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不正領域

カナエは、シンク・シティのシステムの深層に触れるべく、設計者の存在を知ってしまった。彼女の心には、これまで信じていた完璧な世界に対する疑念が芽生え始める。だが、彼女が目にした「不正領域」の映像には、単なるデータの不具合以上のものが隠されているように感じられた。


彼女がデータ端末を再度手に取ると、AIの冷たい声が響く。


「カナエ、タスクの進行状況が未完了です。指定された領域にアクセスし、問題を解決してください。」


カナエは反射的に指示に従い、再び不正領域へのアクセスを試みる。だが、画面に映し出された「不正領域」は、以前とは全く異なる雰囲気を漂わせていた。以前の映像はただの無機質な施設だったが、今度は薄暗い廊下の先に無数のデータが飛び交う様子が見えた。それは、シンク・シティの管理外の、完全に独立した世界のようにも見えた。


カナエの指が画面を動かす。突然、画面上にある映像が歪み、ひとりの男性の顔が現れた。その男性は、無表情で、まるで冷徹な計算機のように思えた。


「あなたは、何を探しているのですか?」


その言葉がカナエの耳に響く。声には微かな、しかし確かな恐怖を感じさせるものがあった。カナエはその人物を凝視する。彼の姿は、どこか「設計者」に似ているが、その表情やオーラからは、彼が単なるシステムの創設者であるわけではないことが伝わってくる。


「私はシンク・シティの誕生と共に育ち、しかし、今は違う。」


その人物は、シンク・シティの影の部分に関わった人物だということを暗示する。しかし、その言葉に引き寄せられたカナエは、さらに問いかける。


「あなたは一体、誰なのですか?」


その男は冷笑を浮かべて言った。


「私は、システムの制御を超えてしまった存在。シンク・シティの外部にいる者だ。」


その瞬間、画面が一気にフラッシュし、カナエは目の前が真っ暗になった。


目を開けると、カナエはシンク・シティの外の空間に浮かんでいるような感覚に包まれていた。周囲には無数のデータが流れ、ビジョンが歪みながら新たな景色を映し出す。まるで、仮想現実と現実の境界が崩れたかのようだった。


カナエは自分の立っている場所を確認し、冷静に振り返る。彼女は、シンク・シティのシステムが一部で不安定になっていることを痛感する。外部の存在がどんどんシステムに入り込んできている。自分がこの状況を放置してはいけないと感じ、再びデータ端末を手に取る。


その時、再度AIの冷たい声が響く。


「カナエ、タスクを完了してください。システムに不安定要素を加える行為は許されません。」


カナエは、もう一度その声に反発心を抱く。シンク・シティにおける「最適化」とは一体何なのか、彼女は自分自身に問い続けるようになった。そして、気づく。システムの中で、個々の自由意志が完全に抑制されていることを。


その直後、再びあの男の姿が現れる。彼は少し微笑みながら言った。


「君は、まだ気づいていないのか?システムは本当に完璧だと思うか?」


その言葉が、カナエの胸に深く突き刺さった。彼女は反射的に答えた。


「システムは完璧じゃない。」


その瞬間、画面が一瞬にしてブラックアウトし、次に映し出されたのは、シンク・シティの市街地。平和で、秩序だった街の景色が広がっていた。しかし、その中に、何か不穏な影が見えた。


「君が選ぶのは、システムの一部としての安定か、それとも破壊か。」

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