彼(か)の日:須藤 凛
ゆっくりと降り積もる雪が、辺り一面を白く染め上げていく。
それこそ、まるでそこには何もなかったみたいに、白く。
「……………………もう、いいよね」
痛みすらも感じないほどに冷え切った体は、いったいどれほど歩いてきたのだろうか。
辿り着いた大きな川の近くには誰もいなくて、クリスマス一色だった街の雰囲気から、まるで仲間外れにされてしまっているようだった。
(…………私と、一緒)
どれだけ頑張っても、何も手に入れられなかった。
全部をつぎ込んで、何もかも捧げても、決して。
「……………………さすがに、疲れちゃった」
その声は、誰にも聞かれることなんて無い。
助けてなんてくれない。
いや、そもそも……私のことを気にかけてくれる人なんて――親も含めて、この世界のどこにもいない。
それこそ、スマホを取り出してみても、連絡先なんて一つもないのがその証拠だ。
(…………きっと、全部私が悪かったんだ)
何がなんてのはわからない。
それでも、きっと、悪いのは私だ。
だって、そう思わなければ、悪いところを直せば、とそう思っていなければ、歩いていくことさえできなかった。
私は、周りが思うよりもずっと、弱いから。
「……………………このまま、消えちゃえればいいのに」
雪が世界を覆い隠すように、私もその中に埋めてくれればいい。
それで、朝が来たら、溶けてなくなるのだ。
誰にも迷惑なんてかけずに、ひっそりと。
「……………………ごめんね。私には、やっぱり無理だったよ」
そして、スマホに付けたキャメ吉君のストラップ。
唯一、自分の友達といえるようなその存在に、謝罪の言葉をなげかける。
これまで、ずっと支えてくれていたのに、私はそれを裏切ろうとしているから。
「……………………ほんと、ごめん」
当然ながら、返事はない。
だけど、なんとなく、彼は気にしていないように見えた。
『どうするかを決めるのは、いつだって自分で、だからこそ責任も持つんだ』
嘘つきという噂のある狼のオカムラさんを何故信じるのかと問われた時、キャメ吉君はそう言っていた。
騙されても、自分で決めたのならそれでいいと。
何もかもうまくいくなんて、そう思ってもいないと。
『それこそ、長生きな僕は、最後は一人になってしまうのだろうしね』
そして、その後にポツリと呟いた一言。
それは、鶴は千年、亀は万年という言葉に関係しているのだろうが、なんとなくその自由な在り方の根本にあるものが分かったような気がした。
「…………ふふっ。すごい、かっこいいよね」
誰にも見向きもされず、あまつさえ変なという形容詞さえつけられてしまう彼は、とても不憫だと思う。
こんなにも、かっこよくて、素敵だというのに。
いや、もしかしたら、この人とは違う感性が、私と周りとの距離になっていたのだろうか。
(……………………今度は、誰かと分かり合えるといいな)
もしも、来世というものがあるのなら、そうなって欲しい。
それで、たくさん話すのだ。
ここがよかった、ここが好きだと、そんなことを。
「…………うん。そうなったら、いいよね」
たとえ、たくさんの人に囲まれなくても、たった一人だけそばにいてくれればいい。
私のことをちゃんと理解してくれて、気にかけてくれる、そんな人が。
「じゃあ、ね」
そして、私はキャメ吉君に最後の別れを告げると、冬の川に体を沈めた。
幸せな夢、それがいつか現実になることを、祈りながら。
心の中では、そうはならないと、理解してはいたけれど。
とりあえず、巻き戻り前のエピソードをそれぞれ一つずつ。
この後は柚葉編のデート⇒凛の輪の広がり⇒彼女達の変化⇒彼の変化⇒分岐後エピローグかなぁというイメージです。
なかなか、描く時間が取れていないのでまたズレていくかもしれませんが。




