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第2話 最初にやる事

 悪役領主として主人公に殺されず、かつ堕落した生活を送る為に、最初にやる事……それはもう当然のように決まっている。

 ……修業だ。

 というのも、いくら俺がブルスカの攻略方法を完璧に把握していると言っても、使用キャラが弱すぎるアンディでは厳し過ぎる。

 という訳で、今から半年くらいは修業に費やす事にした。

 幸い、ゲームのメインストーリーが始まるまで時間はあるからな。

 今のままでは最初の中ボスどころか、その辺で遭遇する普通の魔物にすら勝てるか怪しいし。


 という訳で、動き易そうな服……が、見当たらないので、まだマシだと思える服から余計な装飾を外し、部屋の外へ。


「お、お坊ちゃま!? そのような格好で、一体どちらへ!?」

「あぁ、少し身体を動かしてくる」

「えぇっ!? 身体を動かしてくる!? た、大変ですっ! だ、誰かぁぁぁっ!」


 え? まずは体力作りで軽く走ろうと思っただけなのだが、そんな大事なのか?

 ……いや、アンディはムキムキの男たちに変な椅子を運ばせているくらいだから、普段は自分で歩いたりしないのか。

 とりあえず、あれはもう不要だから、あいつらは解散させないとな。

 という訳で、屋敷の裏側で軽くジョギングを……って、メチャクチャ広いんだが。

 小学校の運動場くらいの広さがあるので、ひたすらそこを走っていると、


「おぉ、我が弟よ! 遂に、このオースティン家の血に目覚めたのだな」


 猫耳カチューシャと尻尾を身に着けた、二十歳くらいの小柄な女性が現れた。


「……えっと、誰?」

「おいおいおい。まさか毎日鏡ばかり見過ぎて、実の姉の事を忘れたのか!? ベアトリスだ。ベアトリス・オースティン! アンディの二つ違いの姉ではないか!」


 ベアトリス? いや、知らないが。というか、そもそもアンディに姉が居たなんて、初めて知ったぞ?

 ……あ、そうか。領主である父親と共に、世界崩壊時に亡くなってしまったから、ブルスカに登場していないのか。

 何故、メイドさんたちと同じ猫耳カチューシャを着けているかはわからないが……三年後には亡くなってしまうんだな。


「そうだった。すまない、何故か姉さんの事を忘れていたよ。ごめん」

「いや、素直に謝ってくれれば十分なのだが……あ、アンディ!? ちょっと謝罪が大袈裟過ぎないか!? 涙を流しながら、抱きしめなくても……ちょっ! は、恥ずかしい……」


 あ、しまった。

 この若さで、もうすぐ死んでしまうのだと考えていた、小柄な姉を思わず抱きしめてしまっていた。

 俺……安藤としては、もうアラフォーのオッサンで、娘くらいに見える年齢だけど、アンディは歳が近いから、姉弟でもダメか。

 ひとまず腕を緩めると、ベアトリスが顔を真っ赤に染めて少し距離を取り、ジト目を向けてくる。

 そんなに怒らなくても良いと思うのだが。


「……こほん。は、話を戻すが、アンディがオースティン家の血に目覚め、身体を鍛えるようになったのは嬉しく思う。アンディは運動しないくせにナルシストで、食事を抜くという不健康極まりない生活だったからな」


 あ、そうなんだ。どうりで身体がやけに細く、筋肉が少ない訳だ。

 俺は普通にご飯が食べたいから、メイドさんとかに言っておかないといけないのかな?


「えーっと、そうだね。これからは俺も身体を鍛えようと思ってさ」

「そうかそうか。では、この姉が直々にアンディを鍛えてやろうではないか」


 えぇ……猫耳カチューシャを愛用しているような変な姉に、そんな事が出来るのか?

 いやでも、三年後に居なくなってしまう訳だし、姉弟で仲良くしてあげた方が良いよな。


「じゃ、じゃあ、お願いしようかな」

「うむ。オースティン家の血に目覚めたアンディなら、きっとそう言うと思って既に用意しておいたぞ」

「……これは?」

「訓練用の木剣と木の盾だ。それを使って、どこからでも掛かってくるが良い」


 おー、剣と盾となると、ブルスカの世界っぽい!

 中高と剣道部だったから竹刀は握っていたけど、流石に盾は初めてだな。


「じゃあ、よろしくお願いいたします」

「うむ。流石は我が弟。礼儀正しいではないか。いつでも掛かってきて良いぞ」


 うーん。ベアトリクスは隙だらけに見えるんだけど……まぁ本人が良いって言っている訳だし、行くか。


「はぁっ!」

「な、何だその太刀筋……こ、こほん。中々良いじゃないか。とはいえ、私の足元にも及ばないがな」

「まだまだぁっ!」

「――っ!?」


 社会人になってからは、残業が激し過ぎて身体を動かすなんて事を考えていなかったけど、久々の剣道……ではないけど、打ち合いは楽しく、気付いたら夕方になっていた。


「な、中々やるではないか。流石は我が弟……きょ、今日はこのくらいにしておいてあげよう」

「姉さん、ありがとう。楽しかったよ。明日も是非お願いしたい」

「ひぃっ!? う、うむ。オースティン家の長男として相応しいくなるように、鍛えてやろうではないか。は、ははは……」


 流石に女性相手だったので力をセーブしていたとはいえ、一撃も当てる事が出来なかった。

 というか、剣や盾の戦い方を学べて楽しかったのは本当なので、体力作りと戦い方を学ぶ一石二鳥だし、これから毎日付き合ってもらおう。

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