第8話 ゴブの実戦訓練 物理で殴ればいい
俺はこんぼ……シャルルを構え、大群に向け駆け出す。
先頭の数匹が棍棒で俺を殴り倒す為に振りかぶる
――が、見える、動きが見えるぞ。
頭を粉微塵に潰さんとする一撃が迫るが落ち着いて掻い潜り集団の裏にまわる。
すかさず、両手で持ったシャルルを振り回しゴブリン達をなぎ払う一撃!
『あ、ちょっと……』
「うおりゃ――!!」
いつぞやの様にまたまた豪快に空振った。
一瞬怯んだゴブ共がグホグホ笑っている、毎度の事ながらムカつく……。
とりあえず後方に飛び退き、距離をとる。
『全く、見てられませんね。……主、貴方は惨めな程の短躯なのです、あんな広い間合いで当たるはず無いでしょう!』
くっ、そうだ、今の俺はゴブリンなんだ。
ゴブリンの間合いを理解しないとシャルルの言う通り、攻撃が当たらない。
『私を持つ手を伸ばして敵との間合いを計り直すのです!』
シャルルに言われた通りに慎重に、それでいて迅速に間合いを見定める。
俺のリーチはシャルルを含めて1メートル半チョイ、よしっ!
『私に魔力を流しながらゴブリンを殴り倒しなさい、出来ますか?』
「出来ます、も、ません、も無いんでしょう!」
そう叫ぶと同時に俺は地面を踏み切り、ゴブリン軍団の居る前方に全力で跳ぶ。
今度こそ全力の一撃!
「とぉりや――!!」
ぐわっしゃ!
今度は見事に頭にヒットしてゴブリンは血反吐を吐いて倒れた。
かなりのグロ映像だったはずなのだがなぜか意外と平気だった。
アドレナリンでも出ているのだろうか、崩れゆく小鬼が酷くゆっくり見えた。
『やはりこのゴブリン、……主はセンスがいい……』
確かに普通に殴る様な破壊力ではない。
先に魔法での訓練を受けてレベルが上がっていたお陰だろうか。
まあ、これが本当の「ステータスを上げて物理で殴れば良い」ってやつか。
理解したぜ。
そんな事を考えているとゴブリンの残骸から淡い光の玉が浮き上がり俺の首からかけてるプレートに吸い込まれていく。すると身体に僅かながら力が漲りゴブリンとどう戦えばいいのか等、色々とイメージが浮かんでくる。
これは、もしや、あれかな、ゲームで言う所の経験値的なものかな。
魔法訓練の時は爆風やらが激しくてよく見えなかったが、なるほど、こうして経験を積んでいくのか。
そう思って改めてゴブリンの群れを観察してみると何故だか何とかなるような自信が湧いてきた。
戦えば戦う程に、その魔物の特性を経験値として積み重ね、動きが予想できるという事なのか。
その後は群がるゴブリンの群れをぶん殴る、なぎ払う、たたきつぶす!
俺が通り過ぎる度にゴブリンは血しぶきを上げながら残骸となって倒れていく。
とは言え、魔力コントロールが全くなってない俺の戦い方はシャルルのサポートを受けてはいるが素人そのものだ。攻勢を続けているものの精神的疲労が溜まったのか、酷い頭痛に苛まれる。
疲労感自体はスキルで回復しスタミナ切れは起こさないが精神的な疲労は回復する事は出来ない様だ。いくらレベルアップで能力が爆上がりしていても万能回復系のスキルを持っていても魔力の消費も激しい。それを見越したかの様にシャルルが俺に語りかけてきた。
『主よ、魔力に無駄が多すぎます。私的には流れてくる魔力が多いに越した事ないですが相手がゴブリンレベルならもっと出力を絞っても十分倒す事ができます』
「出来ればやってるよ!」
『……なるほど、どうも先ほどから主のその強大な身体能力の割に戦闘経験がないと言う訳ではないが、それを忘れてしまったかの様な素人同然の動きに疑問を持っていたのですが……主は面白い魂の色をしていらっしゃいますね。なりはゴブリンですが魂の質は上級悪魔かそれ以上の底力を感じます』
「そりゃどうも、前職は魔王だったのでね。さぞかし素質はあるだろうさ」
そうなのだ、俺は元魔王なのだからきっと素質はあるんだ、素質は。
『ようやく合点がいきました。主の場合、封じられたとか、その様な事ではなくて全ての能力を忘れてしまった様ですね、今すぐとはいきませんが少しずつならその能力を開放していくお手伝いに私が力を貸しましょう』
「うぉ、まぶし!」
そんな事を言ったかと思うとシャルルが突然銀色に輝き出して思わず俺は顔をしかめた。
未だ俺は訓練中でゴブリンの群れの真っ只中にいたがその光のお陰か隙を付いて襲って来る奴はいなかった。
やがて光が収まると俺はある事に気づく。
「あれ? まただ、……初めてファイヤーボールを習得した時と同じだ。わかるぞ、どう戦えばいいのか、はっきりと!」
『それが主がかつて持っていた知識です、本来であれば主にとってゴブの群れを殲滅するなど容易い事なのです』
シャルルのその言葉に後押しされ戦闘を再開した俺の動きは先程とは比べ物にならない程に洗練されていた。
まるで外見はゴブリンでありながら懐かしき魔王の能力を取り戻したかの様……は言いすぎかな。
それでも普通のゴブリンの動きとはまるで比べ物にならない――、
『主!!』
――関係ない事を考えていた俺にシャルルが叫ぶ!
ほぼほぼ反射神経のみで俺めがけて飛んできた火球をシャルルをフルスイングして打ち返す!
『あっちゃちゃちゃ!』
火の玉はあさっての方向に飛んで消えた。
『あついじゃないですか! 燃えたらどうするんですか! まあ、私はあれしきの炎では焦げ目すら付きませんけどね』
うるせぇ棍棒だ。
燃えるのか、燃えないのか、どちらかにしてくれ。
どうやら魔法使い……ゴブリンメイジがいるらしい。
あのレベルのファイヤーボールが当たっても、やられはしないが少々鬱陶しい。
シャルルで弾き返しながら突っ込んでもいいけど、いちいちうるさいので別の方法でメイジを倒す事にしよう。
とはいえ、このままではメイジの位置が特定できないのでまた上空から探るか。
「そりゃっ!」
魔法訓練の時にバカみたく高く飛んでしまったから、そぉっとジャンプ……。
「うぉおおおおおっ!?」
――って、それでも高!
魔法の時も思ったけど俺のジャンプ力どれだけ強いの!
地上のゴブリン達は、はるか上空に飛び去った俺の姿を見失いギャーギャー騒いでいる。
……居た!
上空から見た集団の奥に薄汚いボロボロのローブを身に付け木材を削り出した粗末な杖をもったゴブリンメイジが5体。
ゴブリンの癖に職業に沿った服装をしているんだな。
いや、そういう俺も鎧をきてたね。ゴブなのに。
メイジ達の一匹も俺を見つけたらしく果敢にも火の玉を空中に撃ってきた。
上空に打ち上げたせいで速度の落ちた火の玉は俺にとっては超スローボールだ。
火の玉スローボールだ。
シャルルで打ち返そう……としたが、後でうるさいので左手に魔力を流してパンチで火球を跳ね返す。
少し熱かったが跳ね返した火球はメイジ目掛けて飛び、ローブに燃え移ると哀れにもメイジごと炎上した。
燃え落ちる同胞だったものを見て怒りの声をあげた残りのメイジも火球を打ち上げてくるが悉く打ち返されては炎上していく。
あっと言う間にメイジ達を黒焦げにした俺は着地した後もゴブリンを片付け、経験値を増やしながら群れの数を削っていった。
「はぁ、はぁ、――ようやくお前だけか」
シャルルのサポートを受け魔王のスペックの数万分の一でも取り戻してるとはいえ俺の疲労はそろそろ限界だ。
省エネ重視で戦えば良いのだろうが、分かってながら今の俺にはそれが出来ない。
だが、形振り構わず戦った甲斐あってゴブリン軍団も既に残り1匹……、しかしながら、デカい。
こりゃ、あれだな。
ゴブリンジェネラル、リーダー格だな。
通常ゴブリンの倍はある赤色の体は筋骨隆々で質はそんなに良くないが鉄製の全身鎧を身につけている。
『奴はそこそこの強さです。素早い動きと手に持つ大剣に注意なさい』
そうなのだ、ジェネラル級は俺の身長と同じ位の大剣を装備している点が非常に厄介である。
さっきから隙を伺っているのだが、下手に手を出せば俺が大剣で叩き潰される未来しか見えない。
戦い馴れてるな、あいつ。
ゲームでもゴブリンジェネラルは序盤の鬼門と呼ばれる存在で弱いうちに出会うと一刀両断、そこそこ強くなっても強力な膂力の為、討伐に手こずる魔物の1匹だ。
数回、打ち合ったが他のゴブリンの様にはいかず全て大剣で防がれてしまった。
多少高いスペックを得たとしても所詮ゴブリンの身体、F1のエンジンを軽自動車に乗せたようなものだ。
大きな力を十全に使いこなせず、まだ振り回されている為、決定的な一撃を繰り出せずにいる。
ジェネラル級の隙を伺いながら何か打開策はないかと辺りを見回す。
すると先ほど燃え上がらせて始末したメイジの残骸近くに奴の使っていた杖を見つけた。
黒焦げになったメイジが慌てて放り出した為に原型を保っていたのだろう。
魔法なら! ――っと閃いたと同時にジェネラル級も動いた。
今まで以上の速さで俺めがけて大剣を横薙ぎに振るってきた、やばい!
俺は姿勢を低くし地形を変える程のジェネラル級の剣戟を辛うじて避け、杖目指して駆けた!
「シャルル、魔法使ったらまずいかな?」
『いいんじゃないですか、ジェネラルを物理だけで倒すのは骨が折れますし、今回は物理限定とは言っていませんでしたし……』
「ですな」
追いかけてくるジェネラル級をもう一段、ギアを入れ直し引き離す。
全力で走りながら左手で杖を取り茂みに滑り込む。
追って来たジェネラル級が覗きこんできたので杖をやつに向け……。
「ファイヤァァボォォオオール!!」
ごぉぉぉおおおおおおお――!!!
杖からファイヤーボールとは思えない程の出力で炎がぶっぱなされた。
その反動で小柄な俺は吹き飛ばされる。
「うわぁああああ――!!」
なに、今の?
出力過多は分かってたけど程があるだろ、火炎放射器みたくなってたぞ!?
『……相変わらず出力調整が壊滅的に下手ですね』
立ち上がった俺が見たのは顔のすぐ横を炎が通り過ぎて呆然としているジェネラル級だった。
バカみたいにぶっぱなした魔法の炎は周りに燃え移り、俺とジェネラル級は火に囲まれ始める。
それでも、さすがに気を取り直して咆哮をあげた。
「くっ!」
茂みから這い出すように飛び出した俺をジェネラル級が追ってくる。
再度、杖を奴に向けて魔法を放とうとしたが何故だかウンともスンとも言わない。
えっ、えっ? なんでだ、どうすればいい!?
『落ち着きなさい、主!』
動揺する俺を見かねてシャルルが声をかけてくる。
『私に流す魔力の形を伸ばしてみてください、出力を上げるのです、それならジェネラル級といえども倒す事は可能です』
出力を上げる? それなら得意だ、こうか?
これでジェネラル級を倒せるのなら魔力なんて幾らでも……。
『ぎゃーーー! だ、だから流しすぎです、主。その半分で十分です!』
そ、そうか、難しいな。
走りながら俺はシャルルに魔力を流し直す。
するとシャルルが仄かに白光し始めた。
『おおっ、いい魔力です! これで決めますよ!』
よしっ!
逃走を止め、急ブレーキを掛けて反転しジェネラル級の顔めがけて地面を蹴った
ジェネラル級の汚らしい顔めがけてシャルルを振りかぶる。
シャルルが纏う光が剣の様に伸び1.5倍程の長さになる。
渾身の一撃!! くらえ!!
「だぁ――――!!」
ぐびゃっしゃあ!
全力で振り下ろしたシャルルはジェネラル級の頭頂部にめり込み嫌な音を立てた。
首が完全に胴体に沈んだジェネラル級の身体は衝撃を支えきれずに他のゴブリン同様、轟音と共に倒れた。
「グ、グロ……」
頭頂部が陥没し半分位頭が胴体に埋まっているジェネラル級の凄惨な最後を見てさすがに気分が悪くなる。
着地して嘔吐いていると他のゴブリン撃墜時と同じ様にジェネラル級の残骸から光が舞い上がり、俺の身体に吸収された。
……なんとか勝てたらしい。
『言った通りになりましたね。ただ、次からは魔法を打ち返す時は遠慮せずに私に魔力を込めて打ち返しなさい』
「いいのか? 熱い熱いと騒いでたじゃないか」
『大丈夫です。魔力を込めてくれさえすれば私は大抵の事はこなせますので。それで早速なのですが少し魔力を流して頂けますか? ゴブの返り血まみれなので』
「なるほど、わかったよ」
シャルルに魔力を流し込むと銀色に輝き汚れが全て綺麗に無くなった。
『はぁ、さっぱりした』
俺とシャルルが話していると離れて見ていたアルシーが驚きと喜びの表情を浮かべながら飛んできた。
「イナバ様! 凄かやんか! ジェネラル級ば倒すなんて。絶対に勝てんて思うとったけん」
俺を持て囃すアルシーに面食らっている内にも周りの森は燃え広がっていく。
「あ、アルシー、それよりも森が燃えていく! 何とかしてくれないか!?」
「あー、そうやね、じゃあ、こんな感じで……」
そういうとアルシーは手に持つ杖を掲げクルリと一回転した。
光のカーテンが広がり森に広がった炎が消えていく。
「す、すごい……、いや、さっき絶対勝てないって言ったよね? 勝てないのに挑戦させたのか?」
「いやいや、貴重な人材ばこげん事で失う訳にはいかん。戦闘技能はこれから伸ばしよるっちゃ、イナバ様の能力ならば負けはせんて思うとったと、いざとなったら、私が手ば貸すつもりやったけん。ばってん、つい見とれてしもうて……、イナバ様、強かとねぇ」
アルシーは何だかしらんがウットリとしている。
「強か男は好きやけん。イナバ様には強い男の雰囲気があるて思とるよ。こん調子なら魔王軍最強んも夢やなかかもしれんね。近こううちにウェルニーに向かう事もできるやろう」
好きとか言うなよ、照れるだろ。
――ん? ウェルニー? ……そうか、そろそろか。
出来る事が爆発的に増えるのが魔王軍ギルドに所属し一兵卒として戦場に出る頃からだ。
このゲームはギルドに属してからが本番と言える。
「ステータス見るばい、イナバ様」
ん? そうか、成果を確認しないとな。
どれどれ。
名前:イナバ(♂)
種族:ゴブリン将軍
称号:伝説のゴブリン大将軍
レベル:35
HP:322/322
MP:265/265
固有スキル:再生 LV5
:成長促進 LV5
:絶影 LV5
常時スキル:言語LV4、筆記読解LV1
魔法スキル:【炎属性】ファイヤーボールLV10
:【風属性】ウインドウヒールLV10
「お、LVが上がってる。スキルはそのままか」
「本当やなあ! 凄かとね。このまま成長していけば次の進化でオーク(笑)になれるとよ」
オーク(笑)か――い!
早く人型になりたい(涙)。