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魔王軍立志伝―仕事を辞めたら魔物になりました―  作者: ヨシMAX
第1章 新米ゴブリンの挑戦
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第1話 ゴブの休日



「くそ! また負けた」



 勇者に倒され【セーブからやり直し】【タイトルに戻る】の選択画面が現れる。

 俺は休憩をする為【タイトルに戻る】を選択しVRゴーグルをテーブルに置いた。


 今日で1ヶ月か……

 仕事に追われサビ残三昧、顧客の理不尽なクレーム、無能上司からの罵詈雑言の数々……、

 

 ある日、とうとうキレた俺は上司に暴言を吐き、超ブラックな会社を辞職。

 元々、幾つかの取引先から内々で勧誘を受けていた事もあり再就職については楽観視していた。

 会社も会社なら俺も俺である。


 だが、実際に辞めた俺の周りからは人が離れていき、現実を知った俺は大層人間不信に陥ったもんだ。

 正直、俺はVRオンラインゲームにはまっている事もあり人間付き合いが苦手だ。

 ゲームで仲間になる魔物達の方が余程、人情味や忠誠心があるから一致団結して頑張ろうと思える。


 ……まあ、退職については俺の自業自得であり、無能上司以外――社長も含め――からの引き止めを振り切った結果であるので、やっぱり無しとはいかず、結局、退職する羽目になってしまった。



 俺の名前は稲葉誠広いなばまさひろ

 仕事は管理会社の営業で入社8年目の26歳。

 お客の建物や土地の管理を目的として必要に応じ修理と営繕手配をする仕事だ。

 元々、仕事に熱意をもたない俺はVRオンラインPRGの為に金を稼いでいる様なものだった。

 幸いにも俺は人付き合いは嫌いだが苦手ではないので、お客の懐に入るのは得意だ。

 だから万年ヒラ社員であるものの、そこそこの収入が得てゲーム内では微課金税ではあるが、それなりの地位を築けていた。


 ゲームの名前は【魔王軍立志伝まおうぐんりっしでん

 プレイヤーは魔王軍に所属する1匹の魔物となりゲーム内で立身出世を目指す。


 最初は吹けば飛ぶようなゴブリンからスタートだ。

 序盤は己の能力を鍛えソロで名声を得るか、集団に所属してPCやNPCとの過酷な競争を勝ち抜き、強いモンスターや悪魔への進化を目指すのだ。


 更に頑張って上級魔族や超上級魔族になると上司である魔王から領地を賜り経営する事も出来る。

 基本的には本拠である魔王城からの指令をこなし平穏時には富国強兵に務めるのもよし、他国を支配する敵魔王軍の切り崩し工作や情報を集めて来るべき戦火に備えるもよし。


 或いはあえて組織には所属せずに単独で強い悪魔になってから組織を渡り歩き、ある時はA国の味方をし、またある時はB国の味方をし、戦乱の影で暗躍し世界の天秤を操る灰色のなんとかみたいなプレイスタイルも楽しいと思う。

 もちろん強くなる為には血も滲むような努力が必要ではあるが……。


 他にはNPC領主様ではなく先に力を持ったPC魔王の有力な配下として立身出世を楽しみつつ力をあわせて戦乱の世を生き抜くなんて展開も熱いと思う。


 ある程度有力な領主に成長すると、なんと魔王に反旗を翻す事もできる。

 その様な反乱領主が出てきたら同勢力内で協力して鎮圧したり、逆に反旗を翻す側になり協力者を募って上司である魔王を倒す事も出来たりする……のだがその後のプレイは想像を絶する苦労が伴う事になる、俺は一回やった……そして懲りた。


 そんな感じでプレイを続け各々の国がそれなりに強大になってくると希に勇者が生まれる。

 もちろん魔族には魔王がいる為、あくまで勇者は人間もしくは亜人族側のみに出現する。

 その勇者というやつは魔王軍にとってはチートで残虐な殺戮者であり、サーバー内での一大事となるのでプレイヤー一同が一致団結して対応するのだが大抵ことごとく滅ぼされる。

 正直、やってられん。


 ただ、魔王が例え、身一つだったとしても生き残りさえすれば軍を再建して再起を目指す事は可能だ。

 勇者から死ぬ思いで身を隠し続ければイベント期間が終了し勇者はいなくなる、甚だ情けない作戦ではあるが……とにかくゴールに対して選択できる道筋がとても多い自由度が高いゲームなのである。


 俺はその中で少しは名の通ったプレイヤーだった。

 それなりのプレイヤー仲間達と共にチームを築き大規模戦闘を戦い抜いては戦果を挙げていった。

 俺がこのゲームの一番好きなポイントは他プレイヤーと競う要素が非常に少ない所だ。

 オンラインゲームというのは大抵PvPを前面に出し競争(かきん)を煽るが、このゲームは協力が前提で敵はほぼNPCだ。


 唯一の難点を上げるとすれば……。

 このゲーム、序盤の自分と敵の強さのバランスが悪いと言う事位か。

 油断すると直ぐに死ぬ、本当に直ぐにだ。

 数回のアップデートでそれでもマシにはなったが、やはり気を抜くと死ぬ。


 スタート時は全員例外なく脆弱なゴブリンとしてフィールドに降り立つ事はさっき言った通りだ。

 ゴブリンは徒党を組むと、そのずる賢さを遺憾無く発揮するが単独だと少し訓練した村人にも負ける程の弱さである。

 この俺もゲームを開始した当初は泡沫ゴブリンの一匹で何度も村人に討伐された。

 村を襲い討伐され、行商を襲い討伐され、挙句何もしていない内にも討伐され……。

 苦労の連続だったぜ。


 反面、名のあるデーモンクラスになると、それはそれで強さのインフレが起こる。

 腕のひと振りで人間の国を消し飛ばした時にはさすがの俺も引き笑いしか出来なかったな。

 どこのサ○ヤ人だよ。

 真面目にチームを組んで作戦を立てれば、まず敗れる事はないだろう、……勇者イベントを除いてな。


 ゲームとしては致命傷に近いアンバランスさだが俺はその万能感と理不尽さに惚れ込んでしまいトコトンまでハマった。


 だが、このままではゲームが続けられず失踪扱いになってしまう。

 今日も面接に進んだ会社に行ってきたのだがあちら様の想定と違ったのか適当にあしらわれた。

 最近、仲間達がゲームに来なくなっているが、このまま無職だと俺までそうなる。


 くそっ! 気を抜くと思考が後ろ向きになってしまう。

 今日は金曜日、明日から休日の会社も多いし求人広告の更新も週末はほぼない。

 気分が沈む日は、ゲームにどっぷり浸かってやろうと思いコンビニで酒とつまみを買い込んできたのだ、週末は家から一歩も出ない所存だ!



 「よーし! レベルアップしまくって今度こそ勇者達を倒きのめしてやる」



 新しく配信された新イベント「暗黒勇者と理不尽な仲間達」は今までに輪をかけて勇者共が強すぎる。

 もう一度、みんなを集めて作戦を立て直す必要があるな……。


 自室の窓際で腰痛防止のゲーム用座椅子に座った俺はVRゴーグルを被りゲームを再開した。


 タバコは吸わず、酒も嗜む程度。

 物欲も殆どないので金はそこそこある。

 お蔭で失職中でもゲームだけは楽しめている。


 目の前で幾つかのロゴが浮かんでは消え、タイトルウインドウが表示される。

 ――と、画面の下部に【通知】という文字が点滅していた。


 これはメーカーから更新やイベントの知らせ、不具合等の連絡等が届くメッセージのような物だ。

 さっきは何も届いていなかったはずだが……、俺は少しの間、迷ったがその通知にタッチし開封した。

 すると目の前に新たにウインドウが出て文章が現れた。


 【魔王軍再建のお願い】


 拝啓、魔王様

 酷寒の候、ますますご健勝にお過ごしのことと存じます。

 我ら魔王軍はご存知の通り、勇者達の強襲に遭い壊滅の憂き目と相成りました。

 魔王様におきましても致命傷を負われ大変難儀な事と愚考いたします。

 つきましてはこの様な事態を予め予測し魔王城全体に魔王様復活の呪文を施させて頂きました。

 ご多忙の折、恐縮でございますが魔王様の次回ログインがその発動条件となっております。

 魔王軍四天王一同、魔王様の再ログインと軍再建へのご尽力お待ちしております。

 末筆となり囁かではございますがレアスキルと魔王様の手足となる最高のナビゲーターを随伴させて頂きます。

 魔王様のゴブ運をお祈りしております。

                                 敬具

         悪魔剣士団団長      リーザロッテ・レスケンス

         竜人重装歩兵団団長    ガンダルフ・フィリーノート

         ダークエルフ弓矢兵団団長 クライン・マリユーグ

         妖魔魔法兵団団長     グリッシュ・L・アーチバッガー



 ……なんだ、これ?

 季節の挨拶状じゃねーんだから。

 しかしそんな馬鹿な……、百歩譲ってゲーム内なら、まだ分かるがなぜこんなメッセージが?

 魔王軍四天王の連名で……、そして先ほどのゲーム展開を踏まえた上で俺を名指しで!?

 魔法の発動条件? 魔王軍再建って……あいつ等が俺を呼んでるというのか……。


 ……ってそんな訳ないか。

 気にせず、ゲームを続けよう。

 俺はその画面を閉じてタイトル画面から【ロード】をしようとした。

 ――すると、突然、画面が光り出して部屋中を包み込んだ。



 「な、なんだ!」



 目がくらむ光に耐えられず電源を切ろうとゴーグルを頭から外した。

 ところがその光はゴーグルから発せられたのではなく部屋全体を包み込んでいた。

 テーブルに置いたはずの酒の缶もおつまみも何も見えない。

 手さぐりで探しても何もつかめない。

 ……部屋全体が白一色になってしまった。


 まさか、本当にゲームの世界に、異世界に転移するというのか!?

 確かに俺も一軍を率いて勇者に挑戦する程度の泡沫魔王にはなったけど……。

 それでも異世界に転移して戦うなんて無理だ!


 ――いやいやいや……、そもそも転移させられるなんて常識的に考えられない!

 挨拶状を開いたからか!?

 了承もしてないのに!?

 ……こんなもの回避不可能じゃないか。


 オタオタしている間にも全てが……目の前にあるはずの俺の指先さえ光に飲まれ見えなくなる。

 部屋から飛び出して逃げ出そうにも周りが全く見えないし、足がピクリとも動かない。


 くっ、くそーーっ!

 なんでだよ! なんで……俺がこんな目に……。


 俺は白い空間でガクリとひざをついて呆然とする。

 異世界に転移するなんて……一体どうすればいいんだよ。


 いや……、もしも……本当に……、

 ――本当に異世界に転移するなら、どんな汚い手を使ってでも生きて……生き延びて勇者共をぶちのめしてやる!

 ブラック企業で鍛えたメンタルと微課金中級ゲーマーの執念をなめるなよ!

 俺の率いる魔王軍を再建して、もう一度鍛え直せば、それなりに戦えるはずだ。


 浮遊感と眩暈が続き、落下しているとも浮いているとも分からない感覚の中、俺の意識は薄れていく。

 あれほど眩しかった視界はいつの間にか真っ暗になり、そのまま、ゆっくりと俺は気を失っていった。





やはりこちらの作品は1話が長いですねー。

でも改めて読み返してみてもキレが良いんですよね(*´Д`)

悩ましいもんだ。

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