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魔王軍立志伝―仕事を辞めたら魔物になりました―  作者: ヨシMAX
第1章 新米ゴブリンの挑戦
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第14話 ゴブのウェルニー奪還戦④



 俺の目の前に急に現れた敵の将レスターという男。

 こいつはリリアの相棒ハインツと罪のない住民達と……敵であるがスティ達の生命を奪った張本人だ。

 俺は正義の味方なんかじゃなくゴブリンである、……が、こいつをただで済ます訳にはいかない。


 この街で俺はリリアというギルド所属隠密部隊の部隊長に出会った。

 彼女は相棒が敵に殺された挙句に死後も弄ばれたと知ると彼我戦力差関係なく奴に挑んでいった。

 その一歩間違えば無謀に思える勇姿を俺は間近で見た。


 俺も元は日本人だ。

 判官贔屓という言葉もあるし、そういう話に弱いのも仕方ないだろう。

 つまりは……リリアの相棒と住民達の仇をとる、絶対にだ。


 俺はレスターの姿を見ていつでも動けるように……油断はないはずだった。


 ――と、思った時にはレスターが俺の目の前にいた!


 辛うじて反応したが鋭い突きを完全には避けきれず左腕に傷を負いながらもバク転で後方に下がる。

 着地と同時にシャルルを両手で握りレスター目掛けて前方に飛び込み思いっきり振るうが既にいない。



 『後ろ!』



 シャルルの叫びと同時に悪寒が走り咄嗟にしゃがみ込むと頭上を剣が通り過ぎ風圧を感じた。

 しゃがみ込んで無防備になった所を背後から蹴り飛ばされる。



 ずぅぅううう――ん!!


 ぐはっ!



 突っ込んだ瓦礫から顔だけ上げて見ると俺の居た場所にハインツが立っていた。

 どうやら彼の一撃をくらって吹き飛ばされたらしい。

 頭を振って意識をしっかりさせる。


 あれ……、まずいぞ。

 2対1とはいえ全く追いつけない。

 おかしいな、そこそこ強くなったつもりだけどこれ、負けイベじゃね?



 「やばいな、これは下手を打たなくてもやられるぞ、シャルル、おい!」



 思いの外、不味い状況に追い込まれた事に気づいた俺はシャルルに話しかける。



 『……』


 「無視すんな! シャルル、持ち主が死ぬぞ!」


 『わかりましたよ、これしきのピンチで私を起こすとは……。あ、全力で上に跳びなさい、本当に死にます』


 「えっ!?」



 ピンチなのか、じゃないのか、どっちだよ。

 反射的に振り向くとレスターの追撃である衝撃波が俺に迫ってくる。

 もはや何度目か、全力の超反応で上空に跳躍し避けるが背後に人の気配を感じ、強引に身体を捻りシャルルを振るう。

 だが、それはハインツの長剣で防がれ、再度俺は腹に蹴りを食らって墜落する。


 再生スキルのお陰で傷は瞬間的に再生し生命力や精神力も瞬く間に回復するが痛いものは痛いわけで、それでも姿勢を正しなんとか着地した。


 いってぇ――。

 腹を押さえて蹲っているとレスターがにやけながら目の前に現れ俺の頭を真っ二つにする勢いで長剣を振り下ろしてくる!

 

 ええい! 南無三!

 自分にかけた身体強化を信じてシャルルを全力で振り上げる。



 キィイン!



 甲高い音と共にレスターの長剣とシャルルの鍔迫り合いが始まるが俺がジリジリと押し込まれていく。

 このままだと縦に真っ二つにされゴブリンの開きにされてしまう。



 『やっぱり、このままでは本当に死にますね。再度、距離をとりなさい』



 このピンチに頭に響くのはシャルルの声、またアドバイスしてくれる様になったのは良いのだが……。

 離れろだぁ? できればもうやってるよ!

 少しでも気を抜いたらスパッといくわ!



 『なるほど……うん、大丈夫です、3秒後に後方に飛びなさい。3……2……1……』


 「えっ? ……くっ、このぉ!」



 俺ははシャルルのカウントダウンに合わせて押し返すが軽くいなされる。

 だが、奴との距離が取れたのでその隙に全力で後方に飛び退く。


 ――と、次の瞬間、背後から俺に不意打ちをかまそうとしていたハインツに魔法が命中し吹き飛んでいくのが見えた。



 「うわっ! あぶなっ! なんだ?!」


 『相方の魔法です』



 みるとアルシーが魔法を放った後だった。

 お陰でレスターとはかなりの距離が取れたが……ハインツ、あれ大丈夫なのか?



 「イナバ様、リリアからばい。ハインツば……彼をば休ませてくれと。しょんなか事ばい。彼はもう死んどる、私が仕留める」



 アルシーが俺の傍らにやってきてそう話しかけてきた。


 ……そうだな、

 元に戻せれば最高だけど……、あの姿は間違いなく死んでいる。

 静かに眠らせてやるべきだ。



 「アルシー、一人で大丈夫か?」


 『大丈夫です、あのアンデットの相手ならあの子でも十分務まります』



 アルシーではなくシャルルが俺に答える。



 「イナバ様! 油断せんでくれん! レスターはあんたが仕留めるばい!」



 俺の一瞬の隙を見逃さずレスターが長剣を構えて突っ込んでくる。



 『はやく避けなさい! ゴブ!』



 あ、不味った。

 目の前にまで迫ったレスターが剣を振り下ろす。


 ――と、シャルルを握る右手が勝手に引っ張られレスターの剣を間一髪で弾いてくれた。



 『主! 満を持した私が手を貸してもこのままだと死にますよ! ほら、また来ます!』



 シャルルの叱責に顔を顰めながらレスターの動きに集中する。

 俺は身を低くして左前方に跳ぶ、着地と同時に後方からレスターに向け跳躍、シャルルを上段から振り降ろす。


 ――が、レスターの大剣に阻まれた。レスターも小柄だがゴブリンのリーチは更に短い。


 スピードで上回っていても俺の攻撃はことごとく阻まれてしまう。

 ……だが心なしか、しつこく攻撃を繰り返しているとレスターの顔に苛立ちの様なものが見え始める。


 なんだ?

 身体能力的にはまだまだ向こうが押しているのに……癇癪持ちか?



 『全く、距離が取れたのにこうも接近していては……。主、目を瞑りなさい』



 シャルルの声に従い俺は目を瞑る……と、シャルルが急に激しく発光した。

 見えてないが瞼を通しても分かる程の光量だ。


 当然の如く、レスターは視界を奪われた。

 だがしかしシャルルの言葉が聞こえないアルシーとハインツも目を押さえてゴロゴロ転がっているのが見えたが気にしていられない。

 隙をついてレスターの右足に蹴りを放つ。



 グシャッ!


 「ぐっ!」



 レスターは苦痛の声をあげながらバランスを崩して派手に転倒した。

 不意をついたとは言え、初めてまともにダメージが通った気がする。

 俺は後方に飛び退き態勢を立て直す。



 『主! 私に魔力を込めなさい』



 シャルルが俺に叫ぶ。



 「わかった! 魔力を込めればいいんだな」


 『右手に魔力を集めるイメージで――、私を右手の延長と思いなさい』


 「よしっ!」



 俺はシャルルに言われた通りに右手へ魔力を集め、更にその延長にあるシャルルに流し込む様にイメージする。



 『そうです、そうです、あー、いいですねーいいですねー』



 シャルルは俺の魔力をグングンと凄い勢いで飲み込んでいく。

 飲み込んでいくというのは比喩表現であるがそんなイメージだ。


 そうこうしている間にレスターは立ち上がり、憎しみの目で俺をみている。

 あ、鼻血出てる。

 よく見ると肩で息をしており、疲れの色も見え始めている。

 意外と打たれ弱く、スタミナに弱点があるのかもしれない。



 「ったく! ゴブリンの癖に手間取らせるね! いい加減イラついてきたよ、潔くやられろよ!」



 なるほど、雑魚キャラのゴブリンを瞬殺できなくてイライラしているみたいだ。

 それならば……。



 「いやあ、それは遠慮したいね。冷たい事言わないでもう少し付き合えよ」


 「うるさい! 次で決めさせてもらう!」



 こいつの主はロマリアスと言ったか……。

 トップに近い奴は早々に始末しておくべきだが。

 どのみち、次の一撃がお互いの最後の手になるかな。



 「まだか、シャルル。結構、魔力を込めたが――」


 『もう少し、もう少しです……オッケーです!』



 シャルルは青白いオーラのようなものを纏いブルブル震えている。

 大丈夫か、これ……爆発しないよね?



 『レスターの攻撃ごと、それ以上の攻撃で消し飛ばしますよ。……できますか?』


 「できるでしょ、大丈夫……多分」



 出来る、出来ないは別、やるしかないんでしょう!

 レスターも次で決めると言うだけの事はあり凄まじいスピードで俺目掛けて長剣を構えて突撃してきた。



 『来ます!』


 「おう!」



 俺はシャルルを上段に構えて突っ込む。



 『ちょっ、ちょっと、魔力はもういいんですよ!』


 えっ?

 俺、何もしてないですが!?


 目前に迫ってくるレスターの悪鬼の様な顔を見た俺は全力で奴めがけてシャルルを振り下ろす!

 あ、魔力漏れてたかも……。



 『あばばばばばばばっ!』



 許容量以上の魔力を流されてシャルルがバグり始めた。

 シャルルから光の帯が伸びてグングン伸びて巨大化していく。



 「なん……だ……と!」



 シャルルからの驚異的な圧力を感じたレスターは立ち止まりその場に立ちつくしてしまった。



 「ち、ちくしょ――!!」



 だが、直ぐに気を取り直すと長剣でシャルルを防ごうとするが跳ね返す所か触れてもいないのに、その圧力だけで呆気なく折れてしまった。



 「えっ? そ、そんな……この剣が簡単に……」


 「消ぃえろぉお――!!」



 俺は構わずに長剣になったシャルルを奴めがけて振り下ろす。



「ぁぁあ……あああ――っ!!」


 ずぅううう――ん!!



 レスターは断末魔の叫びと共にシャルルの巨大な光の中に消えていく。

 段々とシャルルがまとっていた光が短くなり落ち着いていく。

 レスターの姿は影も形もなくなり黒いシミになってしまった。



 「……っ! ……ばぁー……、……いぃー……」



 遠くからなにか聞こえる。

 


 『あ、ヤバイですね、よけなさい、主』


 「えっ?」



 次の瞬間、



 「イーナーバーさぁーまぁっ! 心配したけん、無事で安心したばぁい!」


 「グボハァッ!!」



 アルシーが満面の笑みを浮かべて全力タックルで俺に抱きついてきた。

 ほんの一瞬、綺麗な川が見えた気がしたがスキルの力なのか強引に引き戻された。


 あの後、早々にハインツを撃破して綺麗な川の向こう側に戻したのだそうだ。

 残念ながらその亡骸の一片も残す事は出来なかったそうだが刀だけはこの世に遺せたらしい。


 俺はハインツの形見の刀を胸に掻き抱き彼を想って滂沱の涙を流すリリアを見て心が痛める事しか出来なかった。


 関係ないのだがアルシーが中学生位に縮んでいた。

 体の大きさが定まらないのは大変だね。



 ✩★✩★✩★



 「ハインツ、イナバさんが仇をとってくれたにゃ」



 俺とアルシーの戯れあいを遠巻きに見ながらリリアは石畳の道を外れ土の上を歩いて行く。

 彼女の手にはアルシーに取り戻してもらった相棒の形見である刀があった。



 「ハインツ、少し寂しい場所だけど許してほしいにゃ……。街が完全に解放できたら、もっと明るくて賑やかな所で花に囲まれて眠れる様にするにゃ……。あたし、頑張るから見てて欲しいにゃ……」



 そう言ってリリアは地面に刀を突き立て亡き相棒に対して黙祷を捧げるのだった。







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