別章 佐守三奈
ここは、、、?
頬に感じる砂の感触、濡れた服の不快感とともに目が覚める。
目が覚める、、、?私は、、、学校で、、仕事中だったような、、、。
手のひらを開け閉めし、屈伸するなど身体の状態を確認し、びしょぬれながら動かすことに
支障がないことを確認した後あたりを見渡す。
潮の音、海にいる、白い砂浜。
けれど、見たことない植物。たぶん日本じゃない気がする。植物に詳しくないけれど。
「ミナ、ようやく起きたんだ!よかったぁ~、うまく起きなかったらどうしようかと思っていたんだよ。」
目を開けると、自然界ではありえない色のキツネ、青色のキタキツネが目の前にいた。
えっと、、これはなんの冗談なのだろう。
「ミナ、ぼくの名前はメア。覚えてる?って正しく覚えてるはずないよね。ここは地球とは別な世界。その名も」
別な世界、、、。そう、最近流行っていると聞く異世界に来たのね。
子供たちの間でも、流行っていると聞いている。
「そういうのは、ちょっと置いといて。この世界にレイ君は来てるの?来てないの?」
そう、それを確認しないと。私がこれからどうすべきかが決まらない。
「レイ、、、フイラレイだね。彼も、来ているよ。ここから遠く正反対の龍の国に。だけどね。」
そう、この世界に来ているんだ。なら、私のすることは。
「レイ君のそばに行くことはできるのかしら。レイ君は、、、私が守らないと、、。」
彼を守ることが私の使命だから。だから、、、。
「ミナ。彼に会いたい気持ちはわかるけど。でも、会えないよ。すぐには。ミナは彼がいる国とは正反対の国にいるんだから。昼夜寝ないで進んだとしても、3年はかかるよ、ミナの今の移動速度じゃ。」
3年、、、そんな、、、。
「レイ君は無事なの?無事でいられる場所にいるの?もし、無事な場所にいないなら、、、。」
この青いキツネは彼の位置を知っている。それなのに、彼を守る気がないなら、私の敵だ。敵は、まず消す。
「ミナ。大丈夫。彼のところには、ぼくの分体を送ってあるから。よほどのことがなければ、正しく彼を守ることができると思う。」
「そう。」
ひとまず、安心する。このキツネがなんなのかはわからないけれど。
私のこと、レイ君のことを知っていて、おそらくこの転生にもかかわりがある存在。
分体という恐らく、神社の社を分けるような、力を分けて存在させることができる能力がある。
そういった通常よりも強い個体と思われるこの、メアという存在が守ると言っている。
このメアという存在についての詳しい話や、よほどのことという脅威があるということについてはあとで
聞くことにするが、ひとまずは安全であることがわかってよかった。当座ということではあるようだが。
一刻も早く合流しないといけない。レイ君になにかあった時には私は、、、。
「メア、いろいろ聞きたいことがあるの。いま、ここですぐに答えてほしいのは、ひとまず4つ。まずは、レイ君を絶対に守ること。次に、あなたがなんなのか。それから私とレイ君のことをなんで知っているのか。最後にこの世界はなんなのかを教えてもらってもいいかしら。」
レイ君を見つけ、この別な世界からもといた世界に戻る。それが目的だけど。
まずは、土台の情報がなければ、どうしようもない。それに、このメアが味方なのかどうかも知りたい。
少しの間、青いキツネ、メアは前足で顎をさすり考え事をしているようだったが口を開いた。
「いいよ、教えてあげる。でも、その前に、ミナにぼくからもお願いがあるの。」
まっすぐに、目と目が合う。
その目線は、どこまでもまっすぐで、遠く海の先の先を見ているようで
自分の好きな作者の画を事前に情報を調べておいて美術館で間近でじっくりと隅々まで見るような、魂の底まで見つめられているようなそんな気がした。
「ぼくと契約して。この世界を、救ってほしいの。正しく。」
断りたい。契約?間違いなく、厄介なことになる予感がする。
契約は、契約違反をした際の受けさせたい罰則のためにあることも多い。
不利益が大きすぎる。この世のことを知らないのに。いろいろと反対への理由が脳内にあふれ出す。
ただ、このまっすぐな、純粋な目を見ていると、なぜか、レイ君のことを思い出す。
淀みある闇を抱えながらも、光をもち、前を向いて進もうとする、その目が、気になる。
「メア、それは、無理よ。この世界のことを何にもしらないし、さすがに無茶が大きいわ。」
「じゃあ、この世界のことがわかったら、だいじょうぶ?」
メアがきらきらと目を輝かせて言う。宿題を忘れてなんとか助かろうと言い訳をしている子供のようだ。
いや、そういうことではないのだけど。
「レイ君を守ることを第一に。忘れないでね。メア、やっぱり先に教えてくれないかしら。この世界のこと、あなたのこと。それからあなたの言ったことを考えるわ。」
「そっか、ちゃんと考えてね。正しく、レイ君を守るし、ぼくもちゃんと話すから。」
にこにことしてメアがすうっと息を吸った。
「ぼくは、メア。空気の神、石の神、水の神といわれる原初の3原神がひとつ。ぼくは水と一緒のようなもの。水が通ってるすべてのものから情報を得ることもできるし、この世界の水に関係するすべてを自分の意に沿って動かせること。ただ、意思のあるものは、難しいけれど。あとは、あなたの世界の水の一部かな。これがミナの一つ目の質問の答え。」
にこっとはにかむ。
「ミナとレイのことを知っていたのは、二人とも、ぼくの知っている人たちの子供なんだ。向こうの世界からこちらに連れてきたんだよ。力を使いすぎて、ずいぶんと弱まってしまったけどね。でも、会えたからうれしいんだ。この世界を救ってくれる力があるから、お願いしたかったんだ。」
知っている人たちの子供?両親のことか?この世界を救ってくれる力があるとなぜわかる?疑問が湧く。
「3つ目。この世界のことなんだけど。ぼくは末っ子だから、ほんとの最初は知らないんだけど。お姉ちゃん、の空の神から聞いたことを話すね。長くなるよ。最初から話すからね。正しく。」
「“初めに、太陽と月があった。原子と分子があり、そこに素力子というものが交わった”。」
「この素力子が魔法の力だよ。本来の。いまのみんなが使っているのは、間違った力なんだ。それを、正すことがお願いしたいことの一つかな。物質それぞれが意思を持って過ごしていたんだよ。」
深く、神の響きというのだろうか。心に届く声。神社の奥に踏み入れた時に、神域に入ったと感じるその瞬間のような気持ちがした。ただ、途中で元通りの子供のような無邪気な声に戻ることもあるけれど。
「“物質同士で整合と分解を繰り返した、そこから空気、石、水が生まれた。その代表者が3獣神となった”」
「よくみんなで、遊んだんだ。お姉ちゃんが作った空間で、にいちゃんが作った大地をぼくが作った海の上で、水切りをして遊んだっけ。大地が飛びすぎて変に世界を飛び越えちゃったときもあったなぁ。」
「”空の神が、空気の清浄のために植物を生み出す。植物が石と水をもとに成長した。力が還元するため動物を生み出した”。」
「最初はみんな仲がよかったんだ。だけど、互いが互いを食べる量が増えちゃったんだ。植物の代表の女神デッキンソニアと動物の代表の男神、アニマリウスが話し合ったんだけど、争いになっちゃった。それがこの世界の一番初めの戦争。第一戦争。」
メアがふぅっと息をつく。
「まだまだ続くよ?だいじょうぶ?」
うなずく。質問はあるけれど。まずは話を聞いてから。
「“植物、動物、どちらの陣営にも太陽の力を扱う太陽族 月の力を扱う太陰族がいる。
争いの中でそれぞれ配置があった。特に動物側では12支臣と呼ばれる12種族が主立って戦いに参戦した。
太陽の眷属には龍 鳥 未 申 戌 亥
太陰の眷属には虎 亀 子 丑 巳 午
太陽の力が強い戦いの激しい東には龍。月の力が強い戦いの激しい西には虎。南に龍の眷属の朱雀
北に虎の眷属の玄武”。」
「そのうちに、お姉ちゃんが植物の側に。にいちゃんが動物の側について争いが大きくなっていった。
ぼくは怖くて隠れてた。あのときも、いまも。そして、、、。あれが生まれたんだ。」
メアの視線が下を向く。絵具を水に落としたときのように、ゆっくりと暗いにごりが
その目を濁していく。
「7つのペカタムたち。それが現れたんだ。それから、前の戦争がお遊びだったと気が付いた。お姉ちゃんと、にいちゃんの遊び。前の戦争のときは、大勢が倒れたけれど、消えなかった。でも、ペカタムたちとの戦争は、たくさんの魂が消えた。第2の戦争。この世界を大きく変えたのは、この戦争からだよ。ペカタムたちと、その形に似たバル。その形はあなたたちの世界の人間の形にも似ている。」
「”最も望まれぬものが現れた。それは、この世界を包まんとした”。」
「7つのペカタムたちとバルたち。多分、どちらも、創作されたもの。どこでどう創作されたかはわからないんだけど。彼らを新たな種としてお姉ちゃんとにいちゃんは迎え入れようとした。でも、彼らはそれが気に入らなかった。自らを縛るものたちを許さない。とね。それから、破壊し始めた、すべてを。植物、動物、土地、空間、海。すべてを。再生の伴わない、無益な破壊。すべてを巻き込んだ戦い。最初は、お姉ちゃんとにいちゃんが率いる統一軍が優勢だった。でも、7つのペカタムが、ひとつの個にまとまってからは、まったくかなわなくなっていった。もしかすると、ぼくたち以上の力を持っていたかもしれない。いや、いただろうね。正しく。」
「それから、戦いは激しくなった。多くの種が滅んだ。破滅が近づいて行った。そんな中でも少しの希望が見えた。破滅を望むペカタムを嫌がったのか、バルたちの中で一部が、こちら側に来てくれた。そのおかげで、ペカタムがなんなのかが、わかったんだ。申の国にて人工的に作られたそれは、この世界の基のひとつである、素力子を吸収し、自らの因子、ペカタム因子に変える。無限に自らの力を拡げられる。そういった、存在になっていた。」
「戦いを、ペカタムを終わらせるため、動物の男神と植物の女神がその魂を持って、核を作った。それを依り代として、お姉ちゃんとにいちゃんがその中にペカタムを封印した。その時、ペカタム因子が混じってしまったんだ。封印はなされた。でも、素力子を自らの因子に変えるペカタム因子は、毒のようなものだ。お姉ちゃんや、にいちゃんにも、その毒は回った。ゆっくりと。それからお姉ちゃんとにいちゃんは、永い眠りについた。あれから会うことはできてないよ。」
「“力の核は救世協会によって23に分かたれた。12は12支臣。11つは11亜綱。力は巡り、世界は変わる”。」
「力の核とは、ペカタムの核。核を分けて、少しでも因子の力が分散され消えていくように動物と植物のそれぞれの長達に配られたんだ。それでも、世界の第4つ目の因子としてペカタム因子は世界にあるものになっていった。救世協会は、お姉ちゃんと兄ちゃんが作った元統一軍。いまでもお姉ちゃんと、にいちゃんに心酔していて、なんとか復活してもらえるようになにかしているみたい。ぼくも正しくは、詳しく知ってないんだ。」
「争いは終わった。けど、ぼくは隠れ続けた。怖かった。お姉ちゃんもにいちゃんもいない、この世界が怖かった。だから、別の世界に逃げた。」
「いろんな世界を見に行った。君たちの世界もその一つ。そこで君たちの両親にあったこともあるんだよ。」
「気になるとは思うけど、続けるね。久しぶりにこの世界に戻ってきたときに、バルたちがとても増えていた。繁殖能力も高く、器用だったからか、動物、植物たちの便利な食料としてよく使われていた。怪訝な顔をしたね。食料と言っても、素力子を摂取できていれば存在を保持できるから、肉を食らうというものではないよ。力を抽出して、生かさず殺さず。言い方がよくないけれど。そういう奴隷のような扱いをされていたんだ。」
「バルたちは、自分たちの国を求めた。争いはなく、条件付きで領地が認められた。その条件は、動物と植物の領地の中での自主領地、毎月の素力子の提供。領地内の救世協会の設置。自由を求めたバルたちだったけど、まだ、完全に自由にはなれていなかったんだ。火、雷、水、土、空気、夜の6人のバルたちのリーダーがそれぞれ土地を持って運営していた。」
「バルたちは動物や、植物とともに共存できていた。ペカタムの残した因子によるペカタム化、つまりは、その身にある素力子がペカタム因子化したこの世界のすべてを破滅せんとする意識をもつ罪落ちがこの世界に増えてはいたけれど、ともに倒していた。」
「でもね、ゆっくりと、ペカタムが封印から解き放たれようとしているのが、ぼくにはわかってた。
この世界の水を通してぼく自身も汚されていくのがわかってたからね。でもこの世界の存在に助けを求めることはできなかった。救世協会が素力子でなく、ペカタム因子を使用したトーラの体系を使用し始めてから、この世界の存在に触れることが怖くなってしまったんだ。」
「この世界を救いたい。けれど、この世界の存在には触れることが怖い。だから、間違いを犯してしまった。ぼくの、二番目の間違い。ヒトをこの世界に呼んでしまった。そして、最後の戦争が始まった。」
「この世界以外の存在を君たち以外の世界からも呼んでいたんだ。けど、この世界に合わなかった。ペカタム因子に飲まれてしまった。罪落ちとなり、そのまま、、、。順々に世界をめぐって君たちの世界の番になった。そして、エンテンカツジ、あの男を連れてきてしまった。」
「君たちの世界から来たヒトは、正しく、アニマという力をもってこの世界に来る。それはそれぞれの魂からくる力みたいだ。」
「カツジのアニマは、運と命をつかさどる能力だった。その力で、一定の安定をもたらしたよ。でも、彼自身が、元から歪んでいた。申の国の姫と子を成し、申の国の核保有者になった彼は、ほかの国へ戦争を仕掛けた。理由はわからない。そうして、第3の戦争が始まったんだ。」
「戦争は、長引いた。カツジのアニマの力は強大だった。運と命を自由にできる力に苦戦したんだ。」
「バルの各リーダーたち、23の種族の長である核保有者が集い、彼を打ち取った。けれど、そのうちの一人がペカタム因子により、罪落ちとなった。その罪落ちはテネブリスと名乗った。完全体ではない彼は元の姿、ペカタムに戻ろうと手下とともに核を求めた。核保有者は、抗ったけれど、次々と核を奪われていった。この世界はほとんど飲み込まれて行こうとしていた。ぼくは、また君たちの世界から4人、連れてきた。僕自身があまり力が残っていなかったから、若い4人を呼んだ。それがぼくのした正しく、少しの良いことのひとつ。彼らの力、救世協会の上級詠唱士、残ったバルのリーダーたちや、核保有者。すべての力が、テネブリスとその配下と戦い、そして、勝利した。テネブリスは消えた。英雄の4人は、その要望のまま、元の世界に戻した。それが、ミナ、レイ、君たちの両親だ。そうして、この世界はいまに至る。」
え、、、。両親が、、、?この世界と関りがあった、、、?
「ぼくは、無理をしすぎた。目が覚めたのは、最近だよ。ミナとレイがこの世界にくるもうちょっと前。」
「起きて、すぐに後悔した。ごめんね、、、そばにいることができなかった。君たちを消さんと、君たちは正しくない運命のもと、歪んだ道を進まされた。でも、立派に、、、立派になったね。会えてうれしいと言ったら、怒るとおもう。けど、ぼくは、、、。うれしいんだ。ミナ、、、君はお父さんに似てる。そのまっすぐと目的を果たそうとするその目が、、懐かしいよ。」
メアが、言葉を止めた。
少し、してからまた話し出す。
「この世界のことは、伝えられたと思う。ミナ。」
にこっとメアが笑う。
そうね、私は、もう決めている。
「その契約、します。」
メアが、はにかむ。ぽこん。というポップコーンがはじけるような音がして。
目の前に幼稚園児ほどの女児が現れた。キツネの耳、青いショートボブの髪に、ロング丈のカーディガンにスカートをはいている。光差し込む透明な海を着ているかのようなさらりとした色合いのコーディネートだ。後ろでフリフリとしっぽが動いている。正直、かわいい。
「久しぶりに、この姿になったよ、、、。けど、前より貧相になったな、、、。正しく、力が弱まっているんだなぁ。これからする契約に、動物の姿じゃ不便だからね。バル、いや、ヒトの形に似せて、契約をしているんだ。」
てへてへとメアが頭をかく動作をする。
「ありがとう、ミナ。お願いを聞いてくれて。これから、もちろん、内容も正しく、説明する。」
契約のメリットは、多くある。
両親のことをもっと知りたい。いろんな質問がある。
私とレイ君はどちらも両親を亡くしている。それに、、、。
私の手はもう、すでに。
守るための覚悟を、この魂に刻み、それを糧に生きている。
ふと、メアを見ると、なぜか寂しそうな顔をしていた。
少しして、やわらかく、覚悟をもった顔で、こういった。
「ミナ。この世界を、正しく救うために。その手で終わりを迎えさせてください。」
と。