっと流し読みした。
クラリスは、聖女になりたての新人らしい。
今回が初のパーティーとのことで、実戦経験は皆無だ。
フィオナのサポートがメインになるようだ。
「フィオナの酷使によって、聖務庁と〈ブラッディ・ナイトメアーズ〉の関係が悪化したかと思いきや、そんなことなかったみたいね! がっつり補強してきたわ!」
ペンネが私を見る。
その顔には、「何かいいコメントをちょうだい」と書いてあった。
「行政院が力をつけてきているから、聖務庁も必死なのでしょう。〈ブラッディ・ナイトメアーズ〉は今でも王国を代表するパーティーですから」
「ミレイユ団長の推測では、今回の補強は行政院との権力争いが関係しているってことね?」
ペンネがペンと手帳を取り出す。
「そう思います。私以外の聖女を使い潰すことは光環正教が許しませんから、フィオナさんの件で、聖務庁と〈ブラッディ・ナイトメアーズ〉の関係は間違いなく悪化しています。それでも、メンツのために聖女の増員を認めたのでしょう」
前にラグナスが言っていた「次善の手」とはこのことだろう。
「ダブル聖女なら、〈ブラッディ・ナイトメアーズ〉の復権もあり得るんじゃない? すでに大きい依頼を一つ成功させているみたいだし」
ペンネが「ほら、ここ」と記事を指す。
王都の近くに現れた高ランクの魔物を討伐したという内容だ。
最近の失態とは異なり、今回は完璧な成果を挙げたらしい。
死傷者は出ず、近隣の建物も無事だったそうだ。
「常にこの成果を維持できるならそうですが、彼らは筋肉不足なので難しいと思いますよ」
「聖女を一人増やしただけでは、不足している筋肉を補いきれないってことね?」
「筋肉と違って、回復は守りにしか貢献しませんから」
「どういうこと?」
「ラグナスたちが全盛期……つまり、私がいた頃と同じような成果を維持し続けるには、攻撃力を高める必要があります。相手が少数であれば問題ありませんが、物量で押してくるタイプには対応できないでしょう」
「なら、術師も追加しちゃうのかな?」
「それは聖女の負担が増えるので難しいでしょう」
「そっかー。ま、ミレイユ団長の言うとおりなら、いずれ〈ブラッディ・ナイトメアーズ〉が失態をさらすことになるわね。その時がきたら、盛大に聖務庁を皮肉ってやるわ!」
「……私よりもペンネさんのほうが聖務庁を恨んでいますよね」
「あはは、たしかにそうかも! というか、ミレイユ団長が無関心すぎなのよ! 普通、自分を追放した連中が下手を打ったら『ざまぁみろ』って思うでしょ!」
カイが「たしかに」と頷いている。
「私には筋肉がありますから、彼らの失敗を願う必要がありません」
「え?」
「私が彼らより活躍すれば、それだけで彼らのメンツは丸つぶれになります。彼らや聖務庁の『筋肉より回復』という考えが誤りであることを、結果で証明するわけですからね」
「なるほど。実力でわからせるわけね」
「はい。だから、私はこれからも愚直に筋肉を鍛えて参ります。ノーマッスル・ノーライフ……筋肉こそ至高ですから」
私は新聞をペンネに返した。
「じゃあ、私はこれで失礼するわ! また面白いネタがあったら持ってくるから!」
「筋肉的に面白いネタでお願いしますよ。ラグナスたちの動向には興味ありませんので」
「本当に筋肉が大好きなんだから! ラグナスたちが呆れるのもわかるわ!」
なんとも失礼なセリフを吐き捨て、ペンネは上機嫌で去っていった。
「団長、一ついいですか?」
カイがタオルで顔の汗を拭く。
「なんでしょうか?」
「団長って、〈ブラッディ・ナイトメアーズ〉の中でも最強だったんですよね?」
「はい」
「なら、〈ブラッディ・ナイトメアーズ〉がパーティーとして挑む任務を、団長が一人でサクッとこなせば、それだけで筋肉のほうが上だと証明できるんじゃありませんか? 僕、団長なら可能だと思うんですけど……」
私は少し驚いた。
「カイ、あなた……頭の筋肉も発達してきましたね」
「本当ですか!?」
「ええ、今のは素晴らしい着眼点です。しかし、実務上、それは難しいものがあります」
「そうなんですか?」
「〈ブラッディ・ナイトメアーズ〉は主に王国政府の依頼をこなしているのですが、政府の依頼というのは不定期に発生します。いきなり『○○に魔物の軍勢が出現したので倒してくれ』といった具合に」
「団長の立場では、どんな依頼があるかを知ることすら難しそうですね……」
「そのとおりです。とはいえ、あなたの着眼点は間違っていません。もし〈ブラッディ・ナイトメアーズ〉と力比べができる機会に恵まれたら、そのときは盛大に活躍して、筋肉がいかに素晴らしいかを証明してみせましょう」
「団長が王国で一番の勇者パーティーと争う……それ、すごく見たいです!」
「まあ、そういう機会は易々と訪れるものではありませんけどね」
そう話した一週間後、予想外の事態が起きた。
なんと、〈ブラッディ・ナイトメアーズ〉と力比べをする機会が訪れたのだ。
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