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出会い -貧乏魔術師と追放騎士-

興味を持って頂けて嬉しいです。

楽しんで頂ける様頑張ります!

「ではリオン殿。貴女の今後の為にも、余計なことはせず立ち去ることがよろしいかと」


「……そのようなことなど」



気遣うような言葉に反し、その蛇のような軽薄な顔に愉悦を浮かべる中年男。リオンと呼ばれたその少女は、思わず怒りを抑えきれない様子で吐き捨てる。


ここは辺境とはいえ名のある騎士団の駐屯所。

その門前とはいえ爵位を持つ者もいる中で、追放された腹いせに暴れようものならどうなるかなど、まだ齢18にも届かないであろう少女にも分かる。


ただ、その態度も取り巻きには気に食わなかった。



「アンディシュ様に、領主様の御令息に暴挙を働きながら何を言う!!」


「……その度はご迷惑をお掛けして、申し訳ございません」


「まぁまぁ、新進気鋭のエリート様とはいえ、団長不在の際に浮かれることもありましょう。副団長である私が進言して、領主様にご理解いただきましたからご安心を」


「…………」


「ふん、ローラン様のご慈悲に感謝しろよ小娘。少し腕が立つからって調子こきやがって」


「そこまで責めずとも、その件で騎士団には特にお咎めは無し。それで良いではないですか。まぁ……」



あなたの解雇は止められませんでしたが……そう続けるその粘ついた声に思わず男──ローランを睨みつける。

まどろっこしい話し方、小馬鹿にしたような口調、その陰湿なやり方、全てが癪に触る。



「ああ、花のようなお顔立ちをそのように歪ませて。やはり……本性は国賊の血を引く娘といったところでしょうか」


「なんだと……?」


「有名ではないですか。この国、アストリアの発足時……仕えていた領主、親しい同僚、共に暮らす村民すら殺した悪魔の家系──アイゼン家のお話は」


「っ、貴様!!」


「貴様! 副団長に何をするつもぐっ!」


「邪魔をするな!」



まるでそれがトリガーかのように、突沸した感情のまま反射的に詰め寄り、割って入る取り巻きを力づくで投げ捨てる。



「私ならいくらでも馬鹿にするが良い。だが、誇り高き我が家族を愚弄するのは許さんぞ!」


「やれやれ、そうやってすぐ頭に上る血に何の誇りを持っているのか……私には分かりませんね」


「この、減らず口をっ!」



もう我慢の限界だと、そのにやけ面に拳を叩き込んでやろうと拳を固めたその時。



「《拘束バインド》」


「ぐっ!!」



全身を刺し貫く痺れと同時に体の動きが止まる。

視線を向ければ、取り巻きの1人こちらへ魔法を向けていた。



「おーおーよく効くねぇ、悪魔の子孫も所詮人の子ってか?」


「馬鹿、悪魔にも魔法は効くぜ」


「おっと間違いねぇ」


「がっ……は」



取り巻き達の顔に浮かんだ薄ら笑いを咎めようにも、金縛りにあったかのように声が出ない。



「フヒッ、怖い怖い。あくまで噂話でしょう? まぁ、この様子を見るにあながち嘘とも言えないようですが」


「ぐっ……」



指先ひとつ動かせないリオンの様子に、更に笑みを深めたローランが耳元で呟く。立つ鳥肌を収める暇もなく、唾がねばつく音が鼓膜にまとわりつく。



「前々から目障りだったんだよ。少し剣の腕が立つというだけで、あの生意気なガキも次期団長に貴様を推してる。20年、団の為身を捧げてきた私よりも、だ」


「……」


「統率も、軍略もできぬ剣だけの小娘に務まるわけがないだろう。身体でも売ったか売女が」



貼り付けたような薄ら笑いも丁寧な口調も消え、恨みの滲んだ声で呟くローランの豹変した姿に、思わずたじろぐリオン。

それと同時に、これが本性なのだろうと確信する。



「……まぁ良い。貴様が扱いやすいおかげですんなり排除できた。後はあの生意気なガキを引き摺り下ろすだけ……邪魔してくれぬようお願いしますよ」


「な……にを」


「教える必要はありません。まぁ教えたところで、初級魔術にすら抵抗できない貴女が、私の率いる魔法隊に太刀打ちできるとも思えませんが、ね」


「ま……くっ」


そう吐き捨て、たじろぐリオンに満足そうに鼻を鳴らすと、合図と共に取り巻きを引き上げていく。

その小さくなっていく背中を、滲んだ血を噛みながら睨みつけるリオン。


剣ならば、いや、せめて力ならばと自らに訳を与える程に襲う無力感。

思わず溢れた涙に自分と、そしてリオンに《拘束(バインド)》をかけた取り巻きが気付いた。



「へへ、良い顔してるな。普段からそのくらい可愛らしかったらいいのによぉ」


「…………」



ローランが駐屯所に入るや否や、ご機嫌な足取りで戻ってくる取り巻き。その舐め回すような目線に肌が粟立ち、思わず張り倒しそうになった瞬間、気づく。


今何をされても抵抗などできない。

そして、権力者の多い騎士に楯突く市民もいないだろう、と。



「あー、泣きながらそんな顔されたらそそられるじゃねぇか……ローラン様も行っちまったしちょっくら……」


「っ!!」



白昼の街道だというのに伸びてくる手。普段なら易々と叩き落とせるのにも関わらず動かない体に、思わず目を閉じるリオン。

後数センチで、あの下衆な手が誰にも触らせたことのない身体に触れる、そんな時だった。



「あのー」


「!?」



何者かが、取り巻きを遮る。

騎士のいざこざに割り込む者がいるのかと思わず目を開けると、そこにはリオンより頭1つ小さな少年。


どこか頼りない、幸の薄そうなその少年は、右手で取り巻きの腕を掴み、空いた手で自身の黒髪の頭をかいている。



「どういう事情か知らないけど、それは流石に良くないんじゃないか?」


「なんだぁこのガキ。あっち行けよ」


「ガキ……いや流石に見て見ぬ振りはできないよ。それにほら」



ガキ呼ばわりにやや困った様子を浮かべながらも、周りを見るように促す少年。


大柄な取り巻きをかなり見上げる形で目の前に立つその姿と幼い顔立ちに、子供ではないかと思いつつも釣られて見れば、確かに野次馬とリオン達で道がだいぶ狭くなっている。



「どこもかしこも背が高いから俺が通れなくて迷惑してるんだ、分かってくれよ」


「んなもんお前がチビなのが悪いだろ。子供は大人しく終わるまで待ってな。」


「子供……それに、ただの痴話喧嘩ならほっとくけど明らかに違うだろ、こんな粗末な魔法までかけて手を出そうだなんて」


「……粗末だぁ?」



子供の戯言と聞き流していた取り巻きだが、魔法隊の一員として魔法を馬鹿にされるのはプライドが許せなかったのか。

怒りを露わにすると同時に魔力が高まっていく。


まずい、動かなければ。

自分よりマシだろうが、子供の魔法耐性などたかが知れているのだ、下手したら大怪我では済まないはず。


そんな思いとは裏腹に、リオンの体は動かない。


反して取り巻きは、下半身に溜まった血が頭にも昇ったのだろうか、自分より2回り以上小柄な少年に、躊躇いもなく衝突(インパクト)の魔法を込め腕を振り下ろしていた。



「死ね!《衝突(インパクト)》!」


「にげ……っ」



せめてもの精一杯。それに気付いてかその少年は、腕が迫っているにも関わらずリオンに向け笑いながら指を突き出した。



「なっ……」



何かが弾けるような感覚がすると同時に、響く炸裂音。嫌な予感。

腐っても相手は名門騎士の魔法隊、それも副団長直属の部隊だ。初級魔法とはいえ子供がまともに食らって無事なはずがない。


そう、ないのだ。

顔に直撃を受けてなお、変わらぬ様子で立っているなど。



「魔法を粗末って言ったのは謝るけど、だからっていきなり襲うなんて短気だな。そんなだからこうして簡単に抵抗(レジスト)されるんだ」


「な、なんだこのガキ……」


「魔法は想像力と慈しみだよ。母さんの受け売りだけどな。あ、そこの女の子」



未だに困惑する取り巻きに、土煙を払いながら飄々とした態度でそう告げつつ、少年はリオンに向け手を開けたり握ったりを繰り返す。


その行為に疑問は抱きつつ、思わず繰り返してみると、動く。先程の魔法の残滓はかけら程も感じない。



「う、動く!それに声も……」



一体いつ……いや、それは一つしかない。

あの伸ばされた指だ。まさかあの一瞬で……?


魔法のことはよく知らないものの、それをできる人間が見当たらず驚きが隠せない。



「ガキに見えて意外とできちゃう男なんだよ」



そう言いつつ、何か含みを持った目を向ける少年。どうやら心で子供扱いしていたリオンに気づいていたようだ。



「図星だろ?君素直だから分かりやすいぞ」


「……失礼した」


「まぁいいさ。さて」



さして気にしてもない風で、少年が場を整える。



「俺の両親の生まれでは、ケンカリョウセイバイという言葉があってな、争いに対しては双方に同等の処罰を与えるという意味なんだが……」


「なにいい気に仕切ってんだガキぃ…初級魔法おままごとを打ち消したくらいで調子こいてぐぼっ!!」



流石に我に返った取り巻きが、あろうことか中級規模の魔法を行使しかけた瞬間、予兆もなく地面から飛び出してきた土の拳にかちあげられる。



「俺が好きな言葉はえこひいきだ」



その現象にまたしても唖然としながら、取り巻きの体が駐屯所のドアをノックする所を見ることしかできないリオンだった。

最後までありがとうございました!

次の更新まで少しお待ちいただけると嬉しいです。

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