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DAY:12/10 心の扉:早乙女 柚葉


 少し照れがちに、たどたどしい口調で服を褒めてくれたこと。

 組んだ腕を歩きにくそうにしながらも、振りほどこうとはせず、私の身長に合わせて位置を調節してくれること。

 

 ただそれだけなのに。

 息をするのが大変になるくらい嬉しくて。

 この時間がずっと続いて欲しいと、そんなことを思ってしまう。



「まず昼飯でいいよな?」


「うん。どこ行くの?」


 

 ごくありふれた問いかけ。

 でも、いつも二人で遊びに行くときは、どこへなんて聞くことはあまりなかった。

 大ちゃんが好きなラーメンを食べたいと私から伝えて、予定調和のようにそれに同意の声が返ってくる。

 だから、服のコーデだって汁が跳ねてもいいようなものばかりを選ぶことが多くて、今日も淡い色合いの服を着てくるか最後まで迷っていたくらいだ。


(…………そうなっても、文句なんてない。だけど、やっぱり私は)


 ずっと想い続けてきた人との初デートは、たとえそれが独りよがりのものだったとしてもこうでありたいと思ってしまった。

 クローゼットをひっくり返すくらい服を吟味して、待ち合わせの場所に着くまでも何度も何度も髪を整えて、一番可愛い自分をちゃんと相手に見せたいって。



「んー、カフェ系?パスタとか、サンドイッチとかあるとこ」


「ふふっ。ラーメン屋さん以外も知ってたんだ」


「バカにするなよ?ちゃんとそういうところも知ってるんだからな?」


 

 いつもと違う展開への喜びはありつつも、迷いのない歩みを意外に感じる。

 同時に、誰かと行ったことがあるのだろうかというチクリと痛みを伴う疑問も。


(……ダメだよね。一度抑えがなくなると、どんどん欲張りになっちゃう)


 もしかしたら、私は嫉妬深い方なのだろうか。

 そんな考えが頭に過りかけ、追い払うようにして霧散させていく。

 せっかくのデート中に、こんなことを考えているなんてもったいないと思いながら。



「ほら、ここだ」


「あ、うん」


 

 そして、そんなことを考えているうちに目の前に現れた下りの階段。

 地下に潜るようにして進んだ先にある重そうな木製の扉を開けると、大ちゃんと一緒にその中に入っていく。



「いらっしゃいませ。何名様ですか?」


「十一時半に二名で予約してた篠崎です」


「……はい、篠崎様ですね。では、あちらへどうぞ」


「どうも」


  

 薄暗い店内を照らす、スタンドライトの柔らかい光。

 それと、どこからか聞こえてくる穏やかな音楽。

 あまり、高校生にはそぐわない雰囲気におっかなびっくりとはしながらも、堂々とした様子で歩く大ちゃんに釣られて奥にあるソファ席に向かう。


  

「どうした?」


「……ここ、よく来るの?」



 黙り込んだままの私を不思議に思ったのだろうか。

 そう問いかけられるも、むしろ大ちゃんの方の落ち着き具合が気になり逆に聞き返す。


(こういう店も、来るんだ)


 知らなかった一面。

 最近、少し変わったように感じる雰囲気に関係しているのだろうか。

 なんとなく、そう思った。



「ん?営業先が近くてたまに……………………あー、親父のな。教えて貰ったんだ」


「そうなんだ。確かに、おじさんこういうお店好きそうだよね」



 どことなく違和感を感じつつも、確かにこういうところを知っていそうだなと思わされる。

 むしろ、落ち着いた雰囲気のおじさんなら、ここにピッタリだろう。



「だろ?なんでお袋と結婚したのかわかんないくらいだしな」


「もしかしたら、あれくらい違う方が相性いいのかもね」


「俺ならお袋は無しだけどなー」


「ふふっ。まぁ、似た者同士ぶつかることも多いよね」 

 

 

 慣れない環境に緊張していた体が、そんな会話をしているうちにほぐれていく。

 それは、何度も繰り返されてきた経験で、大ちゃんの好きなところの一つだった。


(……初めて会った時は、怖いって思ってたのにな)

  

 どんな時も自然体で、堂々とした姿にいつしか憧れを抱いていた。

 今思えば、それが初恋だったのだと知っているけれど。


(……うん。やっぱり私、大ちゃんのこと大好きだ)


 私のために私以上に怒ってくれて、私以上に悔しがってくれて、守ってくれる。

 そして、私がつい笑顔になってしまうくらい、楽しそうな顔で笑うのだ。

 柚葉もこっちこいよと、そんなことを言いながら。

 


「そいや、何食べるんだ?」


「大ちゃんは?」


「俺はカツカレー。大盛の」


「あははっ。大ちゃんっぽいね」


「おしゃれなヤツは腹たまんない感じするんだよな」


「ふふっ。そっか」



 メニュー表には、お店の雰囲気通りというべきか凝った料理が多く並んでいる。

 けれど、その中でも普段と変わらないようなものを選ぶところが、大ちゃんらしくてクスっとくる。



「で、柚葉は?」 


「…………私は、こっちの生ハムとアボカドのパスタにしようかな」


「りょーかい」


「でも……そっちのも一口貰っていい?」


「ん?別にいいぞ」


「ありがとう」



 それは、いわゆる『あーん』の布石。

 強引にでも、更に踏み込んで揺さぶるための。


(……いつもの私じゃ、ダメなんだ)


 ここ一週間関わりを持つようになって改めて思った。

 私は、須藤さんのようにはなれない。

 

(……強敵だよね、ほんと)


 どこか浮世離れした彼女には、つい目を惹かれてしまう不思議な魅力がある。

 私では真似できない、独特の魅力が。


(……それでも、私は)


 譲るわけにはいかないのだ。

 たとえ、須藤さんに恨まれてしまったとしても。

 たとえ、他のものを全部失ったとしても。

 昔から温め続けてきた、大ちゃんの隣だけは、絶対に。




遅くなり申し訳ありません。

忙しさが和らぎましたので、ぼちぼち更新して行こうかと思います。


しかし、幼馴染の異性ってパワーワードだなぁと常々思います。

意外に色っぽい話は聞かないんですけど(笑)

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