第1話 ゲーム世界の悪役に転生
「ヒャッハー! 死にたくなければ、税金を納めな!」
「ま、待ってください。お父さんが病気で……」
「それなら、お前が身体で払っても良いんだぜ!」
「そんな……」
目が覚めたら、黒い服を着た知らない男が変な笑い声と共に、小さな家の玄関先で中学生くらいの女の子に剣を突きつけていた。
……何だこれ!? 映画の撮影か何かか?
だけど、どうして俺はこんな場所に居るんだ? しかも、変な神輿みたいな椅子の上に座って、ムキムキな男たちに担がれているし。
「アンディ様。いかがいたしましょうか。この家は税金を払えないと言っているので、この娘をアンディ様のメイドとして働かせるのは?」
……ん? さっきのヒャッハーって言っていた男が振り返って、俺を見ている?
え? アンディって誰!? 俺は安藤なんだけど。
でも、このヒャッハー男も、泣きそうな少女も俺を見つめていて、セリフを待っているかのようだ。
「そ、それで良いんじゃない……か?」
「ヒャッハー! アンディ様がこう仰っているんだ! さぁ、来い! お前は今日からメイドとして領主様のお屋敷で働くんだ」
「待って! 私、超ドジなんです! メイドなんてしたら、調度品とかを壊して、絶対に借金とかが増えていくんですーっ!」
とりあえず肯定しておいたんだけど……マジで何だこれ。
少女が男に脅されながらこちらへ来ると、
「ヒャッハー! 本日のアンディ様のお仕事は以上となります。者共……お屋敷へ帰還だ!」
「「「ヒャッハー!」」」
俺の下に居る男たちが声を揃えて叫ぶと、謎のリズムで神輿? を担ぎ、どこかへ向かって行く。
いや、怖い怖い怖い。
ねぇ、これ何の撮影なの!? というか、どうして俺が担がれているの!? ヒャッハーって何!? 映画とかで良く聞く、イエッサー的な掛け声なの!?
よく見たら、俺もキラキラと輝く金色のスーツに身を包んでいるし、さっきのヒャッハー男はトゲトゲが付いた危なそうなジャケットを素肌の上に着ている。
世界観が全く分からないよっ!
それから、担がれたまま大きな屋敷に運ばれ、床に降ろされたかと思うと、猫耳カチューシャと尻尾をつけた、やたらとスカートの短いメイドさんたちに囲まれる。
「おかえりなさいませ、お坊ちゃま」
いやあの、この映画? の監督は性癖を出し過ぎじゃないか?
どこかの部屋に案内され、メイドさんたちが出て行ったんだけど、この一面鏡張りの部屋は何なんだよ……って、待ってくれ!
「この顔! この鏡の部屋、そしてヒャッハー……アンディって、お前かぁぁぁっ!」
わかった。鏡を見て全てを理解した。
こいつは、休日の時に不眠RTAをやっていた「ブルースカイ・ソード」というゲームに出て来るキャラだ。
流石に社畜の俺が数少ない休日に、不眠不休でゲームをするのはマズくて、死んじゃったのか。
いわゆる、異世界転生ってやつだよな。
ただ、その転生先が、どうして最初のチュートリアルで真っ先に倒されるアンディなんだよ。
さっきみたいに、主人公の妹がアンディの部下に攫われ、それを助けたところから話が進み、最終的に魔王を倒すんだが……って、ちょっと待った。
「確かにアンディの部下が税を徴収して少女を無理矢理連れてきていたけど、街は普通だったし、あそこは主人公家じゃない! ……もしかして、まだゲーム開始前の世界なのかっ!?」
このブルースカイ・ソード――ブルスカは、覚醒した魔王が世界を崩壊させた後を描く話だ。
だから、アンディが領主を務めるこの街はもっとボロボロで、まともな家は領主の家くらいなんだけど……
「誰か……すまない。ちょっと良いか?」
「はい。何でしょうか。お坊ちゃま」
「変な事を聞くが、俺は何歳だっけ?」
「えっ!? お坊ちゃまは十七歳ですが……?」
「そうか。ありがとう」
部屋を出ると、廊下に控えていたメイドに声を掛け、俺の年齢を教えてもらった。
ブルスカのアンディは二十歳で、世界崩壊により領主であった父親が亡くなり、若くして領主となっている。
つまり、ゲームが始まる三年前という事か。
「待てよ。俺はブルスカの攻略方法や隠しアイテムに、バグ技まで全て知っている。主人公が旅立つのが三年後なら、それより先に最強装備を集めておけば、俺が殺される事はないのでは!?」
よしっ! 決めたっ! 主人公より先に最強装備を集めて、俺は殺されない悪徳領主になる!
領民の血税で贅沢スローライフだ!