Chapter 1
「—————っきろ、起きろ八重!!」
バッと布団がめくられた。
…寒い。
もう少し、もう少しだけ寝たい…。
布団ぬくぬくだし…。
「………ん?…あれ?い、今何時だ!?」
「8時。完璧遅刻。てかご主人様に向かってタメ口か?お前主従関係理解してる?」
え、と上を見上げると冷めた目で私を見下ろしているご主人様の姿。
冷たいというか、いや、あきれているかという方が正しいか?
どっちにしろ、はっきりいって、怖い。
「も、申し訳ございません」
「ふん、まぁいいけどさ、ご主人様に起こされる執事なんて聞いたことねぇよ。じゃ、俺は学校行くんで」
そういうとご主人様は鞄をつかむと早足で出て行った。
それを呆然を見つめる私。
「…い」
い、一体誰の所為だとおもってるんですかー!!
あ、私は八重 雪。
夜桜家の執事です。
そして、先ほど出て行かれたのが夜桜夫妻の1人息子、
夜桜 風斗様。
夜桜家は日本では知らないものはいないほどの大富豪で、その富は一生遊んでも使い切れないほどだと噂されている。
そんな大富豪がある日突然執事を雇うという求人票を公開した。
募集人数は1名。
その内容は息子の世話兼遊び相手。
給料は破格も破格、1発大逆転が狙えるほどの金額だったから、応募者数は瞬く間に100人を超えたという。
当時貧乏だった八重家もこの求人票を偶然見かけ、当時の私はまだ中学生なのに、両親から応募してほしいと懇願され、ダメもとで面接を受けたのだ。
もやしと言われる細さ、もともと色白で、引っ込み思案な性格も災いして根暗と呼ばれていた私。
会場にはベテランの雰囲気を漂わせる50代前後の女性、体格のいいどんな敵でも殴り倒せそうな男性など、強者ぞろいで圧倒されたのを覚えている。
そして、私の番。
こんこんと、震える手でノックをして入る。
その時の面接にいたのが、夜桜夫妻と、SP、そして、
「お前がいい!」
そう私の顔を見た瞬間、びしっと指をさして即決した当時5歳の風斗様だった。
今でも風斗様はなぜ私をお選びになったのかわからない。
しかも、5年契約だったところ、彼がぐずって延長に延長を重ね、ついには専属にまでしてくれたという話も聞いた。
そして現在。
風斗様は今どきの高校生という感じで、髪を染め、前髪が目にかかるくらい伸びている高身長の少年です。
髪を切ったほうが…というのだが、「ださいじゃん」の一言で終了。
今年受験だといっても、「どうにでもなるだろ」しか言わず、聞く耳を持とうとしない。
そう、私の言葉なんてほとんど効力を持たないのだ。
私が執事になったのは、確か13年前でしたか。風斗様が5歳の頃。
あの頃は本当に可愛いお方だった。
お目目はくりくりで、何かあるごとにヒーローごっこや、お菓子を作ってあげたりして…。
嬉しそうにぎゅーっと抱き着いて「八重好き〜」ってにこにこ言ってくれたっけ。
あぁ…かわいかったなぁ…。
なのに、最近は親の反対を押し切って私同行の1人暮らし(それって一人暮らしか?)するわ、
昨晩だって数学を教えているにも関わらずマンガを読み漁って結局何も聞いてないわ…。
それを片付け終わったのが遅くて私は寝坊して…。
ふわぁ〜と大きなあくびをしてしまう。
「…私は風斗様に甘いのでしょうか」
小さくため息。
ベッドから出ると身なりを整えて鏡の前に立つ。
そして引き出しから一冊の本を取り出した。
これは知り合いから貰った小説。
内容は、ご主人と執事のよくあるようなBL物語。
BLなんて…と思ったけれど…
でも、すごく憧れた。
表紙の2人を脳内で無意識のうちに私と風斗様に置き換えていた。
そう、私は、ご主人様に恋をしている…。
「いつからでしょうか…。風斗様に愛されたいと願ってしまったのは」
ぱらぱらとめくる。
何回読み返しただろう。
もう、お話は覚えてしまった。
セリフを一字一句間違えることもない。
この執事のように、私も風斗様を抱いて想いを伝えたい。
私をずっと求めるようにしたい。
…でも勇気がない。
こんな失敗ばかりで抜けている執事を、風斗様が好きになるはずがない。
現に、ここずっと風斗様は私に冷たい。
もしかしていつかは解雇なんて言われたりして。
自分で考えておいて、ぞっとする。
「…掃除しますか」
―――――――――――――――――――――――……
「ったく、どうして風斗様の部屋はいつも散らかってるのでしょう」
1人暮らし(厳密には2人)をしているといってもさすがは大富豪、別荘の大きさは半端じゃない。
だから風斗様の部屋も広いのだが…。
全体的に散らかっているのだ。
片づけても片づけても片づけても片づけても!
3時間後には元通り。
そしてこの部屋を毎日のように私は掃除をする。
「まぁ、仕方ないからやりましょうかね」
そして掃除をし始めて早1時間。
部屋も大体かたづいてきて、自分で自分を褒めたくなった。
ごみを拾い、窓を拭き、机の上のマンガを元の場所に戻していく。
そして掃除をし始めて早1時間。
部屋も大体片付いてきて、自分で自分を褒めたくなった。
「えっと、あとはカーペットを干して…ん?」
ふと、カーペットをどかすと、床に一枚、ぐちゃぐちゃとしわがよりまくっている紙が。
「なんでしょうかこの紙切れ」
何気なく開く。
その紙にはぎっしり小さい字が並べられていて。
一番上には
『八重に命令。』
と書いてあった。
「な、なんでしょう…私に命令って…」
ドキドキしながら下を見ていくと、その内容は…
『これ買ってこい。
・シャンプー(一番高いやつ)
・リンス(一番いい香りのやつ)
・ノート(機能性を考えろ)
・ゲーム(モン●ター○ンター)
・消しゴム(まとまるやつサイコー)
・ワックス(間違えたら容赦しねー)
・藁人形
…以下略(あと30個くらい)』
なんですかコレ。
風斗様は私を虐めたいんですか?
てか藁人形何に使うんです?
しかし、逆らったら逆らったでいろいろ言われそうなので。
「はぁー、買ってきますか…」
結局全て買って帰ったのは午後5時だった…。
読んでいただきありがとうございます!
この小説を読んで
「面白い!」
「続きが楽しみ!」
少しでも思ったら、↓の★★★★★を押して応援してくれると嬉しいです!
ブックマークもお願いします!
あなたの応援が、作者の更新の原動力になります!
よろしくお願いします!