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DAY:12/10 専属ガイド付き前売り券


 食事の後、連れてきた動物園。

 こういった場所に一緒に来たのは、小学生の時の遠足以来だろうかと、そんなことを思う。



「…………本当にいいの? ここで」

「いいって。そもそも、俺が連れてきたんだろ?」

「そう、なんだけどさ」



 あまり俺が好むような場所ではないからだろう。

 気遣うように尋ねられるも、特に問題はないのでそう返す。

 というより、別にあえて行かないというだけで嫌いなわけではないのだ。

 それこそ、デートとしては定番なので、大学生になって以降は何度か行ったこともあった。


(……柚葉は、昔から動物とか好きだしな。そういうのも、たまには悪くない)


 普段は俺に合わせて貰っている分、今日はそれを返したいと思ってここへ来た。

 それに、柚葉といればなんだって楽しめると、そう思うから。

 


「ほんと、気にしなくていい。たまにはさ、自分だけなら選ばない場所に行くってのも、悪くないと思うんだ」

「……つまらなかったら、言ってね?」

「ははっ。俺の無茶苦茶なのに付き合って貰ったこともあるしお互い様だろ?」



 計画性のないチャリ旅も、ドカ盛のラーメン屋も、乗り物の博物館も。

 振り返ってみると、よく愛想を付かされなかったと思うくらいだ。

 当然、ついて来なくてもいいとは毎回伝えてはいたけれど。



「…………私は、全部楽しかったよ。大ちゃんの楽しそうな顔見てると、こっちもなんか釣られちゃうんだ。変なうんちくとかも、面白かったしね」

「……そっか。なら、きっと俺も同じだ。柚葉となら、どこだって楽しめると思う」

「……………………ありがとう」

「こちらこそ」

「ふふっ」「ははっ」



 そう言って、お辞儀をし合うと、それがどこか可笑しくて、笑いが漏れる。

 しかし、この寒い中ずっとお見合いのようなやり取りをしてもいられないので、とりあえず足を進めることにした。  



「まぁ、寒いし行くか」

「うん」

「まぁ、専属ガイドは頼んだぜ? 柚葉は、動物とかめっちゃ好きだろ?」

「…………ふふっ、わかった。覚悟しててね?」

「おいおい、そこは期待してって言うとこじゃないのか?」

「おっと、いい間違えちゃったかな?」

「不安だなぁ」

「あははっ。冗談だからさ…………って、あれ? チケットは?」

「一応、買ってきた。混んでるかわかんなかったけど、こっちのが安かったし」

「……ふーん」

「え、なんだよその反応」


 

 並ぶのも嫌だなと思ってあらかじめ用意していたチケットを披露すると、何故だかジト目を向けられ不思議に思う。

 いや、もしかしたら勝手がわからず人気のない真冬にまで用意してきたことに対する呆れのような反応なのだろうか。

 


「前売りチケットまではいらなかったか? こっちのが安いしいいと思ったんだけど」

「そうじゃなくてさ…………なんか、大ちゃんらしくないなって。前は、そんなの頭の片隅にもないタイプだったのに」

「そうだっけ?」

「……うん。前から思ってたけど、やっぱり大ちゃんなんかあったよね?」



 確信を持っているとでもいうような疑惑の目。

 さすがは幼馴染というところだろうか。

 雄介にも最近似たような反応をされることがあったので、改めてそう思わされる。



「あー、まぁ、うん。男子三日会わざれば刮目して見よって言うしな。成長期なんだよ、きっと」

「……………………誤魔化すんだ」

「いや、そういうわけじゃないんだけど」

「………………………………こういうとこ、よく誰かと来るの?」


 

 伝えるべきか迷っていたこと。

 そして、迷った末に柚葉の場合は心配させてしまう部分が強いかなと伝えないでおこうと思っていたこと。

 でも、その寂しそうな姿に――先ほど食事の時に言っていた嫉妬を混じらせたその姿に。

 仕方がないなと、呆れ混じりのため息を吐く。



「……はぁ。来てたら、ナイフで刺すとかはやめてくれよ?」

「もうっ、そんなことはしないってば」

「ははっ、冗談だよ。さっきの仕返しだ」

「…………意地悪」

「すまんな。こういう性格なんだ」



 再び誤魔化されたと感じたのか、不貞腐れたような顔。

 でも、そういうつもりはないのだ。

 ただ、ちょっとからかいたくなってしまっただけで。


(いろいろと、違って見えるもんだな。ほんと)


 いや、きっと。実際変わったのだ柚葉も俺も。

 同じ時、同じ相手だったとしても、それぞれの選択肢を変えたことで。



「…………最後でいい。話したいことがあるんだけど、聞いてくれるか?」

「…………それは、大ちゃんの変わった理由の話?」

「まぁ、そんなところだな」

「…………須藤さんは、知ってるの?」

「この前話した」

「…………そっか。なら、聞かないわけにはいかないよね」


 

 意志の籠った強い瞳。

 それがこちらに向けられ、苦笑する。



「頼むから、仲良くしてくれよな?」

「別に、須藤さんのこと自体は好きだよ? でも、これだけは譲れないんだ」

「…………そっか」

「よっ、この色男」

「ははっ。それ、当事者が言う台詞じゃないだろ?」

「ふふっ。そうかもね」



 少し気分が上向いてきたのか、浮かび始める楽しそうな笑顔。

 だからこそ、今は真面目な話は置いておこうとパンフレットを開くことにする。

 どうせなら、たくさんの場所を見て回りたいことだし。



「うおっ、こんな広かったっけ、ここ」

「一日中楽しめ広さだよね。小さい観覧車とかもあるし」

「こりゃ、回る順番も考えた方がよさそうだな」

「そうした方がいいよね。さすがに、あっちこっち行き来すると疲れちゃうし」

「だよなぁ。ちなみに、柚葉はどこから行きたい?」

「そうだなぁ……あっ、レッサーパンダがいいかも。冬は絶対外せない子だし」

「そうなのか?」

「えへへっ、だってね。レッサーパンダって実は寒い時期が一番――」


  

 そして、そんなことを話しているうちに、突如として始まるレッサーパンダの講義。

 俺は、いつもとは違う子供っぽい姿に思わず吹き出しそうになるのを何とか抑えると、とりあえずその話に耳を傾けるのだった。

 






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