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「わたし、妹だよ」
「分かっています。ですが」
「分かってる!」
お兄ちゃんの言いたい事は分かってる。分かってる……けど、
「分かってるよ……『お兄ちゃん』っていっちゃいけないって……」
「…………」
「恋、とも言ってくれないんだね」
「……恋」
お兄ちゃんは……ごめんね、そんな顔させて……困った顔をして、そして、わたしの名を呼んだ。
「ここで、僕は先生で、恋は生徒です」
「分かってるよ……でも……」
「『でも』は駄目です」
お兄ちゃんは強く言った。その後の言葉を言わせないように。
「でも、お兄ちゃん……お兄ちゃんは、お兄ちゃんだよ」
……我侭だって分かってる。それでも、『誰かのもの』なんてされたくないから。
「わたしだけの、お兄ちゃんなんだよ」
「恋……」
お兄ちゃんは怒るように、叱るように……優しい声だけど、わたしには分かる。本当に怒っている時の声。
「それでも、恋は生徒です」
「そうだけど……だけど」
どうしたら……どうしたら伝わるんだろう。
これ以上は言っちゃいけない。お兄ちゃんを困らせるだけ。
でも、伝えたい……わたしの気持ち。ほんの少しでいいから、「何か」ほしい。
先生と生徒じゃない。兄と妹っていう、ほんの少しの「何か」。
「……どうしたんですか」
お兄ちゃんは近づいて、わたしの肩に手を置いた。
どきっとし過ぎて、びくって身体を震わせてしまう。
「恋がそんなことをいうなんて」
お兄ちゃんはわたしがいつもと違うことに気付いてる。
うん、そうだよね……いつもだったら、こんなこと言ったりしない。
お兄ちゃんを困らせるようなことしない……それでも、
「……二人だけの時だけでも駄目?」
わたしは見上げて、お兄ちゃんを見つめた。
「駄目……かな」
伝わって……わたしの気持ち。少しでいいから、ほんのちょっとでいいから……
「恋……」
お兄ちゃんもわたしを見つめた。
その瞳は先生として、兄として、言い聞かせようとする瞳だったけれど……
「お兄ちゃん……」
わたしはお兄ちゃんの服をぎゅっと握る……お兄ちゃんを見つめたまま、瞳を逸らさずに。




