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DAY:12/5 補助輪


 寝不足の反動もあるのだろうか。

 いつもより、早く設定していた目覚ましの音に、これ以上無いほど体が抵抗を示す。


(…………眠い。死ぬほど、眠い)


 無意識に伸びた手が音を止め、静寂が戻った途端に沈みかける意識。

 そのまま、再び眠りにつきかけてしまったその時、一人ぼっちで外を見続ける凛の姿が仄かに浮かんできて眠気が吹き飛ばされてしまった。



「……あー、ったく。どうせ、今日も早く来てるんだろうな、あいつ」


 

 それほど、長い付き合いでは無いのにわかってしまう。

 凛がそういうやつで、だからこそ、放っておけないのだということに。



「………………始めたのは俺だ。なら、仕方ねぇよな」


 

 きっと、凛の方もなんとなくわかっているのだろう。

 俺がこういうやつで、放っておかないのだということに。

 だって俺達は、似ているのだ。

 一つのものに拘ってしまうところも、変な責任感があるところも、そんなどうしようもない所は特に。


(…………そうじゃなきゃ、凛はまだ心を閉ざしたままだったはずだ)


 周りに起こったことが濃厚過ぎて、だいぶ前に感じる勝手な再会。 

 しかし、実際に経っているのはほんの数日でしか無くて、普通で考えれば、頑なな凛の態度が変わるには早すぎる。

 だから、これは俺達だからこそ起きた変化。

 これまで、同じように声をかけるやつはいただろうに、今まで起きなかった変化なのだ。

 


「っし!行くか」



 そして、俺は勢いよく立ち上がった。

 自分の背負ったもの、それをまとめて担ぎ上げるように。

 










◆◆◆◆◆











 昨日と同じように柚葉と出て、同じような時間に到着した教室。

 ちらほらと埋まりつつある席の中に、ポツンと座っている凛の姿が見え、自然と呆れ笑いが浮かんでくる。



「頑張ってるみたいだね、須藤さん」



 しかし、隣に立つ幼馴染があげた声は、俺とはまた違った色を含んでいて。

 どこか優し気なその視線の意味を、改めて自分で考えていく。

 


「…………ああ、そうだな」



 柚葉の言う通り、確かに、凛は頑張っていた。

 時折、誰かに話しかけようと口を薄く開いては、もう一度俯き。

 そして、それを何度も繰り返す。

 きっとそれは、俺が部屋に行った時に話した、他のやつも誘って遊ぶということにも関係してくることだと思う。


(ちゃんと、前に進もうとしてるんだよな、お前も)


 本当に、周りから見れば不器用この上ない、半歩にも満たないような一歩なんだろうけど。

 それでもゆっくりと、自分なりに前に進もうと頑張っている。



「…………応援したくなる人だね、須藤さんって」

 

「だろ?まぁ、俺に似て不器用なんだけどな」


「そっか……なら、少しだけ、手伝ってあげようかな。大ちゃんには、任せておけなさそうだから」


「わかってるよ…………だから、頼っていいか?もしかしたら、都合がいいお願いかもしれないけどさ」



 俺が想いを理解したことで、柚葉が見せ始めた男女としての親愛。

 当然、その中には嫉妬のような感情もあって、こんなことを頼むのは筋違いのことなのかもしれない。

 でも、やっぱり俺だけでは、上手くいかないと思うのだ。

 それこそ、力を借りなければ、中途半端な形になってしまうと、そんな確信がある。

 


「ふふっ。悪い男だ、大ちゃんは」


「……………………悪い」



 楽し気な笑い声に、怒りの感情は微塵も見て取れない。

 そして、俺がバツが悪そうな顔を返すと、その笑い声はなおさら大きくなっていった。



「あははっ。うん、いいよ。どうせ、私も放っておけないと思うし」


「ありがとな、ほんと」


「気にしないで………………それに、さ。私は、いつも通りの大ちゃんがいいな」


「いつも通り?」


「うん。堂々として、自信があってさ……私が憧れた……好きになった、そんな大和君」



 僅かに潤んだ瞳で、そう言ってくる柚葉になんとも言えない気持ちになる。

 それに、たぶん俺は、わがままだっただけだ。

 自分が好きだから好きだと言うし、嫌いだから嫌いだと言う。

 当然、その相手が誰なんてのは関係がないし、たとえ俺よりガタイがよかろうが文句があるならはっきりとそう伝えてきた。



「……買い被りすぎだろ?」


「ううん、違うよ。大ちゃんは、自分が思っている以上に、すごい人なの。ずっと私のヒーローで、何度も助けられてきたんだ」


「そうか?助けて貰った方が多い気がするけどな」



 覚えているのは、ほとんどが柚葉や雄介に助けて貰った記憶だ。

 それこそ、俺がしたことなんて大したことなくて、返せないほどの恩が二人にはあると思っている。



「ふふっ。覚えてないところが、大ちゃんらしいけどね」



 そう言って、今日一番の笑顔をこちらに向けてくる柚葉。

 ほんのりと、頬を赤く染めた顔は、その機嫌の良さを示すかのように輝いていて。

 一瞬、言葉を失ってしまうほどに目を引き寄せられる。



「よしっ。じゃあ、そろそろ須藤さんのとこ行こっか。補助輪役は、必要みたいだしね」


「……ああ。そうだな」



 気負った様子もなく、前を歩き出した小さい背中。

 昔はずっと後ろを歩いていたはずだったその姿に、今はこの上ない頼もしさを感じる。


(補助輪役、か………………確か昔、俺が柚葉に言ったんだっけか)


 小さい頃はもっと臆病で、自信なさ気だった柚葉をいろんなところに引っ張り回した。

 知ってる世界だけ見ていても楽しくない、一人が怖いなら俺が支えてやると。

 


「…………消えた未来と、消えない過去。俺の方にも、まだ補助輪はついてるのかね」


「え?なにか言った?」


「いや。なんでもない」


 

 そして俺は、柚葉とともに凛の方へと歩き出した。

 まだ、足元のおぼつかない凛がしっかりと歩き出せるように、本来の魅力を十分周りに伝えられるように、手を貸してやろうと思って。 


 


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