第3話 ゴブと空から来た少女
ころころ変更してすいません。
他作品とアップ時間を揃える事にしました。
よろしくお願いします('ω')ノ
「くそっ! 何なんだよ! あの火の玉は!」
どれだけ走ったかは分からない。
何故かあの火の玉は俺の逃げる先に向かって落ち続けてきている。
その間にゴブリン達は木にぶち当たったり穴に落ちたり1匹、また1匹と脱落していき、とうとう逃走を続けているのは俺だけになってしまった。
周りのゴブリンよりもなぜか俺の敏捷度は高かったらしく何とか逃げ延びている。
……というか、長距離を走り疲労困憊のはずなのだが身体は元気なのだ。
それでも、所詮はゴブリンの俺が隕石からいつまでも逃れ続けるのは難しい。
まるで誘導ミサイルの如く火の玉がついてくるこの状況では雑魚ゴブリンさんの死亡フラグは紛れもない確定要素である。
それでも諦めずに走っていると視界の彼方に自分の姿を映した川が見えてきた。
はっ、逃げに逃げ惑って結局スタート地点に戻ってきていたのか。
とはいえ、もう猶予はない!
俺は一目散に駆け続け川に飛び込む。
「うわっ!」
想像よりも速い水流に翻弄されながらも着弾点から少しでも離れる為に意を決し流れに身を任せた。
溺れない様に水から何とか顔を出しグングンと近づいてくる火の玉の着弾までのタイミングを計る。
俺を急に見失った火の玉は地面に向けて一直線に落下してきた。
着弾まで……3、2、1、今!
大きく息を吸い込み、水の中に完全に潜る。
衝撃に備えて身体を丸くすると次の瞬間、世界が揺れ爆音が水中にも響き渡る。
水中の岩や川底に身体を何度もぶつけて痛い思いはするが致命傷には至らない。
身体を何とか反転させ背面になり水面を見ると瓦礫が吹き飛ぶ様が見えた。
あぶねー、あと少しでも迷ってたらマジ死ぬ所だった。
息も限界になり、慎重に水面から頭を上げると、もうもうと煙をあげる爆心地が見えた。
水流が速いので流されすぎない様に気をつけて川岸まで泳ぎ陸に上がる。
くそっ、当たり前だが、ずぶ濡れだ。
俺はTシャツの水を絞りながら慎重に爆心地に近づく。
そこは中心に黒い岩の様なものがめり込み周りは見事に抉れて砂煙が巻き上がっていた。
目を凝らしてそれを見ているとグラグラ動き始めた。
動きはだんだん激しくなり、終いに中からガンガンと蹴る音が聞こえてくる。
なに、あれ……?
「きーーーっ! なして開かんとね!? これ!」
訛っている。
聞こえてくる声は少女の様だがやや耳が痛くなる甲高いものだ。
暴れ回るそれに気をつけて近くに寄ると表面にオープンという文字とボタンがあるのが見えた。
「おい! 中から開かないのか!?」
「見て分からんっつか! 開かんけん困っとんやろうが!」
せっかく声を掛けたのに、ひどい言い草だな。まあいい。
「外から開くかもしれない! 大人しくしてくれ!」
「それやったら早う開けてくれん! 全く気が利かんね!」
放置しとこうかな、これ――、
一瞬、迷ったが静かになったので、外側のボタンを押した。
すると、長方形の扉が浮かび外側に降りてきて中から音速もかくやと言わんばかりの高速キックが飛んできた。キックは的確に顔面のど真ん中をとらえ、俺は盛大に吹っ飛んだ。
「グワーーーーーーーッ!!!」
俺は木々をなぎ倒し、何本目かの大木に叩きつけられて漸く止まると、逆さまのままずり落ちる。
つ、痛恨の一撃……、俺、か弱いゴブリンなのに……、死んじゃう……。
「なにモタモタしとったんか! 開けらるんやったら、さっさと開けてくれんっちゃ!」
出てきた少女が何か怒りながら俺の方に飛んできた。
今の……俺が悪い?
「あ、あの、俺、今のキックで死にかけなんですが……」
逆さのまま俺は、そう訴える。
「何ば言いよるんか、ドラゴンよりも強か身体ば持っとるクセに甘か事ゆわんでくれんね」
は? 何を言っているんだ、この子は。
身体中がもうギシギシと軋んで……、軋んで……。
あれ? 確かにあんまり痛くないな。
「魔王様は特別なスキル持っとるけん、そう簡単には死なんとよ」
「え? どういう事?」
俺は体を起こして少女の方に歩いて行った。
確かに痛みは引いている。
「そん前に自己紹介ばしようかね。私は魔王軍妖魔魔術師兵団長グリッシュ様ん配下、アルセイスと申しますばい。アルシーて呼んでくれんね。グリッシュ様より特命ば受けて魔王様の冒険ばサポートする為に参上仕ったっちゃね」
「魔王軍……妖魔魔術師兵団……!? グリッシュ!? グリッシュって言ったのか!?」
九州訛りっぽい話し方をする少女は今確かにグリッシュといった。
……やはり本当にここは過去の世界なのか。
グリッシュが……四天王の皆が無事なのか。
俺は緩くなった涙腺を引き締めアルシーと名乗った少女の方に向き直った。
「うんうん、グリッシュ様ん言う通りやなあ。特殊なスキルば取得して転移されてきたようばい。私の鑑定魔法で魔王様のステータスば確認したが再生と超成長と絶影……スキルがなんと3つも、しかも全てがレアスキルやけん、やけん、あんたは死なんよ、むしろ簡単に死ぬ方が難しいとよ」
「レアスキル!? それって超上級の、ゲームの頃でも中々習得する事が出来なかったレアスキルの事か!? それに俺をサポートって……これから一緒に居てくれるって事かい?」
俺はアルシーの肩を掴み矢継ぎ早に質問を投げかける。
アルシーは面食らいながらもそれに答えてくれようとしている。
「そ、そうばい。これから魔王様の生活に密着して成長ば見守る為に来たんばい。実ば言うと私もこん時間軸の存在やなかとです。そもそもここは魔王様が初めてこん世界にきた当時の時間軸になりますけん。グリッシュ様は魔王軍が敗退する事ば事前に予測して打てる策ば全て打ったと。自分の配下ん中でばり優秀と名高か私ば魔王様が遡る時間に合わせて派遣してくれたっちゃ」
アルシーと名乗る少女は腕を組み、薄い胸を張って得意げに説明してくれた。
「魔王様は再生スキルばお陰で、ごっつか死ににくうなっとりまして多少んダメージは瞬間的に回復するけん。やけん、多少無理な戦闘ばしたっちゃ平気やし、そん分、経験値が沢山入るとに成長も速まるっつーメリットが得られるやけんね。更に更に絶影んスキルはこん世界でトップクラスの敏捷度と器用さの成長率ば誇るばい。こりゃ並ぶもんなしな強者になるしかなか!」
アルシーはまたまた薄い胸を張って自分の事の様に得意げに説明してくれた。
「なるほど、記憶と技術を残したままスタートに戻されたって訳か。本当なら絶望感しかないがその分、レアスキル3個……【再生】は超回復スキル、【超成長】は通常経験値の10倍を得ることが出来る成長スキル、更には【絶影】か……、道理でどんだけ走ろうともスタミナが尽きる事が無かった訳だな。あ、あと蹴っ飛ばされたダメージも瞬間で回復したしな、……それはそうとその君の話し方だけど訛りきついよね? いまいち内容がすんなり入ってこないんだけど……」
「はっ? わ、わたしが? そげん事なかよ、な、訛っとらんね!」
アルシーは顔を赤くして細い両手を振り上げプリプリと怒っている。
思いっきり訛っているだろうが、……直せないならまあ仕方ない。
アルシーの身長はゴブリンの俺より少し高い。
艶のある漆黒の髪は真ん中で分けられ眉毛の上で揃えられている。
濃い碧眼は吸い込まれる様に美しく鼻筋が通っており、その下には小さな可愛らしい口。
ゴブの俺とは違い地球にいたとしても疑い様のない程に外見は人族そのものだ。
ただ唯一人と違う所は……両の側頭部からは小さな白い角が生えている。
袖が振袖の様にダブついた薄青色のワンピースを着て黒のブーツを履いている。
服の上からウェストニッパーを付けているが、その身体は凹凸が少なく効果の程は定かではなく手足も細い為、実年齢は分からないが小学校高学年位と言われても信じるだろう。
ここが本当に異世界なら彼女は歳上かもしれないが容姿だけをみればとても可愛い美少女だ。
――黙っていればな。
「何ば見よると。私の魅惑ボディに欲情でもしたんか?」
黙っていれば美少女、黙っていれば……。
「良かばい、グリッシュ様からはそちらんお世話もする様に仰せつかっとりますし外見年齢は今よりも上げる事も可能ばい。何やったら番になり子ばなして主ば盛り上げよちゅう指令も受けとりますけん全てお任せしてくれんね」
「――OK、OK、わかった、わかったが今はそれはいい。これから宜しくな、アルシー、それでこれからどうしたらいい?」
何やら如何わしい提案がなされようとしていたので無理矢理に本題に戻した。
こんなのでも世界を生き抜く為には大いにサポートしてもらわなければならん。
最終的な目的は未来の四天王を始めとした魔王軍の再建、俺を中心としたこの世界の統一といった所か、とにかく同じ時間軸で再び失敗する訳にはいかない。
ここは先ほどアルシーが盛大な爆音と共に着弾した場所だ。
荒れ果てているし、これからの方針を決めてさっさとマシな場所に移るべきだ。
「まずはこん装備ば身につけてくれん。やる事は沢山あるとに、ここで体制ば整えますけん」
アルシーは中空から見覚えのある装飾の鎧を取り出し俺に差し出す。
空間魔法は高レベルな魔術師しか使えないはずだが、さすがサポート役になるだけの事はあるか。
――と、渡された鎧を見る。
「こ、これは……!」
この鎧は俺が前世、魔王時代に身につけていた伝説の鎧だ。
どうしてこれがここにあるのか、しかも腹に付けられた傷が全く見当たらない。
初めてこの鎧を見つけた時の様に真っ新な新品の状態だった。
「そん鎧だけ元ん時代で回収できたけん。放っといても傷が治るっちゃ持ってきたばい」
「有難い。だけど、これは今の俺にはでかいぞ。装備できれば心強いけどな」
「大丈夫、着れば馴染むけん」
何を言っているのだろうと思ったが鎧を着ようと試みるとあっと言う間に丁度良いサイズに変化した。
「おーっ、これは凄いな、さすがだ。こうなると武器も欲しい所だけど……剣は、俺の使ってた剣はないのか?」
「申し訳ごじゃらん、戦闘中に紛失されたて思わる魔王様の剣は見つくる事ができんやった」
それは残念。
ただ代わりの武器を用意してくれているとの事。
「あ、それとこれば下げんしゃい。レベルとスキルが確認出来る様になるけん」
アルシーはプレートの下がったペンダントを俺に渡した。
言われた通り、首から下げると目の前に俺のステータス情報が浮かぶ。
名前:イナバ(♂)
種族:雑魚ゴブリン
称号:伝説の量産型ゴブリン
レベル:1
HP:15/15
MP:10/10
固有スキル:再生 LV1
:成長促進 LV1
:絶影 LV1
常時スキル:言語 LV3
魔法スキル:なし
うっそ!! 俺のステータス低すぎ!!
おいおい、突っ込み所が多すぎて渋滞しているぞ。
雑魚なのに伝説で量産型なのかよ!
アルシーがそれを見て笑い転げている。
あと、再生のスキル!
説明文に肉片からでも再生できると書いてあるけど怖すぎだろ!
俺は笑い転げているアルシーに苦々しい顔をむける。
前途多難だぜ、全く。