挿話3 マッチョ護衛のヒューゴ
「ヒューゴ。鍛冶屋に剣を取りに行くまで時間があるし、日課の訓練に付き合ってくれないか?」
「ヒャッハー! 喜んで」
アンディ様がお屋敷で毎日されていた訓練をすると仰るので、一緒に村の隅へついて行く。
訓練用の木剣を渡されたので、早速打ち合うのかと思ったのだが、
「では、先ずはウォーミングアップだ。このまま村の周りを走るぞ」
「え? ひゃ、ヒャッハー!」
どうやら最初は走り込みらしい。
これは困ったな。
俺の役目は打ち合いでわざと負け、アンディ様に自信をつけさせる事だと思っていたのだが、走るだけだと、勝ち負けなどにならない……いや、ウォーミングアップと仰っているから、軽めに流すだけだろう。
アンディ様に合わせて走り、次のメニューで負けるとするか。
「よし、行くぞ」
「ヒャッハー!」
アンディ様に続いて俺も走りだし……って、アンディ様!? ペースを間違えていますよ!?
いくら小さな村とはいえ、そんなペースでは終わった後に打ち合いなんて出来なくなりますからね?
かなりハイペースなアンディ様の走りに何とかついて行き、村を一周した。
これでようやく剣の打ち合いか……と思ったら、アンディ様がそのまま二周目に突入する。
「あ、アンディ様? も、もう一周されるのですか!?」
「あぁ。いつも走っている感覚からすると、五周くらいが妥当かな」
「ごっ!? ……わ、わかりました」
嘘だろ!? 嘘だと言ってください!
いや、もちろん長距離用の走り方なら、五周くらい走れるだろう。
だが、このハイペースで五周!?
くっ……俺はアンディ様の護衛! 遅れを取る訳にはいかんっ!
「うぉぉぉぉっ!」
「お、気合が入っているな、ヒューゴ」
「ひゃ、ヒャッハー!」
何とか意地だけでアンディ様についていき、何とか五周を走り終えた。
少し休憩だろうと思っていたら、
「はぁっ!」
アンディ様が木剣で素振りを始めた!?
あれだけの速さで走って、息が全く乱れていない!?
な、何という事だ。
アンディ様が、この一年の間、剣の腕を磨かれていたのは知っていたが、まさか体力がここまであるとは。
「アンディ様。毎日ベアトリス様とこのような事を!?」
「あぁ。ただ姉さんは仕事があるから毎日ではなかったけどね」
アンディ様の後ろで休憩させてもらっているが、本当にキツい。
毎日こんな事をやっていたなんて……自分で歩こうとしないアンディ様が、急激に成長するはずだ。
暫く様子を見ていると、一通り型の確認が終わったのか、アンディ様が素振りを終えられた。
いよいよ、打ち合い……今度こそ打ち合いですよね!?
というか、もう打ち合いにしてください! ぶっちゃけ辛いです!
「さて、ヒューゴ。手合わせを頼む」
「はっ! それでは、このヒューゴ。お相手致します」
魔物との戦いでは、筋肉を活かして斧を使っているが、アンディ様の護衛をするに辺り、剣、槍、弓、体術……一通り出来るようにしている。
特に剣は十年以上扱っているので、たった一年剣を学んだだけのアンディ様に負けるはずは……
「ふっ!」
「――っ!?」
「たぁっ!」
な、何だこの太刀筋は!?
どこの流派なんだ!? 斬撃が速く、そして重い!
マズい。軽く剣を受けて負けようと思っていたが、下手にこの剣を受けたら、治癒院送りになるレベルだ!
ずっと防戦一方で剣を受け続け……しまった! 態勢が崩れた!
アンディ様の剣が俺の向かって振り下ろされ……寸止めで止まる。
「ま、参りました」
「いや、今のは俺の負けだな。よく考えたら、ヒューゴは斧で戦っているというのに、姉との訓練をそのまま踏襲してしまい、剣を渡してしまった」
「し、しかし……」
「ひとまず、一旦休憩にしよう。少し訓練内容を考えるよ」
「わ、わかりました」
ふぅ……いや、無理だ。
わざと負けるどころか、全力で自分の身を守るのが精一杯だった。
「うーん。あんなに大きな溜息を……内容を見直さないとな」
アンディ様が何か呟いていらっしゃったが、何だろうか。
いや、そんな事よりもとにかく体力を回復させよう。
このままアンディ様の訓練に付き合ったら、確実に倒れてしまう。
「ヒューゴさん、こちらをどうぞ」
「あぁ、すまない」
クレアがコップに入った冷たい水を差し出してくれた。
いやー、流石はメイドだな。気が利く……と思ったら、コップに何かメモがついている。
――万が一、坊ちゃまに怪我でもさせたら、その時は許しませんから――
……って、クレアは訓練の様子を見ていただろ!?
どう見ても俺の方がボロボロだろうが。
ちょっと怖いクレアに怯えつつ、何とかアンディ様の訓練についていき……やっと終わった。
それから昼食を済ませ、鍛冶屋へ行くと、
「え? まだ出来ていないんですか?」
「そうなのよ……ごめんなさいね。夕方にもう一度来てくださいな」
「わかりました。ではまた後で」
どういう訳かまだ出来上がっていなかった。
アンディ様をお待たせするとは……一体、何をしているんだ!?
とはいえ、相手が子供なので仕方ないかと思っていたら、
「という訳で、夕方までという時間も中途半端だから、もう一度訓練をするか」
アンディ様からおそろしい言葉が出て来た。
「二回目だし、同じ事をしても仕方が無いから、ちょっと内容を厳しくしたいな。ヒューゴ、どう思う?」
えぇぇぇっ!? これ以上厳しく……し、死んでしまうっ!
あの娘……ちゃんと昼過ぎに仕上げてくれよぉぉぉっ!




