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「…………」
お兄ちゃんは、一度瞳を閉じて……わたしの意志が変わらないことに気付いて、ふっと息をついた。
「……仕方がないですね」
「敬語も駄目」
「分かりました……」
「ダメ」
「分かった……これでいい?」
お兄ちゃんは、観念したようにもう一度息をついて、そして、苦笑した。
「うん……ごめんなさい」
「謝るなら、こんなことしない」
ぽんっと頭を叩いて、お兄ちゃんは微笑んでくれた。
「でも、ほんとうに二人だけの時だけ。それ以外は先生と生徒だし、恋を特別扱いしない」
「うん、分かってるよ、お兄ちゃん」
いつもの――先生じゃない、いつものお兄ちゃんの感じにわたしも微笑んだ。
嬉しくて……大好きな気持ちが溢れて。
……だから、これ以上は駄目。我侭いっちゃ駄目。
「二人っきりじゃない時は、ちゃんと先生って呼ぶね」
「うん、それならいい」
わたしから離れて、お兄ちゃんはもう一度ぽんって頭を叩く。
……お兄ちゃんが離れたことが寂しいけれど、わたしも掴んでいた服から手を離した。
「もしかして、今の話をするために呼び止めたの?」
「うん……」
こくりと頷くわたしに、お兄ちゃんは「まったく」ってあきれたように笑った。
「じゃあ、行こうか」
「……うん」
もう少し一緒に……二人っきりでいたかったけど。
わたしは素直に頷いた。きっと、兄と妹でずっと一緒に居ることは良くないことだから。
生徒たちは知らないけど、先生たちは知っているから。きっと、これは良くないこと。
だから、
「……ねえ、お兄ちゃん」
「ん?」
「ありがとう」
わたしはお礼を言った。悪いことしたから、お兄ちゃんを困らせたから……
「いいよ。でも、こういうことは今回だけ。約束できる?」
「うん、約束する」
わたしの返事に、お兄ちゃんは微笑んで頭を撫でてくれた。
……生徒指導室から出て、お兄ちゃんは職員室に、わたしは教室に戻る。
もう悪いことしちゃ駄目……お兄ちゃんを困らせちゃ駄目……
駄目、だけど……
夕方の生徒指導室――二人っきりで、身体を触れさせて――ほんとうに近くにいた大好きな人。
(……キス、しても良かったのに)
そう思って……わたしは顔を真っ赤にしながら少しだけ後悔した。




