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三題噺もどき4

独白ー7

作者: 狐彪

三題噺もどき―ななひゃくよんじゅう。

 




 外は夕暮れに染まりつつある。

 その街を眺めながら、今日もご主人は煙草を吸っている。

 今年にはやめると言っていたのに、年明け早々に破ったのが、今日まで続いている。

 別段、人間のように害があるわけではないが、お互い、いい年なのだ。何があってもおかしくない。だから、止めてくださいと言っている。

「……」

 まぁ、それでも喫煙がそう簡単にやめられないことは身をもって知っているので、また来年にでも言い聞かせてみようかと思っている。

 一応、量はかなり減っているのだ。朝のこの一本だけには抑えている。

 部屋には灰皿を置かないようにしたから、それがかなり功を奏したのかもしれない。

「……」

 実際は灰皿なんてなくても、燃やしてしまえばいいのだけど。

 その辺あまり好きではないらしく、灰皿がないところでは絶対に吸わない。

 ―いらない手紙を燃やすのは必要なことなので好きも嫌いもないらしい。

「……」

 まぁ、なんにせよ、来年こそは喫煙をやめさせたいとは思っている。ベランダに置いている灰皿を徐々に小さくしていってみようか……。それとも猫になって甘えながら言ってみれば多少効くだろうか……想像しただけでおぞましいのでそれだけは絶対にしないが。

 とにかく、健康に気を使うことは、あの人の従者としてやるべきことだ。

「……よし」

 とりあえず、ベランダの窓の鍵を閉めて、エプロンを身につける。

 ―そのやるべきことのひとつに、食事の準備があるわけで。

 今から朝食を作っていかなくてはいけない。

「……」

 今日は、というより、今日も、メインは食パンだ。

 厚切りの方が食べ応えもあって好きだが……安く買えたので、今日はいつもより薄切りの食パンだ。賞味期限もあるから、二枚ずつでいいだろう。

 これを焼くのは、あの人が風呂から上がるくらいのタイミングで焼きあがるようにするので……とりあえず置いておく。

「……、」

 袋に入ったままの食パンを一度キッチンに置き、冷蔵庫を開く。

 後は、ちょっとした付け合わせをいくつかと……ヨーグルトが微妙に余っているからこれも出そう。プレーンだがジャムがあったから、これを入れればいいだろう。それかハチミツか……そこはあの人に選ばせよう。

 食パンに塗るかもしれないからな……バターもあるが朝食は甘いものを食べようとする時がままあるから。

「……」

 まぁ、その辺は最後にするとして。

 付け合わせは目玉焼きと、少し野菜を出しておくか。

 レタスがあと少し残っていたし、ここにミニトマトも入っている。丁度いい。

「……」

 卵を二つ、ミニトマトを入っていた袋ごと冷蔵庫から取り出す。

 レタスは下の野菜室から取り出し……とりあえず今日の朝食はこの辺りでいいだろう。

「……、」

 まずは目玉焼き。

 取り出したフライパンを火にかけながら、油を敷く。

 ある程度温まったところで、卵を落とし、様子を見つつ水を少々入れてから蓋を閉める。

 硬いのもいいが半熟くらいが好みなので、あまり焼きすぎないように注意する。

 最後に申し訳程度の塩コショウをかけて、目玉焼きは完成。あまり味が濃ゆすぎてもいけないのでホントに少しだけ。見た目は同化して味付けなんてしていないように見える。

「……ん」

 と、目玉焼きを作り終わったあたりで、ベランダの方から物音が聞こえる。

 見れば相変わらず御不満そうな顔でこちらを見るご主人の姿。

 丁度キリもいいし、鍵を開けに行く。

「……お前いい加減やめないか」

「それより、早くシャワーを浴びてきてください」

 煙草の匂いを漂わせながら文句を言うご主人を浴室に送り、朝食づくりを再開する。

 シャワーを浴びるだけなのでそう時間はかからない。

 電気ケトルにお湯を入れ、スイッチをいれる。ついでにマグカップを二人分。

 更に食パンを二枚トースターに入れ、野菜を適当に皿に盛っていく。

「……」

 ドレッシング―は面倒なので、マヨネーズでも少しかけておこう。

 レタスもトマトもそのまま食べようと思えば案外食べられるものだ。

 目玉焼きも皿に乗せたところで、丁度トースターが音を立てる。

「……」

 まだ出てこないので、これは自分が食べる分。

 もう二枚をトースターに入れ、次はヨーグルトの準備をする。

 深さのある小皿に二人分適当に分ける。自分の食べる分にはハチミツをかける。……あの人の分もハチミツで良いか。

「……」

 出しておいたマグカップにコーヒーの粉を入れる。

 丁度お湯が沸いたので、適当に注いでいく。

「上がったぞ」

 頭をタオルで拭きながら、ボディソープの匂いがしたご主人がキッチンへと入ってくる。

 あまり匂いが強いものでもないはずだが、この人が使うと香水でも使ったのかと思う程にいいにおいがしてくる。

「これだけ運んでおいてください」

「ん……」

 ヨーグルトの入った皿をリビングに運んでもらう。

 コーヒーを淹れ終わったあたりで、トースターが音をたて、パンが焼ける。

 少々熱いが、その二枚を皿に載せて、マグカップと一緒にリビングへと運ぶ。

「ジャムにしますか、バターにしますか」

「ん~……ジャムにしよう」

 冷蔵庫からジャムを取り出し、ジャム用のスプーンとヨーグルト用のスプーンを持って、再びリビングに戻る。

「……」

 並べられた朝食は、暖かなもので。

 毎日見慣れた景色ではあるが、いつ見てもいいモノだと思ってしまう。

 外は少しずつ暗くなり始め、夜が始まる。

「じゃ……」

「「いただきます」」





「やはり目玉焼きはこれくらいが丁度いいな……」

「ここの好みはお互い一緒でよかったですね」

「そうだな……まぁ、でもお前の作るのは何でもうまいからな」

「……そうですか」















 お題:猫・目玉焼き・同化


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