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003 初めての契約

「いいじゃん! 試してみよう! でも、何が出るかは私にもわからないから用心してね!」


 結衣は好奇心に瞳を輝かせ、ゴブリンの死体に左手を向ける。


「それ!」


 結衣の手のひらが淡く光る。

 次の瞬間、ゴブリンの死体はポンッと消え、別のものになった。

 緑色の簡素な革製ナップサックだ。


「「おお!」」


 俺と結衣は顔を見合わせ、同時に声を上げた。

 二人で駆け寄り、それを拾い上げる。


 ゴブリンの皮膚の質感を残しつつ、実用品としてきれいに縫製されていた。

 中身は空だが、容量はそこそこありそうだ。


「私のスキルって案外いいんじゃないの!?」


「ああ、俺の【ガチャ】よりも使い勝手がよさそうだ。死体まで有効活用できるのは大きいな!」


 俺はガチャの景品をナップサックに詰め込んでいく。


「私のスキルには制限があって、1日に5回しか使えないんだけど、もう1回使ってみていい? その辺の木に!」


「いいと思うよ。検証は早めに済ませておきたいしな」


「よっしゃー!」


 結衣は嬉しそうに声を弾ませ、再びスキルを発動する。

 対象となった手近な木が光に包まれ、ポンッと形を変えた。


 今度の品は――角材。

 ホームセンターで売っていそうな、きれいに加工された木の棒だ。

 それが一本だけ、木があった場所に転がっていた。


「なんというか、普通だな……」


「しょうもなー! 意外性がないと興奮しないね」


 唇を尖らせる結衣をよそに、俺はその角材を拾い上げる。

 長さは1メートルほどで、剣よりも遥かに軽い。

 これなら俺でも振り回せそうだ。


「ナップサックのおかげで手も空いたし、これで俺も戦えるぜ!」


 俺は角材をバットのように構え、空を切ってみせる。

 しかし、結衣はじとっとした視線を向けてきた。


「ゴブリンにビビって腰を抜かしていた人が言っても、全然期待できないけどね」


「うっ……!」


 痛いところを突かれ、俺は言葉に詰まった。


 ◇


 しばらく森を進むと、ゴブリンの砦が見えてきた。

 粗雑な木の柵で囲まれた敷地の中央には、石を乱雑に積み上げた建物が鎮座している。

 入口付近には見張り台があり、周辺には不自然に土が盛られた箇所がいくつもあった。

 おそらく、落とし穴か何かの罠だろう。


 そして何より、敵の数が異常だった。

 視界に入るだけでも数十匹のゴブリンがいる。

 奇声を上げながら楽しげにじゃれ合っていた。


 その中心に、ひときわ異彩を放つ個体がいる。

 他のゴブリンよりも明確に大きく、ボロボロの赤いマントを羽織っている。

 あれがここのボス、ゴブリンキングに間違いない。


「かなりの数だぞ。罠っぽいものもあるし、正面突破はやばそうだ」


 俺たちは茂みに身を潜め、慎重に様子をうかがう。


「ちょっと数が多いね。私だけじゃ厳しいかも。突っ込んだら囲まれて終わりそう」


「あの、一応、俺もいるんだけど……」


「智哉って戦力になる?」と結衣が笑う。


「なりません……」


「でしょ。だから智哉は、どうにかする方法を考えて。戦うのは私の役目。作戦を考えるのは智哉の役目ね」


「なるほど、俺は軍師担当ってことか。それはいい」


「その言い方、なんか陰キャくさいよ」


「仕方ないだろ、陰キャなんだから」


 軽口を叩き合いながらも、俺は名誉挽回のために知恵を絞った。


 まともな戦力は結衣だけで、所持品はガチャで排出された微妙なものばかり。


 手札は少ない。

 だが、組み合わせ次第では状況をひっくり返せるかもしれない。

 俺はナップサックを開き、ガチャで手に入れた景品を地面に並べた。


「さあ、どうする? 軍師さん」


 結衣はニヤリと笑いながら、水筒を手に取った。

 それから中身を確かめもせず、喉へ流し込んだ。

 あまりにもたくましい。


「実際に使えるかわからないが、定番のネタでいってみるか」


 俺が手に取ったのは、ウイスキーのボトルだ。

 そのボトルとタオルを組み合わせて、あるものを作った。


「何を作っているの?」


「即席の火炎瓶さ。ドラマや映画なんかでよく見るだろ? 実際に使えるかは不明だが、理屈は合ってるはずだ」


 俺は左手にライターを持ち、右手に完成した火炎瓶を握りしめた。

 余談だが、日本ではこの時点で違法行為に該当する。

 だが、幸いにもここは異世界――日本の法律は関係ない。


「おお、なんかそれっぽい! ウケる!」


「一か八かだ。まずは俺がこれを投げ込む。うまくいけば敵が混乱するから、その隙に結衣はゴブリンキングを仕留めてくれ」


「了解。もしうまくいかなかったら?」


「その時は逃げる。全力で逃げる。猛ダッシュだ」


「あはは。男らしさの欠片もなくて笑える! でも賛成! その作戦でいこう!」


 結衣がスカートを翻して身構える。

 俺は深く息を吸い込み、立ち上がった。


「じゃあ、始めるぞ!」


 俺は火をつけると、助走をつけて腕を振り抜いた。

 狙うは一点――ゴブリンキングだ。

 当たるとは思っていないが、近くに落ちればそれでいい。


「いっけぇえええええええ!」


 ボトルは放物線を描き、回転しながら飛んでいく。

 飛翔する炎の軌跡に、ゴブリンたちが気づいて空を見上げた。


 ガシャーンッ!


 ボトルが砕け散る。

 次の瞬間――。


「グギャアアアアアアアアアアア!」


 耳をつんざくような絶叫が響き渡った。

 なんと、俺の投げたボトルはゴブリンキングに直撃したのだ。

 アルコールが強かったのか、炎は瞬く間にマントへと燃え広がる。

 ボスの巨体を火だるまに変えてしまった。


「「「ギャギャ!?」」」


 周囲のゴブリンたちはパニックを起こして右往左往している。


「今だ、結衣! トドメを刺せ!」


「任せて!」


 結衣が飛び出す。

 だが、彼女が砦に入る前に戦いが終わった。


「ギギャア……」


 断末魔とともに、ゴブリンキングが力なく崩れ落ちる。


『ゴブリンキングを討伐:2750ゴールドを獲得』

『ゴブリンキングを討伐:第1階層の魔石を獲得』


 俺たちの視界の隅に無機質な文字が浮かび上がった。


「智哉、やるじゃん! 一人でボスを倒しちゃったよ!」


 結衣が戻ってきて、俺の背中をバンと叩く。


「思ったよりうまくいったな……って、喜んでる場合じゃないぞ!」


 ボスの死によって、ゴブリンたちが我に返った。

 赤く光る瞳が、一斉に俺たちを捉える。


「「「ギッギャ! ギャギャーッ!」」」


 怒り狂った群れが、雪崩のように砦から溢れ出してくる。


「撤収だ! 結衣、逃げるぞ!」


「うぇーい! 生きてるって感じがしてサイコー!」


 俺たちは踵を返し、来た道を全力で駆け抜ける。

 ゲームなら砦の中を漁って宝箱を探すところだが、現実は違う。

 死にたくないから、とにかく走った。


 幸いにもゴブリンは遅い。

 俺たちは余裕で逃げ切ることができた。


 なんともダサい戦いだが、これにて第1階層攻略だ!


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