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030 公聴会で筋肉的舌戦

「なんだって!?」


 叫んだのはドーグだ。


「イグナート監察官……ひいては王国政府が問題視しているのは、筋肉魔法にかこつけた粗悪な魔法支援ギルドですよね?」


「そうだ。君や君のギルドに対する懸念は前回で払拭されており、グレンデルに問題があるとも考えていない。この街の筋肉は君が支配しているからな」


「しかし、聖務庁が本当に潰したいのは、問題視している対象ではなく私ですよね?」


「それは私に答えられることではない」


 つまり、イエスということだ。


「では、言い方を変えましょう。私や〈筋肉応援団〉に問題がないことは確認済みなのですから、私たちに認可を与えてはいかがですか?」


「たしかにそうね。懸念がないなら認可を与えられるはずよ!」


 セルマがうなずいた。

 他のメンバーも私の意見に賛同している。


 だが、イグナートは首を横に振った。

 当然ながら、この提案は彼――というよりも聖務庁にとって受け入れられない。


「現時点では認可制になっていないため、いま認可を与えることはできない」


「では、認可制になったと仮定して、認可を保証してはいかがですか?」


「それも不可能な話だ。どういう基準で認可を与えるか決まっていない。実績だけで判断するなら、〈筋肉応援団〉は問題ないだろう。しかし、他の事情も踏まえて総合的に判断するとなれば、話は変わってくる」


 イグナートはすまし顔でペラペラと話す。

 この展開を事前に予想していたのだろう。

 もちろん、頭の筋肉が豊富な私も、わかっていてこの展開に運んでいた。


「そういうことであれば、別の提案をしましょう」


「別の提案?」


「現状の『身体強化魔法を認可制にする案』では、対象となる魔法が多すぎます。例えば、多くの高ランク冒険者が戦闘で愛用している支援魔法〈ヘイスト〉も、理論上は身体強化魔法に含まれます」


「……!」


 イグナートの眉がぴくりと動いた。


「戦士が魔物を怯ませるのに使う〈ウォーリアーズハウリング〉というスキル……あれも、術者が戦士なので『スキル』と呼ばれていますが、実態は喉を強化する魔法です。やはり、これも身体強化魔法に該当します」


「そうきたか……」


 イグナートが小さく笑った。

 私の言わんとすることを察したようだ。


「認可制にするのであれば、対象となる魔法をもっと絞り、少しでも危険があるものに限定するべきでしょう。そして、その場合、筋肉魔法は対象外になるでしょう。なぜなら筋肉魔法が安全であることは、イグナート監察官ご自身が確認済みだからです」


 鍛え上げた筋肉のごとき美しい論破だ。

 さすがのイグナートも「なるほど」と唸った。


「たしかに、身体強化魔法の使用を禁止とする案は再検討が必要のようだ」


 場がどっと沸いた。

 しかし、それでおいそれと引き下がるイグナートではない。


「ただし、王国政府が問題視している身体強化魔法を謳う粗悪な施術や〈筋肉応援団〉の模倣については解決していない。この点の改善策を提示されなければ、大括りでの規制が必要になるだろう。その規制には、〈筋肉応援団〉も含まれる可能性が高い。法は筋肉ほど柔軟ではないからな」


 建前として、現実に問題となっている点の改善策を求めてくる。


「その点は、冒険者と同じようにギルドにもランクを設ければ解決するでしょう」


「ランク?」


「冒険者にはA~Fまでのランク分けと、国宝級とされるSランクが存在しますよね。ギルドにも同様のランク制度を制定するのです。そうすれば、質の低いギルドはランクというステータスで可視化されます」


「なるほど。だが、冒険者ギルドを管轄しているのはギルド協会であって、王国政府ではない」


「そこは関係ありません。ギルドランクの判定基準を王国政府側で決定し、ギルド協会にそれを遵守させれば済む話です」


「ギルド協会が特定のギルドに便宜を図り、不正にランクを変動させた場合はどうする?」


「その場合はギルド協会を罰すればいいでしょう」


「…………」


 イグナートは黙考する。

 ようやく諦めたかと思いきや、まだ粘ってきた。


「ギルドランクの案は面白いが、それは今回の問題を直接的に解決しているとは言いがたいのではないか? ランクによって多少の是正は見込めるが、根本的な解決や事故の予防にはつながらない」


 私は「ふっ」と笑った。


「イグナート監察官、それはさすがに苦しい言い分でしょう。根本的な解決をするには、各ギルドの監査を強化する必要があります。ギルド協会が受付嬢を派遣しているように、王国政府からも各ギルドに一人ずつ監査員を派遣せねば是正できません」


「どうして苦しいと言える? 実際に監査員を派遣すればいいのではないか?」


「それが可能であれば、すでに行っているでしょう。〈筋肉応援団〉が発足する以前から、新興ギルドの倫理的問題は起きているのですから。例えば、簡単な依頼を数件こなしただけのギルドが『依頼成功率100%』を謳うなど、依頼者を誤認させるような宣伝をするギルドは無数に存在しています。私のギルドランク案は、そうした問題を包括的に改善できる現実的かつ筋肉的名案だと考えますが、いかがでしょうか?」


「そこまでお見通しか。十分に理論武装してきたつもりだが、これ以上は悪あがきにしかならない。素直に引き下がるとしよう」


「うおおおお! ミレイユ団長が王都のインテリ野郎を論破したぞ!」


 ドーグが吠える。

 他の者たちも興奮していた。


「ちなみにだがミレイユ、君は知らないと思うが、ギルドランク案はすでに王国政府が検討している」


「そうなんですか? 私と同じく優秀な頭の筋肉を持つ者が王国にもいるのですね」


「提案したのは私だ。もっとも、利害関係の都合で実現の見込みは薄いようだがな」とイグナートが笑う。


「なるほど。グレンデルの公聴会に単身で乗り込んでくるだけのことはありますね」


 イグナートの内に秘めた筋肉は相当だ。

 私でなければ、筋肉質な理屈によって押し切られていた。


「さて、私の用は済んだ。楽しい公聴会の時間を妨害して悪かったな」


 イグナートが去ろうとする。

 聴衆たちはブーイングを送っているが、私は違った。


「お待ちください、イグナート監察官」


「なんだ?」


「もしよろしければ、〈筋肉応援団〉の仕事を視察してみませんか?」


「「「なんだって!?」」」


 誰もが驚いた。


「聖務庁の監察官であるこの私に仕事を見ていけと? どういうつもりだ?」


「そうよ! そんなの、聖務庁にケチをつける理由を与えるだけじゃない!」


 セルマが声を荒げる。


「いいえ、そうとも限りません。イグナート監察官は聖務庁の意向に従う一方、規律を重んじ、最大限中立で務めています。〈筋肉応援団〉の仕事ぶりを見れば、私たちに対する理解をより深めてもらえるはずです」


「やめとけよ、ミレイユ団長! 何だかんだ言っても聖務庁の人間なんだぜ!」


 ドーグが大声で言うと、イグナートは「そのとおりだ」とうなずいた。


「私に仕事ぶりをアピールしたからといって、聖務庁が〈筋肉応援団〉に対する態度を変えることはない。もちろん、私が〈筋肉応援団〉を擁護することもない。逆に私の前で下手を打てば、聖務庁に報告することになる。つまり、仕事でうまくいっても評価されず、下手をすれば付け入る隙を与えるわけだ」


 イグナートの言っていることは正しい。

 セルマやドーグが否定的な反応を示すのも理解できる。


「それでも、私は現場を見てもらいたいのです。イグナート監察官には、王国をよくしようという思いが感じられます。そういう方には、筋肉の万能性をしっかり証明したい。そこに打算的な思惑はありません」


 私が言い切ると、イグナートは笑った。


「不思議な聖女だ。そこまで言うなら、いいだろう。王国に戻る日程を遅らせて、君の依頼に同行する。聖務庁の監察官として、〈筋肉応援団〉の仕事ぶりを徹底的に見させてもらうからな」


「望むところです。筋肉は決して裏切りませんから、どうぞご安心ください」


 私はにこりと微笑んだ。


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