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033 犯罪調査

 ラミレスを食い物にした偽〈筋肉応援団〉を潰すことにした。

 そこで私とイグナートは、三日もかけて港町ミラードにやってきた。


 道幅の狭い町なので、縦一列で歩く。

 私が先頭で、イグナートがその後ろに続く形だ。


「ミレイユ、策はあるのか? 仮に犯人を見つけたとして、ギルド協会を通さずに依頼を受けること自体に違法性はないぞ?」


「ですが、〈筋肉応援団〉の名を騙ることは違法です」


 ラミレスを騙した連中は、〈筋肉応援団〉のメンバーを自称していた。

 本当のメンバーなら合法だが、そうでなければ違法になる。

 そして、本当のメンバーは嘘をつく必要がなかった。

 だとすれば、連中が嘘をついていることに疑いの余地はないだろう。


「そうだな。で、見つけるための策は?」


「地道に聞き込みをして調べます。筋トレと同じですね」


 私は町外れの酒場にやってきた。

 ラミレスが愛用している店であり、ここで彼は騙された。


「ラミレスさんの言っていた特徴は、二十代半ばの青年四人組で、冒険者らしく武器を装備していたということです」


「髪の色も言っていただろ。リーダーの髪は赤で、他も青や緑といった派手な色だったと」


「そこは無視しましょう。髪の色はいくらでも染められます。顔を思い出しにくくするために、髪型や髪の色を変えるのは詐欺師の常套手段ですから」


「ずいぶんと詐欺師に詳しいんだな」


「いいえ、私はすべてに詳しいです。頭の筋肉が豊富なので」


 酒場は立地のわりに賑わっていて、昼間から多くの客がいた。

 朝の仕事を終えた漁師たちだ。

 全体的に年齢が高く、大半が常連客だろう。

 ということは――。


「これは思ったよりも早く見つかりそうですね」


 私はにやりと笑った。


「どういうことだ?」


「この中に二十代の若者が紛れ込めば、それだけで目立ちます。ラミレスさんは相手の髪に気を取られて顔を覚えていなかったようですが、他の客もそうとは限りません」


 私は〈マッスル・フォーカス〉を自分にかけ、聞き込みを開始した。

 その結果――。


「ラミレスの奴、騙されたのかよ!」


「金にがめついからそういうことになるんだ!」


「素直にギルド協会を通して依頼していればいいのにな!」


「ざまぁねぇぜ!」


 ――ラミレスが相当な嫌われ者だとわかった。

 どうやら彼は、漁師としては一流だが、人格に問題があるらしい。

 だが、そんなことは関係ない。


「ラミレスさんのことは好きなだけ嘲笑って結構ですので、何か知っている情報があれば教えてください」


 ひとしきりラミレスへの罵詈雑言を吐き散らしたあと、漁師たちは教えてくれた。


「一人は目の色が赤で――」


「背は大体このくらいで――」


「妙に耳たぶが小さくて――」


 彼らの情報をもとに、私は似顔絵を作った。

 客によって言うことが違うため、似顔絵はばらばらになった。

 しかし――。


「こんな感じでしょうか?」


「「「そうそう! こんな感じ!」」」


 私が似顔絵を見せると、皆が同じ答えを返した。


「よくわかりました。ありがとうございます」


 私は酒場での聞き取り調査を終えた。

 ついでだから、この酒場で喉を潤しておく。

 イグナートとカウンター席に座り、コーヒーを頼んだ。

 彼は真顔でイチゴミルクを注文した。


「ミレイユ、本当に大丈夫なのか? 連中の発言には一貫性が見られない。似顔絵の結果がばらばらじゃないか」


 私がカウンターに似顔絵の紙を広げていると、イグナートが言った。

 彼はイチゴミルクの入ったジョッキを両手で持ち、ストローで飲んでいる。

 何かの冗談かと思いきや、いたって真面目な顔をしていた。


「大丈夫です。一貫性もありますよ」


 私は似顔絵に次々と丸を付けた。

 絵によって、目や口など、指摘される部位が違う。


「この丸を付けた特徴を組み合わせた人物が、犯人グループのリーダーです」


 そう言って、新たな紙に似顔絵を描いた。

 浮かび上がったのは、まったく新しいタイプの顔だった。


「これが本当の顔です」


「どうして断言できる?」


「人は不思議なもので、曖昧な部分を曖昧であると認識するのが苦手です。そのため、曖昧な情報は脳が都合よく補完してしまいます。だから私は、『曖昧ではない情報』だけをまとめました」


「曖昧かどうかを判定する方法は?」


「目を見ればわかります。瞳孔が開く、瞬きが増える、ほかにも……いろいろな反応から情報を得ます。ラミレスさんのように、嘘をつくと黒目が一瞬だけ大きくなる人もいます」


「すごいな……。だが、今のところは机上の空論に等しい。その似顔絵が正しいかわからないからな」


「すぐにわかりますよ。それより、お隣の都市〈レイクドーン〉に移動しましょう。犯人はもう、この町にはいません」


「そんなことまでわかったのか?」


「この町の住民は平均年齢が高いため、若者が長居するには向きません。一方、レイクドーンは若者が多いです。もしまだこの辺にいるのであれば、レイクドーンに身を潜めているでしょう」


「いなければ?」


「その時は別の手段で見つけ出すだけです。私の筋肉からは逃れられません」


 私はコーヒーを飲み終えると、カウンターに代金を置いた。


 ◇


 夢の都レイクドーン――。

 数か月前まで小さな町だったが、今では都市に格上げされていた。

 現市長は商売上手で、特徴のない町をカジノタウンに変えたのだ。

 今では一攫千金を目論む若者の集会場と化していた。


「この都市にいる人間のほとんどは宿屋を利用しています。なぜなら純粋な町民……いえ、市民は決して多くないからです。ゆえに、宿屋を総当たりして似顔絵を見せましょう。すぐに特定できるはずです」


 私は数パターンの似顔絵を用意した。

 顔のパーツや輪郭は同じだが、髪型だけ変えてある。

 それを持って宿屋を訪ねたところ――。


「そのお客さんならうちに泊まってるよ」


 あっさり見つかった。


「ありがとうございます。聖務庁を代表して心より感謝いたします」


 私は店主に礼を言うと、合鍵を受け取り、犯人グループの部屋に向かった。


「ミレイユ、お前は聖務庁を代表して礼を言える立場にないだろ」


 階段を上っていると、イグナートが不満そうな顔で言ってきた。


「いえ、私は聖務庁に登録されている立派な聖女ですから、何ら問題ありません。今回は聖務庁の監察官とコンビで調査しているわけですから、誰がどう見ても聖務庁を代表して礼を言える立場でしょう」


「ふん、口達者な女だ」


「頭の筋肉が豊富ですので。それより、この部屋ですね」


 犯人グループの部屋は最上階――四階――にあった。

 この階に一つしかない最高級スイートルームだ。

 扉は鉄製で、安物の宝石がべたべたと貼り付けられている。


 トントン。


 私は扉をノックした。


「………………」


 反応がない。

 だが、中で人の動く気配がする。

 扉に張り付いて、こちらをうかがっているのだろう。


「私は〈筋肉応援団〉のミレイユ・アードラーです。あなた方が我がギルドの名を騙り、ラミレスさんのナイーブ・フィッシュを台無しにしたことは知っています。素直に出てきて謝れば許してあげましょう」


「…………」


 返事はない。

 だが、耳を澄ませば連中の声が聞こえる。


「やばいぞ」


「どうする」


 対応を話し合っているようだ。

 ひそひそと話しているので、こちらに聞こえていないと思っているのだろう。

 しかし、私は耳の筋肉も発達している。

 丸聞こえだ。


「非協力的な態度と判断し、粛清を開始します」


 私は扉に手のひらを当て、軽く押し込んだ。


 ドガンッ!


 鉄の扉が派手に吹き飛び、奥の壁に食い込んだ。

 中には似顔絵にそっくりな男を含む四人組がいた。

 案の定、髪の色や髪型は地味にしていた。


「「「ひぃぃぃぃぃぃ……!」」」


 連中は私を見て怯えていた。


「さて、どうしましょうか」


「ご、ごめんなさい!」


「ほんの出来心だったんです!」


「ゆるしてください!」


「すんませんでした!」


 連中は光の速さで土下座した。


「〈筋肉応援団〉の名を騙り、他人を食い物にしていたと認めるのですね?」


「はい! 認めます! なので何卒、命だけは……」


 驚くほど簡単に自白したので、私の仕事が終わってしまった。


「イグナート監察官、あとは衛兵に任せるべきでしょう」


「そうだな」


 その後、私は衛兵を呼び、連中を引き渡した。

 宿屋の店主に扉の修理費を支払い、問題解決だ。

 諸々が済んだ頃には夕方になっていた。


「視察の予定が、予想外の展開になっちゃいましたね」


「だが、おかげで〈筋肉応援団〉のことがよくわかった」


「筋肉の素晴らしさをご理解いただけましたか?」


「多少はな。ギルド協会と担当者カードを共同開発しているなど、先進的な取り組みをしているのには感心した」


「イグナート監察官に評価していただけるとは光栄ですね」


 私が微笑みかけると、イグナートは「ふっ」と笑った。

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