表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
28/43

DAY:12/3 うさぎとかめ

 テキトーに見つけたラーメン屋。

 濃厚という文字に釣られて引き戸を開けると、中に籠っていた熱気が一瞬強く吹き付けてくる。



「いらっしゃいませー。何人ですか?」


「二人」


「じゃあ、こちらへどうぞー」


 

 アルバイトだろうか。

 若い大学生くらいの店員さんが出す、張りのある大きな声に従い席へと向かうと、興味深そうに周りを見渡している凛が、ゆっくりと付いてきた。



「こうゆうとこは、初めてか?」


「……うん」


「そっか。まぁ、とりあえず注文決めようぜ」



 一列に並んだカウンター席、そのすぐ目の前にあるメニューを開いて凛の方に見せつつ、自分もどれにするかをざっと考えていく。



「味噌か、豚骨か…………おっ!この辛味噌にするわ」


「……決めるの、早くない?」


「そうか?んー、けど確かに、だいたいどこ行ってもすぐ決まるな」



 残すとお袋が厳しいから一通りは食べれるものの、好き嫌いはかなりある。

 それに、好きの中でも差がある方なので、そのせいかもしれない。

 あまり、決められずに悩むということはなかった。

 


「凛はどうする?」


「じゃあ……同じのにする」


「普通サイズのでいいか?」


「ん」


「りょーかい。すいませーん!辛味噌二つ。一つは大盛で」


「はいよー」

 

 

 厨房の方、大きな鍋で麺を湯掻いていた店員さんが、一瞬こちらに顔を向け返事をしてくれる。

 なら、後は待っていればいいということだろう。

 そう思い、セルフサービスになっているらしい水を二つ取った後、もう一度席へと戻った。



「ありがと」


「おっけー」



 水を口に含み、飲み込む。

 そして、特別話題もないためか、二人ともただグラスを持っているだけの静かな時間が流れていく。


(なんか、不思議な感じだよな。気まずいってのも一切無いし)


 凛は、元々口数が多い方じゃない。

 どちらかというと、自分の内でグルグルと回して、考え込むタイプだ。

 そのせいで、周りに思っていることが伝わらず、距離を置かれやすいというのもあると思うけど。



「凛って、損な性格だよな」


「…………そう見える?」


「見えるというか、そうだろ」


「……そう、かもね」



 ほとんど噂というものに興味はない俺ですら知っているほどに、凛の評判はそれなりに悪い。教師、生徒の両方から。

 今考えてみれば、荒れた学生が少なく、尚更悪目立ちしてしまったというのもあるのだろう。



「そういや、金髪に染めたこともあるんだったか?」


「…………一年生の時だけどね」


「ははっ。どうせ、反抗期とかのイメージがそれだったんだろ?」


「…………悪い?」


「いや?凛らしいなって、思っただけだ」



 恐らく、両親の気を引こうとしたんだろうが、他にやりようなんていくらでもある。

 でも、凛がしたのは本当に髪色を染めただけ。

 ある意味短絡過ぎるその考え方は、真面目な凛らしいなと、思わず笑えてきてしまった。



「……………………大和は、私のこと、ちゃんとわかってくれるよね」


「ん?まぁな。俺、凛の性格好きだし」



 説明下手なところを含め、確かに直した方がいいだろうところはある。

 でも、誰だって、それこそ俺にだって欠点はあるのだ。

 だから、それよりも、真面目で、努力家で、優しくて、そんな凛の好ましい部分を俺は知りたいし、知ろうと思って行動してきた。



「っ!…………ありがと」


「はははっ。照れ屋なのも、知ってるけどな」


「……うるさいっ」



 肌が白いせいで、すぐに真っ赤になるところは見ていて面白い。

 それこそ、標準装備の仏頂面のせいで、余計に揶揄いたくなるのは、仕方がないことだろう。



「おっ。あれじゃないか?俺らのやつ」


「はぁ。大和って…………まぁ、いいや」


「なんだ?言いたいことがあるなら言えよ」


「…………………………私はね、大好きだよ。大和のこと」


「え?」



 不意に耳元に近づけられた顔に、甘い香りが漂う。

 でも、囁くように言われたその言葉は、それ以上に衝撃的で、一瞬虚を突かれてしまった。



「それって――」


「へいっ!お待ちっ!!」


「あ……ああ。どうも」


 

 百点満点の男らしい笑顔。

 加えて、狙っていたかのようなタイミングで、遮るようにどんぶりを置きに来る手。

 そのせいで、言葉を飲み込むことしかできなくなった。



「ん。美味しい」



 そして、店員を見送り、ようやくといってそちらに視線を向けると、凛がこちらの質問に答える気はないといった様子でラーメンを食べ始めている。



「なぁ、さっきのってさ」


「……やだ。伸びちゃうから」


「いや、けどさ」


「……私、ラーメン屋デビュー」


 

 だから水を差すなどでも言いたいのだろうか。

 無駄に品のある食べ方をしているのが、余計に腹立たしい。



「なんだよ、卑怯だな」


「ふふっ。私もね、知ってるんだ」


「……なにをだよ?」


「大和はさ――こういうのに弱いってね」



 まるで、仕返しだとでもいうように放たれた言葉への返答はなかなか出てこなかった。

 

 それは、耳にかけられた艶のある黒髪のせいだろうか。

 それとも、いつになく含みのある笑顔のせいだろうか。


 凛から漂い始める色香に、年甲斐もなく彷徨わされてしまったから。



 


















恋した時って、女性の方が変化が大きいですよね。

まぁ、あくまで持論ですが(笑)

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ