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レベル5コスプレ、発動

ザイデルの護衛たちが、透(発音ミナコス)を取り囲むように迫る。体格も経験も、透が「歌姫」として太刀打ちできる相手ではない。


透は一瞬で判断した。 「ミナ」のコスチュームは、戦闘向きではない。フリルのスカートやツインテールウィッグを傷つけるのは、スキルの完成度低下に直結する。何より、彼の「発音ミナ」としての戦闘スキルは、せいぜい「音波攻撃」程度のもの。


(くそっ! やはり俺は、力でねじ伏せるのが得意なんだ!)


透は、ここで格好つけて「歌姫」として戦い、負けて捕まるより、一瞬で逃走し、最強の「顔」に戻ることを選択した。


「みんな、ごめんなさい!今日はここまでよ!」


透は、投げ銭箱から銀貨を一掴みし、それを勢いよく護衛たちの顔に向けて撒き散らした。


チャララララ!


突然の金の雨に、護衛たちは思わず目を閉じ、手を伸ばした。その一瞬の隙を見逃さなかった。


「逃げるわよ!」


透は、酒場の裏口に向かって猛然とダッシュした。フリルとリボンが揺れる。


「待て!逃がすな!捕まえろ!」ザイデルが、怒鳴りつける。


透の足は速かったが、護衛たちも鍛えられたプロだ。裏路地に飛び出した瞬間、屈強な一人が追いつき、透のピンクのツインテールウィッグを掴んだ。


「おとなしくしろ!」


ビリッ!


「ああっ!」透は悲鳴を上げる。ウィッグは外れなかったが、護衛の指がウィッグの網に引っかかり、装着がわずかにズレた。


《スキル〈コスプレ〉完成度低下を感知》 《発音ミナコス:86% → 84%》 《効果レベル:3 → 2へ低下》


わずか2%の低下。だが、スキルレベルは3から2へダウン。


(くっ、やばい!これ以上コスを傷つけたら、ミナとしての魅力が失われる!)


透は、ウィッグのズレを気にしながら、近くにあった木箱を蹴り飛ばし、護衛の進路を塞いだ。


そして、街の複雑な路地を全力で駆け抜ける。


追手を何とか振り切り、透が辿り着いたのは、普段利用している安宿の裏にある、古びた物置小屋だった。幸いにも誰も使っていないようで、鍵は開いている。


透は物置小屋に飛び込み、戸を閉め、荒い息をついた。


「はぁ、はぁ……危なかった。この街は危険すぎる……」


ウィッグのズレを直そうと鏡代わりの磨かれた金属片を覗くと、汗でメイクが崩れ、元の佐藤透の冴えない顔が薄っすらと見えた。


「嫌だ!俺はミナだ!こんな顔、二度と見たくない!」


途端に、これまでの熱狂的な快感が冷めていく。彼の心には、また会社員時代の屈辱と虚無感が忍び寄ってきた。


(ミナでは、もう駄目だ。戦闘力がない。魅了スキルは、逆に厄介な権力者を惹きつける。安全に、確実に、俺の承認欲求を満たせるのは……)


透は、スーツケースの底に隠していた、あの「最強の顔」の衣装に手を伸ばした。


濃紺のミニスカートに、水兵のような制服。そして、腰に携えるは、刀剣と、見えない機関砲。


透は、急いで「発音ミナ」のコスチュームを脱ぎ、丁寧に着替え始めた。


まずはメイクを拭き取り、瞳の色を変える。そして、黒と青のツートンカラーのショートカットウィッグを装着する。


凛とした冷たい目つき。戦闘服のような軍装。周囲を威圧するその存在感。


「ふう……これよ、これ! この力が、俺には必要だったんだ!」


透は、自らが「駆逐艦・葉月」へと変貌していくのを、物置小屋の暗闇の中で感じた。


《スキル〈コスプレ〉発動確認》 《駆逐艦葉月コス:完成度:80% → 83%(※前回の修繕による回復)》 《効果レベル:5(最大)》


Lv5。最高の戦闘力と、最大の威圧感。


透は、軍服の袖を整え、低く、しかし力強い声で呟いた。


「首を洗って待ってることねザイデル......。お前のような権力者の醜い欲望は……駆逐してやる」


透は、物置小屋の扉を蹴り開け、夜の商業都市へと、再び飛び出した。 今度の顔は、誰にも捕まらない、この世界で最も恐ろしい存在だ。

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