第4話 メイドさんの夜のお仕事
「ちょっと待ったぁぁぁっ!」
大慌てで服を脱ごうとしているメイドさんを止め、運んできていたバスタオルをその身体に掛ける。
「あ、あの。私の貧相な身体ではダメという事でしょうか?」
「いや、そういう問題じゃない」
「ですが、これでも同年代の友人の中では大きい方なんです」
「だから違うって。何を聞いたのかは知らないけど、そんな事をする必要はない。覚悟を決めた……みたいな表情を浮かべる一方で、手は震えているし、そもそも俺はこんな事を頼んでいない」
誰がこの少女にこんな事を仕事だと教えたんだ?
明らかに未成年な中学生くらいの少女にこんな事をさせて良い訳がない。
「えっと、私……頑張りますからっ!」
「こんな事を頑張らなくても良い」
「でも、こういう事をすると、坊ちゃまのお気に入りになって給金が増えて、早く借金が返せるって……」
「あー……君は確か、お父さんが病気だと言っていたな。お母さんは居るのか?」
「は、はい。母は居りますが、昼は働いていて、父の看病が……」
「であれば、勤務時間を調整しよう。君は昼に家へ帰り、夕方からここで働く事にしよう。夜勤手当という形で、少し給金を増やせば、お父さんの看病をしながら返済も出来るのではないか?」
この少女の借金をなかった事にしてあげられれば良いのだが、それはそれでルールを捻じ曲げて、この少女だけを特別扱いしてしまう。
このブルスカの世界では、基本的にメイドさんは泊まり込みで働き、数か月に一度の休暇で実家に帰る……というのが一般的らしいので、これならギリギリ許されるのではないかと思うのだが、どうだろうか。
「よ、宜しいのですか?」
「あぁ。メイド長に俺がそう言ったと言ってくれ。もしも何か言ってきたら、俺から説明しよう」
「あ、ありがとうございます。では、早速今晩のお仕事を……」
「……って、だから、どうして脱ごうとするんだよ!」
せっかくタオルで少女の身体を隠したというのに、再びメイド服を……あぁぁぁ、下着姿になるなぁぁぁっ!
二枚目のバスタオルを取り、少女の腰に回す。
「えっ!? そんなに私の身体に魅力はありませんかっ!?」
「そうじゃなくて、そもそもそういう事はしなくて良いって言っているんだよ!」
「坊ちゃま。私、脱いだら凄いんですから!」
「話を聞いてくれぇぇぇっ!」
変な事はしなくて良いって言っているのに、どうしてちょっと不機嫌になっているんだよ。
「あの、私は夜だけお仕事をするんですよね?」
「あぁ。昼は家に帰って良いよ。あの位置なら、帰れる距離だろう?」
「つまり、夜専門のメイドですよね?」
「そうだけど?」
「では、どうぞお好きになさってください」
そう言って、最初に俺が肩に掛けたタオルを床に落とし……どうしたら、この少女は理解してくれるんだよっ!
というか、メイドさんの夜の仕事ってこれしかないのかっ!?
時間を掛けて話を理解してもらい、少女に衣類を整えさせて、部屋から出てもらう事に。
「坊ちゃま。この度は、いろいろとご配慮いただき、そしてお手数をお掛けしてしまってすみませんでした」
「いや、わかってくれれば良いよ。とにかく、お父さんを優先してあげて欲しい」
「はい。そしてこの身体が、坊ちゃまの眼鏡に適うようにしっかり磨きますね! では失礼致します」
「全く理解してねぇぇぇっ!」
何とか部屋から出す事には成功したが、思い込みが激し過ぎる新米メイドは、どうすれば良いのだろうか。