DAY:12/10 いつも夢見た光景に
明日にデートを控えた、金曜日の夜。
全て俺に任せると言われた手前、らしくないほどにこの一週間は頭を散々悩ませてきた。
どこへ行くのか、何をするのか、柚葉が喜ぶことはなんなのか。
今までずっと、幼馴染――言ってしまえば仲の良い男友達の延長線上のように遊んできたから余計に考えなくてはいけないと思って。
「………………やっぱ、今までの俺は本気じゃなかったってことなんだよな」
自分の決断の重みとでもいうのだろうか。
目に見えないはずのそれがずっしりと頭にのしかかってきて、デート一つですらこれほど思考を割かれてしまう。
だから、今まで付き合ってきた相手とのデートは、初めての時も含め適当だったのかもしれないなと改めて苦笑してしまった。
(…………嫌われてもいい。ずっとそう思ってきたもんな)
そうならないことに越したことはないものの、別にそうなっても構わない。
きっとそれは、なんだかんだ相手のこともどうでもいいと思っていたからこそなのだろう。
「……………………自分勝手な野郎だよ、お前は」
それこそ、柚葉のことを見習わなくてはいけない。
凛に対し色々と世話を焼いてくれていることに、本当に感謝しているから。
(俺だけじゃ、ああはいかない)
おっかなびっくりとしながらも、人と関わろうとし始めた凛を、柚葉がサポートする。
最初は、傍目から見てもぎこちなく映っていたその光景は、それでも一つの週が終わり、休日を迎える頃にはそれなりのものになっていて、改めて柚葉に感心させられた。
「…………ほんと、すごいやつだ」
昔からずっと、俺にはないものを持っていると尊敬していた。
それに、正面からぶつかりがちな俺のために、それとなくフォローをしてきてくれていたことにも感謝している。
まぁ、柚葉も同じようなことを思ってきたらしいから、無い物ねだりと言った方がいいのかもしれないが。
(…………………………………………幼馴染、ね)
俺が勝手に走り出して、雄介がその方向を微調整して、柚葉がその後ろを均していく。
昔は、そんな光景がいつまでも続くと、そう思っていたけれど。
大人になって、戻ってきた俺にはもう、そうではないことはわかっていた。
「っし!いつまでも、甘えてられないよな」
この幼馴染を越えていこうとする行動が、そして、俺がクリスマスまでにするだろう決断が、その心地よい関係を揺さぶってしまいかねないものだと知っている。
でも、たとえそうだとしても、柚葉が変えたいと思うのならばそうしてあげたい。
自分以上に人のことを考えてしまうアイツは、きっと俺以上に悩んで、悩んで、想いを告げるというその行動に至ったのだろうから。
◆◆◆◆◆
待ち合わせの方がらしいかと、わざわざ指定した最寄り駅の構内にある時計台。
スマホをポッケから取り出して見ながら、少しだけ早いかと思いつつも近づいて行くと、既にそこには柚葉の姿があることに気づいた。
それも、面倒くさそうな二人組に絡まれながら。
「………………なぁ、それ俺の連れなんだが?」
「はぁ?……なんだよ、お前」
あえて低く出した声と、睨みつけるような視線。
加えて、普通に思うよりも半歩ほど相手に体を近づけたからだろう。
不機嫌そうに後ろを振り返った相手が、こちらを見上げるようにしながら若干怯えを滲ませたことが瞳の揺れの動きから伝わってきた。
「…………その子は、俺と約束してる。この意味、わかるよな?」
「っ……クソっ。おい、行こうぜ」
「あ、ああ」
体育会系出身、パワハラ上等のクソ上司ですら、どことなく気を遣った言葉を使ってくるほどだ。
それなりに威圧感のある見た目なのは自覚しているし、初対面であればなおさらだろう。
特に何も起こることはなく立ち去ってくれて、改めてこの外見に感謝する。
「大丈夫か?」
「……うん。ありがとう」
そう言うと、先ほどまで浮かんでいた愛想笑いが、ほっと安堵したものに変わっていく。
しかし、元々臆病な柚葉は、内心かなり怖がっていたのだろう。
少しだけ、表情が硬いと、そう思わせられた。
(……………………これじゃ、余計に絡まれるよな)
優しそうな、話しかけやすそうな雰囲気に、整った顔立ち。
今でも先輩とやらに言い寄られているように、ただでさえ柚葉は面倒な輩に絡まれやすい。
そして、今日はいつにも増して着飾った服装だ。
なおさら、そういった状況になりかねないのは理解できた。
(……………………色々と、言いたいことはあるが)
自分を客観視して、できる限りリスクを避けてきたはずの柚葉の、らしくない行動に。
心配をかけまいとして、笑顔で覆い隠した怯えた内心に。
「…………いいな、その服。似合い過ぎて、ちょっと照れるくらいだ」
それでも、俺が言うべきことは一つしかない。
「っ……ありがとう」
それに、襟のない白いロングコートに、淡い桃系統で揃えられたニットとスカートを身に纏ったその姿は、いつも以上に気合の入ったメイクと相まってドキりとさせられてしまうもので。
何かを言わずにはいられなかった。
「あー………まぁ………行くか」
「…………うんっ!」
どこか照れくさくて、頬を掻きながら出て行ってしまった若干上ずった締まらない声。
それに対して柚葉は、少しだけ目を見開くと、やがて嬉しそうにこちらに抱き着いてきたのだった。




