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015 橋を架ける

 私は一定のペースで作業を進め、必要な丸太を揃えた。

 それらを適当な蔓で縛って固定し、まとめて引きずって運んだ。


 丸太に土が絡んで重かったので、〈マッスル・ワーク〉を自分に発動する。

 運搬に必要な筋肉が強化され、重さが気にならなくなった。


「お待たせしました。丸太はこれで問題ありませんね?」


 私はドーグとヴァイスの前に丸太を置いた。


「嘘だろ!? この短時間で丸太を調達するなんて……!」


「それも一本じゃない。必要な数がきっちり揃っている……!」


 ドーグとヴァイスは私と丸太の束を交互に見て驚いている。


「私の作業はこれで終わりですが、ドーグさんのほうは準備できていますか?」


「す、すまん、まだ縄の調達が済んでいなくて……!」


「筋肉不足ですね」


 私はため息をついた後、「まあ、いいでしょう」と許した。


「時間はあります。今のうちに、川底の瓦礫を撤去しておきましょう――皆さん、手伝ってください」


 私は野次馬たちに声をかけた。

 集まったのは付近の農民で、年齢はバラバラだ。


「はいよ! 何をすればいい?」


「聖女様のおかげで橋が復旧しそうなんだ! 手伝わせてもらうよ!」


 皆が私に寄ってくる。


「皆さんに〈マッスル・ワーク〉〈マッスル・スタミナ〉〈マッスル・バランス〉という三つの筋肉魔法を付与します。私の魔法を受けた人は、川底の瓦礫を回収してください。川は深く、流れが速いので、魔法を受けていない人は絶対に入らないでください」


 私は作業に加わる農民たちに触れ、筋肉魔法を付与していった。

 〈マッスル・ワーク〉が回収作業を効率化し、〈マッスル・スタミナ〉がそれを持続させる。

 さらに姿勢制御に必要な筋肉を強化する〈マッスル・バランス〉を加えて、事故を防ぐ。


「うおおお! なんだこの体の軽さは!」


「まるで若い頃に戻ったかのようにすいすい動くぞ! すいすい!」


「それに川の中でも安定しているぞ!」


 農民たちが嬉々とした様子で川に入り、瓦礫を回収する。


「すごいな、あれが筋肉魔法か……」


 アルノーが感嘆する。

 私は「はい」とうなずいた後、補足した。


「筋肉魔法は必要な筋肉を活性化させるものです。つまり、日頃から筋トレをしていれば、魔法に頼る必要すらありません」


「それで君は、木を伐採する際に魔法を使わなかったわけか」


「なに!? ミレイユ団長、あんた、筋肉魔法を使わずにあれだけの丸太を用意したのか!?」


 ドーグが声を荒らげる。

 ヴァイスも「信じられん……」と驚愕していた。


「使わなかったのは伐採だけです。鍛え抜かれた筋肉があれば、木を切るのに道具や魔法は必要ありません。もちろん、束ねた丸太をここまで運ぶ際は、筋肉魔法を使いましたよ」


 そうこうするうちに農民たちの作業が終わり、ドーグの部下たちが必要な材料を準備した。


 あとは手順どおりの作業だ。

 丸太の規格を揃え、板で水平の足場を作ったら、縄で厳重に固定する。

 余った丸太で、落下防止の手すりも作っておく。


「残すは橋を架けるだけですね。この作業は私にお任せください――筋肉魔法〈マッスル・ブースト〉!」


 私は魔法で出力を上げた。

 全身から筋肉がほとばしるような感覚だ。

 力がみなぎってくる。


「ふんッ!」


 私は一人で橋を持ち上げた。


「嘘だろ!? 重さ十トンはあろうかという橋を一人で持ち上げているぞ!?」


 ドーグが叫ぶ。


「これが筋肉聖女、〈筋肉応援団〉のミレイユ……!」


 アルノーは嬉しそうに笑っている。


「皆さん、危険ですから離れていてください!」


 私は橋を対岸側へ向け、ゆっくり降ろしていく。

 勢いよく叩きつければ壊れるため、慎重に、慎重に……。

 そして――。


「開通です!」


 夕刻、空が茜色に染まる頃、即席の橋が架かった。

 以前の石橋に比べると不格好だが、当面をしのぐ程度の耐久度はある。


「まずは試しに空荷の荷馬車を一台。次に軽い荷を試して、問題がなければ他の荷馬車を渡らせましょう」


「りょ、了解した! おい、荷馬車をこっちに進めさせろ!」


 ドーグの合図で、対岸からの輸送が再開される。

 橋の安定感は想像以上に高く、荷馬車が通過しても静かだ。


「まさか今日中に橋を渡れるとは!」


「ありがとう、聖女様!」


「これで農産物を腐らせずに済んだ!」


 農家たちが感謝してくる。


「やっぱりあんたはすごいよ。筋肉の凄さを再認識させてもらった。ありがとう、ミレイユ団長!」


 ドーグも嬉しそうに声を弾ませる。


「いえいえ。筋トレを怠らないでくださいね」


 私は視線をアルノーに向けた。


「ご覧のとおり、問題は解決しました。子爵閣下、これが〈筋肉応援団〉の実力です。腕試しは合格ですか?」


「当然だ!」


 子爵は顔をぱっと明るくし、盛大に拍手する。


「やはり〈筋肉応援団〉はグレンデルに必要なギルドだ! 今後も都市の発展に協力してくれ!」


「もちろんでございます。こちらこそ、今後ともよろしくお願いいたします。フォルクさんも、当ギルドの貢献はしっかり記録に残してくださいね?」


「……わかっております」


 フォルクは悔しそうにしながらも、私の活躍を手帳に記す。


「それでは、私はこれで失礼します」


 私はアルノーたちに一礼すると、自分用に手配された馬車に乗り込んだ。

 馬車はすぐに走り出し、皆の姿が遠のいていく。


「今日も筋肉を有意義に使えましたね」


 夕日に向かって独り言をつぶやく。

 心地よい疲労感が、労働の成果を実感させる。


 こうして〈筋肉応援団〉は、正式にグレンデル自治評議会と提携することとなった。


 ◇


 レイヴァ峡谷――

 大地が割れたその場所に、私はカイとともに来ていた。

 夕闇が迫る峡谷の縁は、濃い霧と張り詰めた緊張感に支配されていた。


「状況は最悪です! 採取団の五名が滑落しました! 深さは約八十メートル。ロープも届かない位置です!」


 迷宮調査院の官吏、ユーリス・バルゼンが、珍しく声を荒らげている。

 彼が指さす崖下は、乳白色の霧に覆われて底が見えない。

 時折、風に乗ってかすかな悲鳴のような声が聞こえてくる。


「さらに悪いことに、ここには『霧喰いモス』がいます。奴らが撒き散らす幻惑粉を吸えば、方向感覚を失い、自分が登っているのか降りているのかさえ分からなくなる。二次遭難のリスクが高すぎて、救助隊も動けません」


 ユーリスが悔しげに拳を握る。


 幻惑と滑落。

 二重の死の罠が、谷底の採取団を飲み込もうとしていた。


 私は崖の縁に立ち、霧の奥を睨んだ。

 たしかに視界は悪く、一寸先は闇ならぬ霧だ。

 だが、それならそれでやりようはある。

 頭の筋肉を活用するときだ。


「なるほど。状況は理解しました。我が〈筋肉応援団〉は、持ち前の筋肉で採取団を救助すればいいのですね?」


「はい! 可能でしょうか……?」


「問題ありません。筋肉は万能ですから」


 私は即答する。

 一方――。


「団長、本当に大丈夫なんですか? これまでのどんな依頼よりも過酷ですよ……」


 カイはビビっていた。

 まだまだ頭の筋肉が足りていないようだ。


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