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魔王軍立志伝―仕事を辞めたら魔物になりました―  作者: ヨシMAX
第1章 新米ゴブリンの挑戦
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第42話 オークと王女の宿命



 リーザの部下の一人、テレサは恐らくロマリアスの手に落ち潜入スパイとして利用されていたようだ。

 そして捕虜の口から秘密漏洩する事を恐れた彼女は自身でその命を絶ち今までの報いを受ける事となった。

 彼女達は秘密を洩らすと自爆する呪いを受けていた。

 俺達を巻き込んで爆発してしまうリスクを避けたかったのだろう。


 しかし彼女がそんな不幸を受ける程の事を自主的にしたのか、という問いには俺は当然、答えを見つけられずにいた。



 「テレサの後任となりましたクインシー・ベントレンゼンです。よろしく」


 「……どうも、よろしく」


 彼女が手を差し出してきたので握手を交わす。


 組織と言うのは感傷に耽る暇もないようだ。

 テレサの後任はメガネをかけた知的な少女だった。

 紺色の長い髪が美しい彼女は手も小さければ背も低い。

 この様な戦争に縁の無さそうな子も戦うのか。


 とは言え、クインシーと名乗るその女性ももちろん知勇兼備の剣士だ。

 ただテレサという女性の不幸を思うと割り切れない部分も残る。

 まあ、人は慣れていくもんだろう、良くも悪くも……。



 リーザ隊300は賊の殲滅戦でほとんど損害を出していない為、騒動の後に間もなく出立し道中の山脈を超えサンダルファン王国の国境近くまで辿り着いた。

 俺達はそこで想像もしていなかった光景を目にする事になった。

 それは国境近くの小さな村に着こうかとしていた頃だった。



 「リーザ様! 煙が上がっています。村が、村が燃えています!」


 「なんですってっ?!」



 先頭にいた騎馬兵から唐突に報告が入った。

 慌てて前方を見るとまだ遥か遠いが確かに家屋が燃えていた。



 「くっそっ! 一体何が起きているんだ」


 「イナバ様、お乗りください!」



 リーザは自分の騎馬の後ろに俺を乗せ現場の村に駆けた。

 そこは……地獄そのものだった。


 家屋は燃え黒煙は空高く立ち上り村人は根こそぎ切り捨てられたかの様な雑な殺され方をしていた。

 飼育されてたであろう家畜やペットも無造作に頭や四肢が切り落とされていた。



 「これは……酷いですの……」


 「くそっ、何の為に……こんな」


 「イナバ様、あれは……まさか……」



 セレル様が村の中央で何かを見つけて駆け出した。

 慌てて後を追うと山の様に積み上げられた屍の山に旗が突き立てられていた。

 それは……サンダルファン王国のニルス王子隊の旗だった。



 「あの男は……本当に……何をやってるんですかっ!!」



 普段、冷静なセレル様が怒りを爆発させた。

 無理もない、占領するならともかく何故こんな殺戮をする必要があるのか。

 ただこれで分かったのはサンダルファン王国は既に国王の権威が及ばなくなりつつある領地があるという事だ。

 そしてニルス王子の叛意が確実となった。

 だが今の俺達にはそれを報告し助力を頼める勢力がない。



 「セレル、予定通りにサンダルファンの城に向かうかい?」


 「……そうしましょう、父が無事か、心配です。申し訳ありませんがサンダルファンに向かいましょう」


 「わかった。リーザ、出来る限りで遺体を埋葬しよう。火を消す隊と分けて作業しよう」


 「わかりましたわ。急ぎ! 準備を!」



 俺達は村の犠牲者を埋葬する隊、火事を消火する隊、瓦礫を片付ける隊に分かれ作業を開始した。

 埋葬する隊の精神的負担を考え少しづつ交代させた。

 作業完了後も急いではいるが充分に休息を取りサンダルファンに向かう事とした。


 作業は順調に終わったが日が傾いた為、リーザは夜営の準備を隊に指示する。

 本当にリーザ隊はしっかり統率が取れていてお互いに協力し合って行動出来るな。

 これも彼女の統率力とカリスマ性がなせる業か。


 俺が部隊の手伝いをして作業をしていると焚火の監視をして考え事をしているセレル様を見つけた。



 「セレル、どうかしたかい?」


 「ああ、イナバ様。……王の事を考えておりました。ニルスの反乱は最早疑い様の無い事実と思えます。そうなるとニルスに従う兵もそれなりにいるという事で王の身辺が心配です。もしかしたら国外にも協力者がいるかも……ベルリーザのルゼブナックの様に……」


 「確かに……こうなるとエルンヘイムもどうなっているか分からない。今はとにかくサンダルファンの状況を見て今後の方針を決めないと……王を救出しないと」


 「……有難うございます。ただこれはダメだとイナバ様がお考えになられたのなら躊躇なく部隊に転進のご命令を出してください。今のエルロアに必要なのは……サンダルファン王ではなく恐らく貴方です。イナバ様」


 「……」


 俺がなんと返答しようか迷っているとけたたましく言い合う声が聞こえてきた。

 何事かと思い声の方を向くとリーザと部下達が何者かを連れてこちらに向かって来ていた。



 「こらっ! 大人しくするんですのっ! 悪い様にはしませんのよ!」


 「うるさいにゃーっ! 私はエルンヘイムに戻らなきゃいかんのにゃ!」

 

 

 ……んっ?

 この声は……!

 


 「……イナバ様っ! このお声はっ!」


 「リリアッ!! リリアかっ?!」


 

 聞き覚えのある声に俺とセレル様は一斉に反応した。


 リーザに連れられた猫人の少女が目を見開く。

 その瞳は瞳孔が細くなり、大きくなり、忙しなく涙で溢れていった。



 「イナバさんっ! セレル様! やっぱり生きてたにゃーーーっ!!」



 リリアは拘束を振りほどき俺めがけて抱き着いてきた。



 「リリア、リリア、良かった……一体これは?」



 俺はリリアの頭を撫でながら連れてきたリーザに経緯を尋ねた。



 「申し訳ございませんの、サンダルファンの方角から来たので他国への密偵かと思いまして……」


 「そうにゃん、サンダルファンはニルス王子のクーデターで既に落ちたにゃん。王と王妃は国外に脱出、側近は既に処刑されたにゃん」


 「……間違いないのか? リリア」


 「みんなとはぐれてから私はサンダルファンに向かい内部を調査して来たにゃ。私がこの目で……見て来たにゃ。……事実にゃん」



 セレル様が息を飲むのが気配で分かる。

 その小さい身体が細かく震えている様にも見える。



 「セレル様……王と王妃の行方を追いましょう」


 「いえ! ……大丈夫です、大丈夫……。事ここに至っては悪戯にサンダルファンに向かうのはリスクがあります。私は軍人ではありませんが……一刻も早くエルンヘイムに向かい旧魔王軍と合流すべきと愚考いたします」


 「セレル様、それでは……」



 痛ましい彼女の様子を見て俺だけではなくリーザも心配をする。



 「大丈夫ですよ。有難う、リーザ。……常々王は私に言い続けておりました。何かあればエルンヘイムのマルファス王を頼りなさい、と。私は……例えこれが今生の別れになるとしても……マルファス様の後継者イナバ様と共にあります」


 「セレル様……」



 俺達は彼女にどう言葉をかければよいか分からなかった。



☆★☆★☆★



 リリア様からの報告は私に言い様の無いショックを与えました。

 今すぐ国に戻り二人の行方を追いたい衝動に駆られます。

 ですが私はサンダルファン王国第一王女です。


 ニルスとは違う道を歩み彼の悪意を避け生き延びなければなりません。

 王国と言うのは極論を言ってしまえば王の一族さえ無事ならば存続は可能。

 なので私はサンダルファンではなくエルンヘイムに命運をかけます。

 後の世で世間の人々が私を強者に靡いた悪女と評価したとしても構わない。

 サンダルファン王国の正当性は私が守ります。

 

 その為の王の指示であったマルファス王は既に亡くなりました。

 ならば私はその王が全てを託したイナバ様に命運をかけます。


 できればもう一度会いたかった、お父様、お母様。

 来世で……会いましょう。



☆★☆★☆★



 俺達は来たばかりの山脈を再度超えて砦に戻ってきた。

 そして休憩もそこそこに指令官用テントに集まり現状を確認しあった。


 ベルリーザ帝国にてマルファス王は奇襲を受けて討ち死。

 帯同していた第一王女ヒルベルダ様とアルシーが行方不明。

 魔王軍は指揮官を亡くし散開し撤退。 


 それに呼応する様にサンダルファン王国にてニルス第一王子によるクーデターが発生し王と王妃は国外に脱出。

 第一王女のセレル王女は王国遊撃隊リーザロッテ隊により保護。


 現在、主を失ったエルンヘイムがどうなっているかは……不明。


 ……こんな所か。

 全てにおいてクソったれだぜ。


 セレル様とリーザはエルンヘイムに向かい魔王軍と合流すべきと主張している。

 俺もそれに賛成だ。


 居なくなったのは魔王とその側近だろう。

 随行した部隊は散開したとはいえ精強なマルファス軍だ。

 全滅しているとは思えない。


 俺達はリーザ隊全てを率いてエルンヘイムに向かう事にした。

 この砦に籠っていても直にニルスかルゼブナックが軍を率いて鎮圧、もしくは従属を迫りに攻め込んでくるのは目に見えている。


 俺達は行軍速度は遅くなるが軍は分けない事にした。

 分かれて行動する様になった途端に現状のこの有様だ。

 それこそ追撃戦になった場合、少数の軍を分けたら個別にすり潰される。

 結論を得た俺達は準備もそこそこに砦を立ちエルンヘイムに出発した。


 騎馬隊が先頭に立ち次に歩兵、中央に俺達と周りを守られた補給部隊が進み後方にまた騎馬隊が続く。

 少数とはいえ軍は1,000名、補給がやられれば軍としての行動は無理だ。

 おのずと迅速な行軍は難しくなる。


 俺はリーザにスパルタで叩き込まれた騎乗スキルを駆使して乗馬して久々に穏やかな気分で空を眺めていた。

 しばらくすると騎乗したセレル様が俺の馬に近づいてきた。

 そしてセレル様は俺に小声で話しかけた。



 「イナバ様、ここしばらく十分にお休みも取れてない様子、大丈夫ですか?」


 「ああ、うん。大丈夫だよ、セレル。君こそ大丈夫か?」


 「私は大丈夫ですよ。……そんなに心配に見えるなら、この戦乱が鎮まったら島を巡りませんか?」


 「……いいね、2人で島を巡ろうか」


 「ふぇっ? ふ、2人で?!」


 「なんか、マズいかぃ?」


 「……いえ、是非お願いしますね」



 この戦乱が鎮まったら……か。

 いいね、ゲーム時代に隅から隅まで巡ったが嫁になる人と婚前旅行だな。

 前世では考えられない幸せな人生だ、……魔生かな。

 生き残らないとな、みんなで。




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