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「マネージャーとかでもいいじゃん。運動が苦手なら」
「そうだけど、委員長になって、それでマネージャーもって、なにか……」
「やりすぎ?」
「やりすぎっていうか……」
わたしは宙を見つめた。話したいことがある。だけど……それを改めて理解するのは、少し悲しくて……
「お兄ちゃんてね、剣道は……確か四段とかで、強かったみたいで。わたし、お兄ちゃんが大学生の時、お父さんとお母さんと一緒に剣道の大会に応援しに行ったことがあって。その時のお兄ちゃん、すごくすごくかっこよくて。ほんとに素敵で」
「なに、ノロケ?」
「あはは、そんなんじゃないよ。だって……『かっこいい』って思っていたのはわたしだけじゃなかったから」
その時のことを思い出す。大きな体育館の二階の席……そこで応援していたのはわたしたちだけじゃなくて……
「お兄ちゃん、女の人に人気があって、ファンみたいな人もいたみたいで……その時、感じちゃったの。わたしだけのお兄ちゃんじゃないんだなって」
お兄ちゃんの近くにも応援している人がいて……家族、妹なのにお兄ちゃんの背中がすごく遠く感じた。
「なるほど。それで」
「うん、もし、マネージャーになったりしたら……お兄ちゃん人気があるし」
お兄ちゃんが女の子に囲まれてる姿は……やっぱり、少し……ううん、結構辛い。
「あ~……でもさ」
舞ちゃんはひとしきり唸って、もう一度わたしに顔を近づける。
そして、
「恋は、『わたしだけのもの』にしたいんでしょ」
「っ……」
囁いた舞ちゃんの声……その言葉にわたしは……
「…………」
「……もう、ほんとに顔に出すぎ」
舞ちゃんは笑った。真っ赤になったわたしに。
「ぼやぼやしてたら、『誰かのもの』になっちゃうよ」
とんっと身体をぶつけて、舞ちゃんは先を歩き出す。
――誰かのもの。
舞ちゃんの言葉を反芻する――
「……そんなの嫌」
そんなの嫌――だって、
(だって、わたしが一番お兄ちゃんが好きだから)
わたしはなにかを心に決めて……それはきっとお兄ちゃんを困らせるものだけど、それでも決意して。
舞ちゃんの後を追いかけた。
「……舞ちゃん、ありがと」
横に並んだわたしに、舞ちゃんはなにも言わず、
――トンッ
と、身体を近づけ、わたしの頭に自分の頭をコツンと触れさせた。




