彼(か)の日:早乙女 柚葉
定期的に集まっている高校の時の部活のメンバー。
卒業してからもずっと仲がよくて、十年以上が経ったというのにあの頃と同じように感じてしまう。
「ねぇ、柚葉。もうそろそろ篠崎君のこと諦めたら?」
でも、そこで盛り上がる会話は、時を経るごとに少しずつ変わっていって。
彼氏から旦那に、そして、子どもに。
足踏みしている私を置いてどんどん先へと進んでしまった。
「あは、はは。考えとく」
「…………はぁ。いつもそう言ってるじゃん」
「ほんともったいないって!このままだとすぐにおばさんだよっ!?」
「ごめんね」
「いや、責めてるわけじゃなくてさ。ただ柚葉には幸せになって欲しいのよ」
何度も聞かされた言葉が、心配から来るものだということはよくわかっていた。
それに、私だって、今の状態を変えたいと思ってはいるのだ。
「……告白したら、実はいけちゃうんじゃないの?」
「………………付き合うまでは、できるかもって思うよ」
「じゃあ――」
「でも、きっと……ううん、間違いなく。大ちゃんの一番に、私はなれない」
もうこの世にいない人が、そこにいるから。
特別な関係なんてなかったはずなのに、事あるごとに思い出しているような顔をしているから。
(………………戦うこともできないのは、やっぱり悔しいよ)
告白して、付き合っても。
告白して、振られても。
私の中にけじめがつくことなんて無くて、きっと未練が残ってしまう。
(………………今のままじゃ、どっちにも進めない)
これまで育んできた自分の恋心に、相応しい決着を付けてあげたいのだ。
それが、どうしようもないこだわりだと自分でわかっていても。
「………………はぁ。わかった。もう、私らはなにも言わないわよ」
「ごめんね?」
でも、争いごとが苦手で、いつも人に譲ってばかりいる自分が、そこだけは譲れないのだ。
もしかしたら、こうと決めたら一直線の大ちゃんに、影響されてしまったのかもしれないけれど。
「ほんと、もったいないなー。柚葉なら、選り好みし放題なのに」
たくさんの人が好意を寄せてくれた。
そうでなくても、周りの人はみんないい人ばかりで、恵まれている。
(…………強欲なのは、わかってる)
いつも誰かが側にいて、いつも誰かと笑っていて、寂しい思いなんてしたことがない。
それこそ、一部の人が嫉妬という感情を向けてくるほどには、きっと私は幸せ者なのだ。
(…………それでも、私は)
やっぱりこの想いだけは踏みにじって進むことなどできない。
幼いころから一緒に育ってきたこの想いだけは、絶対に。
「…………………………………………羨ましいっていったら、怒られるかな」
そして私は、そうごちた。
今はもうこの世にいないその人に、嫉妬にも似た感情を向けながら。
ちょっと、納得いっていない部分もあるので作り直す可能性も無きにしも非ずです。
とりあえず、恵まれなかった凛と、恵まれた柚葉。手に入れられた凛と、手に入れられなかった柚葉。
そういった対比を描きたいな―という部分になります。




