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DAY:11/30 Side:須藤 凛

 火照った顔を見られないよう少し速足のまま昇降口を出ると、冷たい風が首元を通り抜け、体が思わず震える。

 気づけば、もう11月の終わり。

 本格的な冬がもう目の前に来ているのが伝わってきた。



「…………なんで、あんなこと」



 独り言とともに白く広がった息が、瞬く間に消えて無くなっていく。

 まるでそこになかったかのように。

 


「……………………何か作り上げても、意味なんて無いのに」



 ずっと、期待していた。いつか、世界が変わって、幸せになれるって。

 冷めきってバラバラになった家族が、いつか元の形に戻って、その中で私も笑えるようになるって。


 でも、そうはならなかった。 

 人と人とが作り上げた、一番強いはずの家族という縁は、紙一枚で無くなってしまった。


 自分の気持ちを必死に呑み込んで、継ぎ接ぎでもなんとかしたいと取り繕って、そんな風に必死に頑張ってきた私の努力なんて関係ないみたいに、あっさりと。


 

 いや、そもそも、ずっと続くものなんてなかったのだろう。

 物が古くなって、壊れていくように、人の関係もそうなる。


 そして、一度崩れ始めたものは戻らない。たとえどれだけ、足掻いたところで。



「…………どうせ、後少しなんだし」



 もう戻らないと分かった時に決めた区切りのいい自分の終点。

 それはもう、すぐそこまで迫って来ていて、早く終わればいいとさえ思っていた。そのはずなのに。



「…………………調子、狂うなぁ」



 強引なくらい、力強く迫ってくるあいつに、どうしようもなく調子を崩されてしまった。


 そしてなにより、壊れてしまうことに怯え、何もできなくなっていた私にとって、何があっても揺らがないマイペース過ぎるほどにマイペースなその性格に、不思議な居心地の良さを感じてしまったから。

  


「………………ダメ。帰ろう」


 

 一度深呼吸をし気持ちを吐きだすと、その甘えを断ち切るように、冷たい冬の空気の中を一歩、また一歩と進み始める。

 

 未練を抱いてしまわないよう、心の中の自分の傷を精一杯抉るように思い出しながら。 









◆◆◆◆◆








 扉を開け、中に入る。

 母と離婚した後、すぐに再婚した父に厄介払いされるようにして始まった一人暮らしの部屋はやはり真っ暗だった。



「…………ただいま」



 その言葉に、何かが返ってきた記憶は思い出せなかった。

 今の家でも、前の家でも。



「……荒れてみせても、無関心だったもんね」



 高校一年生の夏、最後の期待を込めて演じた反抗期。

 突然、金に染まった髪に教師達は慌て、呼び出された。

 連絡がいったはずの親はどちらも結局来なかったけれど。


 そして、私のしたことなんて、まるで関係なかったかのように、予定通り離婚は決まった。


 

「………………ただいま、キャメ吉君」


 

 電気をつけると、たくさんの人形達がそのつぶらで可愛らしい瞳で出迎えてくれる。

 昔からお気に入りのアニメのキャラクター。


 楽天家で、マイペースで、周りに何と言われようが一歩ずつ着実に前へと進んでいくような、そんなキャメ吉君が昔から大好きだった。


 


 『僕は歩くのが遅いけど、だからこそ、君を置いていくことはないよ』




 第三話、ウサギンタ達に置いて行かれる小柄なネズミのチュー太が泣いている時の台詞。

 私にとって一番好きなその言葉を、辛い時によく思い出しては勇気を貰った。



「……いつも、ありがとうね」



 人形達が私を置いていくことはない。離れていくことはない。

 冬の外気で冷え切った体を横たえると、その人形を抱きしめながら私は目を瞑った。


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