ただ飲みにきた男【短編】
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しょ
ただのみにきた男
私はしがないサラリーマン、田中健一だ。
43歳にして童貞、風俗も行かずに純潔を貫いている。
ただ、言い訳をするならば、私は女性恐怖症なのだ。
そのため中学以来、できるだけ男子校に進み、できるだけ男性が多い職場に就職をした。
まあ、こんな身の上話はさておき、私は今新橋の居酒屋に来ている。初めてくる店だが店の雰囲気はシックになっており、中世イタリア風のインテリアは私を少しだけ疎外感の中に誘い込む。
そして私はバーカウンター奥にある角の席へと腰掛けた。この席が一番周りを見渡せるからだ。
そして私は机の上に置いてあるメニューに手をかけた。
メニュー表は魔法が書いてありそうな茶色の皮と紙がほんのようになってできている。
なるほど、メニュー表にまで世界観が反映されており全体の統一感が増している。
しばらくすると、私の斜め前の席にいる男女の話し声が耳に入るようになった。
「高木くん今日は来てくれてありがとうね」
初デートのような会話をしている初々しい男女は、どちらも色調はモノクロではあるが、年齢以上の雰囲気を醸し出していた。実年齢は21、22歳といったところだろうか。容姿も整っており、羨ましい限りである。
「あ〜いいよ。俺も飲みたかったし」
なんでクールなやつなんだ。女の子に誘われてここまで冷静でいられるのかと感心していると女性の方が話し出す。
「ほんと、彼氏の話聞いて欲しかったところなんだぁ」
な、なに????彼氏がいるのかこの女!?けしからん、、、彼氏がいるのにも関わらず他の男とデートにいくとは、、、、つまりあれか???どしたん話聞こか?的なやつか???と心の中でツッコミを入れていると、男性も口を開いた。
「お〜まあ話してみなよ」
おい!キザすぎるだろ!!!そんなことを思いながら話を聞いていると、どうやら彼氏が言うことを聞かないらしかった。
やれ掃除をしないだとか、料理は任せっきりだとかありきたりな愚痴だ。
「へ〜お前の彼氏って何もやらないんだな」
「そうなの!私が悪いのかなぁ」
「いや、今の話聞いてるとお前は悪くないな」
「でしょ??」
クソが。公共の場でいちゃつくんじゃあないよ!君たちの家でご飯食べようか????
そんなことをぼやいていると、男性の方が何やら神妙な顔をしだした。あれだ、これは結構不穏なやつだ。
そう思い聞き耳を立てる。すると、
「は??????お前が浮気してから何もやらなくなったの???」
「そうなの、、、誠心誠意謝ったんだけど、、、」
「え、いや、お前が悪いだろ、、、????俺が間違ってんのか、、、??」
いや、君は間違ってない。悪いのは浮気をしたやつだ。
まあ別れずに態度を変えているのも少しは良くないと思うが。今回に関しては圧倒的に女性サイドが悪い。
ていうか、君はその女の子とちゅっちゅしにきたんじゃないのか??NTRをするんじゃないのか????
なんで否定してるんだ??おかしいだろ!!!
と心の中で叫ぶ。え、いや、結構容姿が整ってる女の子だからこそ、そう言う展開かと思って少し期待してたのに、、、
「いや、浮気はしたんだけど彼氏が悪くてぇ、、、」
「は?浮気した方が悪いに決まってんだろ。いや、今日はもう帰るわ。俺は美味い酒が飲めてただ談笑できれば良かったんだよ。だからお前みたいなやつと飲んでたら酒が不味くなっちまう。」
年齢に似合わず酒の味がわかるとは、、、いい青年だ。
と、そんなことも思ったが今はそれどころではない。
女性も必死に引き留めているが、もう帰るのも時間の問題だろう。
「おれはただ飲みに来ただけなんだよ。お前の浮気に加担するのはごめんだね」
良くいった青年!!いやはや、今回に限って言えば男性サイドが正しいだろう。
そしてただ飲みに来たというところにも共感が持てる。
私も「ただ飲みに来た男」だからだ。
そういって帰っていく男性を横目に、男性ウエイターが頼んでいた赤ワインを持ってきた。
芳醇な香りを漂わせる重めの赤ワインだ。
これはいい店を見つけたものだ、、、
そう思っていると、なにやら女性がこっちをみている。
、、、、、、、、ん、、、、、、、、、?????
なぜみられているのか。え?なんで?
そう考えていたのも束の間。
女性がこちらに向かって来ている。
ああ、なんか言われるやつだ。絶対そうだ。
すると、
「あんた、さっきもいたわよね?」
「わ、私ですか??」
おっと女性恐怖症を必死に抑えつつ問答を行う。
「さっきってどこの話ですか、、?
「いたわよね、さっき私が彼氏と言い争っていたところに!!!」
「はい。いました。みてました。でもたまたまなんです。
本当に。たまたまこの子が彼氏と言い争っているのをみて、彼氏が帰っていき、数分したら先ほどまで一緒に飲んでいた男性が来ただけというそんな話なんです。この店でお会いしたのは偶然です。」
そう言い訳をするも、
「いいわけじゃない!ストーカーよストーカー」
そんな大声で言わなくても、、、
幸い店内には店員さんと私とこの子しかおらず、通報されずにはいる。だが、こんな誤解はごめんだ。
「本当にただの偶然なんです、、、」
「本当に??」
「ええ、、、」
「はあ。ごめんなさい。私さっきまで少しいいなと思う人がいたから誘ったのに変えられてしまって少しナーバスになってたみたいです。」
「ああいえいえ、幸い誰もいなくて誰かに勘違いされずに済みました」
私は頭をかきながらそう言った。
そう。私はこの店を予約していた。割と細かく時間を刻む私としては早い時間にはつきたくなかったのだ。
そして時間を待っているとこの子が現れ、以降は上でこの子が説明してくれた通りだ。
そう、本当に偶然に居合わせたんだ。確かに、彼女からすれば、「ただの見に来た男」と間違われてもまあ理解はできるところで、、、、
「ところで、君見たことがある顔だね。大学生?」
「そうですが」
「○○株式会社って知ってる?」
「もちろんです。」
「君、面接を受けに来たよね?」
「え、、、、」
彼女の顔が青ざめる。どうやら私のことを覚えていたらしい。
end
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