DAY:11/30 女心と冬の空
外に出ると、もう夕焼けは少し陰り始めていて冬の日の短さが伝わってくる。
「さみー」
「あははっ。でも、早く解放されてよかったね」
「ああ。いつもより早く帰れるし、テスト週間、バンザイっ!これでテストがなかったら完璧なんだけどな」
「あはははっ。それじゃ、テスト週間じゃなくなっちゃうよ」
荷物を受け取り、小言を言われた程度で今回の一件は終了した。
勉強できなかった理由にされちゃかなわんと岡せんが最後にブツブツ言っていたが、ある意味ラッキーだったと言えるだろう。
「じゃあ、クレープ寄ってくか」
「うんっ。もう、待ち遠しいよ」
「太るぞ?」
「勉強には糖分が必要なんですよ~」
確かに、柚葉は昔から成績がいい。
ゆるーい顔してなんだかんだ、計算高い女なのだ、彼女は。
ノートやらでたくさん助けて貰っているので、そんなことを言ったら罰が当たるかもしれないけど。
「柚葉は、俺と違って要領いいもんな」
「うーん。そうかな?でも大ちゃんも、やると決めたらちゃんとやれると思うよ」
「あー、そうだな。また気が向いた時にでもやるさ」
「もうっ!そう言っていつもやらないじゃんか」
気が向かないことをしていると、やる気が一切湧いてこないのだから仕方がない。
それに、この性格は大人になってもずっと変わることはなかったので勘弁して欲しい。
「…………大学はきっと違うところになっちゃうね」
「ん?まぁそうなるだろうな」
「今回は、さすがに高校みたいには行かないもんね」
「ははっ、あの時の柚葉は鬼だったなー」
スポーツ推薦の枠で入った雄介と、どちらでもいけそうだった柚葉。
最初、成績的に厳しかった俺は違う高校を受けようとしていたのだが、気づくと柚葉がお袋をと結託して俺の尻を叩き始めていたのだ。
「だって、どうせなら一緒の学校行きたいし。それに、大ちゃん理数系はすごいのに、それ以外はダメダメなんだもん」
「ははっ、悪かったって。でも、今はすごい感謝してるんだぜ?ほんと、柚葉は良い女だよ」
「…………バカ」
この時代に戻ってくるまでに、女の子とはそれなりに付きあってきた。
俺が適当だからか、似たような性格の子が多かったけど、それでも人生経験とやらはいろいろしてきたつもりだ。
そして、だからこそ、改めて思う。
柚葉は、俺にはもったいないくらいほんとにいいやつだって。
大学生になっても、大人になっても、ずっと変わらずに。
「今日は、俺のおごりだ。生クリームマシマシも許可する」
「………………なんか、大ちゃん変わったよね」
「おいおい。これまでもおごったことくらいあるだろ?」
「ううん、そうじゃなくてね。なんていうのかな。雰囲気が大人っぽくなったと、思う」
「今日も怒られたばっかなのに?」
「あははっ、そこはぜんぜん変わってないけどね」
自分では変わらないつもりだったのだが、何か違うのだろうか。
つくづく、女性というものは鋭い生き物だと感じる。
「…………私も、頑張らないとなぁ」
「ん?」
「何でもない。ほらっ!見えてきたよ」
「あっ、おい。走らなくてもいいだろ?」
「あははっ。おごりなら少しでもお腹減らしとかないとねー」
「三千円くらいしか入ってないぞ?」
「もうっ、そこまで食いしん坊じゃないってば」
何かを言ったような気がしたが、気のせいだったのだろうか。
柚葉に手を引っ張られ、走らされる。
いつも先を行く彼女と、それにああだこうだ言いながら引っ張られる俺。
この先、変わらなかったその関係は、どうやら今も同じようだった。