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DAY:11/30 線路の先へ

 帰りのホームルーム。



「じゃあ、みんなまっすぐ帰れよー。もうすぐテストだしなー」



 やる気の無さそうな間延びした声で担任がそう言いながら出ていき、教室が騒がしくなり始めると、その空気を嫌がるかのように須藤が無言で立ちあがるのが見えた。



「須藤」


 

 無意識に発してしまった声。

 それと同時に、出入り口の方へと体を向けようとした須藤の目がこちらに向けられる。

 


「…………………」


「あー、その、なんだ」



 急かすような鋭い瞳に、時間があまり残されていないことを察する。 

 もしかしたら、待ってくれるようになっただけでも、幸運なのかもしれない。

  


「また、明日な」


 

 頭を回し、結局絞り出せたのは、そんな当たり障りのない一言。

 自分で言って、自分で苦笑いしてしまうような、そんなひねりの無い言葉だった。

 きっと、彼女の中の鍵のかかった部分を引き出すにはこれでは全く足りないだろう。



「……………………………ん」


 

 だが、それに対して返ってきたのは、予想外ともいえる反応だった。

 注意を向けていなければ気づけないような、まるで吐息のような微かな声ではあるものの、確かに須藤は返事をした。



「………………っ」



 あまりの衝撃に何も言えない俺。

 そして、それを見た須藤はどうやら我に返ってしまったようで、自分の口に手を当てると、顔を仄かに赤く染めながら、いつも以上の早足で教室を逃げるように出ていってしまう。



「その反応は、ずるいよなぁ」 



 一ヶ月続けてみようと始めた作戦初日。

 既に俺達の関係は、以前とは違ったものになりつつあるようだった。







◆◆◆◆◆






 呆けたように椅子に座り、なんとなくさっきの光景を思い出していると、トイレにでも行っていたのか、柚葉が教室に入ってきた。



「あれ、大ちゃん?まだここにいていいの?」


「……へ?」


「職員室に呼ばれてたんじゃなかったっけ?」


「あっ!忘れてた」


「あははっ。また怒られちゃうよ?」


「うわー、助かったわ。サンキューな柚葉」

 


 とりあえず、リュックも取られ何も無いので、そのままの格好で職員室へと向かう。

 すると、柚葉も丁度帰るところだったのか、鞄を持って後ろをついてきた。



「バレー部のやつらと帰らなくていいのか?」


「んー、今日はいいかな。元々、大ちゃん待ってようと思ってたんだ」


「え?いや、先帰っていいぞ。長くなるかもしれないし」


「別にいいよ。終わるまで待ってる」



 何かあったのだろうか。

 帰宅部と運動部ということもあって、前の時は極稀にしか一緒に帰らなかったのだが。 



「なんかあったのか?」


「……なにもないよ」


「そうか?」


「そうだよ」


「ほんとに?」


「しつこいって」



 少し様子のおかしい柚葉。

 しかし、意外と頑固なところのあるコイツに今聞いても、余計に意固地になるだけだろう。



「…………帰り、駅前のクレープでも食ってくか」


「うんっ!」


 

 ようやく浮かんだ満面の笑みに、とりあえず、正解を引けたようだとほっと安堵のため息をつく。

 


「まっ、いっちょ怒られてきますかね」


「長引かせないでね」


「一緒に怒られるか?」


「あははっ。それはヤダよ」

 


 昔から、たまにこういうことがあった。

 いつもは素直に何でも言うくせに、突然、様子が変になって何も言わなくなる。


 過去から戻ってくる一年くらいはずっと無かったから、なんとなく忘れかけていたけど。



「女心って難しすぎんだよなぁ」


「うわー、なんか嫌な言い方。そもそも大ちゃん、そんなに女の子と絡みないじゃん」


「ふっ、今はな」


「あははっ。強がっちゃって」


「実は俺はな、未来がわかるんだぞ?」


「はいはい。いいから早く行っといでよ」


 

 嘘のような真実。

 きっと、真剣に伝えれば、柚葉や雄介は信じてくれるだろう。


 でも、そんなことをしたところであまり意味は無い。

 起こってしまったものは、もうどうしようもないのだから。



「じゃあ、行ってくる」


「行ってらっしゃい」


 

 それなら、俺は過去よりも今を生きる。目の前のサイコロを振って、進み続ける。

 それが、どんな目を出すか、まだよくはわからないけれど。


 とにかく俺は、須藤の途切れた線路の先を見てみたいのだ。

 クリスマスの先も、そのまた先も。納得のいく果てが見えるまで。



「……………………あいつも、また明日って思ってくれてるんだしな」



 どうやら、俺の頭の中にずっと居座り続けていた彼女は、前よりもっと、その存在感を増しているようだった。



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