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DAY:12/3 心の扉:須藤 凛


「……どうだ?意味わかんない話だろ?」



 私が、クリスマスに死んだこと。

 それでも、忘れられずに覚え続けていたこと。

 そして、気づくと過去に戻っていたこと。


 大和が口にしたのは、そんな突拍子もない話で、正直どんな反応をすればいいのかわからなかった。

 でも、疑っているわけではないのだ。

 いや、むしろ信じたいと――そうであって欲しいと、そう思っている。

 

(……一人じゃ、なかったんだ)


 もし、それが本当のことなら、それは私のことを気にし続けてくれた人がいたということだ。

 誰も、それこそ両親ですらも見向きもしてくれないような、そんなどうしようもない私のことを。

 時が経ってなお、移ろわないほどの強い気持ちを抱きながら。



「あー、悪い。ちょっと、気持ち悪いよな」


 

 しかし、沸々と湧き上がってくる高揚感にしばらく身をゆだねていたその時、頭を気まずげにかきながら、再び大和がこちらに話しかけてくる。



「…………なんで?」



 恐らく、私が黙り込んでいたのを勘違いしたのだろう。

 その苦笑は、私が思っていたこととは正反対ともいえる方向に向いてしまっているようだった。



「ほら、あれだ。なんか、ストーカーみたいじゃないか?」


「…………確かに」

 

「ははっ。改めて同意されると余計肩身が狭いな」


「…………………………でも……でもね。私は、嬉しかったよ」



 誰かが見てくれていた。

 たったそれだけのことなのに、こんなにも心が軽くなるとは思っていなかった。 


 それに、大雑把で、気が利かなくて、ある意味彼らしい不器用なやり方ではあったけれど、大和は私の隙間を少しずつ埋めてくれた。


 一人でいる私に話しかけて。

 置いていけないと連れていって。

 冷たくて暗い私の居場所で、寄り添ってくれた。


 こんな、素直じゃない女の子なんて、放っておけばよかったのに。



「本当に、ありがとう。おかげで、この先を見ようって、そう思えた」



 二度とめくることはないと思っていたカレンダーは、新しい年を迎えることになるのだろう。

 私の生まれた、そして、終わりになるはずだったクリスマスの日を越えて。


(…………きっと、大和は裏切らない)


 時を越えても、いらない荷物を捨てきれないような――甲羅みたいに担いで回る変な人なのだ。

 何の得にもならないような私に話しかけて、仲良くなろうとする、そんな。


(…………それに、キャメ吉君とも似てるしね)

 

 楽天家で、マイペースで、周りに何と言われようが自分の道を進んでいく姿は、そっくりだ。

 だったら、私が裏切られることはない。

 キャメ吉君だけが、最後まで私の側に残ってくれた大事な相棒なのだから。



「………………そっか。なら、ストーカー冥利に尽きるってもんだ」


「ふふっ。それ、認めちゃってるけどいいの?」


「いいんだよ。開き直ったもん勝ちだ」


「……そっか。やっぱり、大和は強いね」


「ははっ。怪獣ってか?」


「うん。怪獣」



 大きくて、強くて、変なところで躓いている私を蹴っ飛ばして歩くのだ。

 そして、もう行き止まりに見える道を、平気で壊して先に進めと伝えてくる。

 時々、後ろを振り返って私の方を向きながら。



「…………私だけの、ね」


「ん?なんか言ったか?」


「ううん。ただ、お腹空いたなって」


「あー、確かに。なら、時間も時間だし、今日はこれで解散するか」



 そんな意味で言ったんじゃない。ある意味自分らしい、言葉足らずな言い方に今まで以上に腹が立つ。 


(…………何か言わなきゃ)


 漂う別れの雰囲気を、私は否定したい。

 まだ、もう少しだけ、そう思っているから。


 でも、慣れていない会話、それが足枷となって何と言えばいいのかわからない。

 一緒に食べる?遊ぼう?帰らないで?、何がいいのか、どれがいいのか、そんな焦りから口の中がどんどん乾いて、余計に言い出せなくなる。



「じゃあ、また………………って、どうした?」 



 しかし、何も言えないまま終わりを迎えようとしたその時、体が頭とは違って素直に動く。

 そして、まるで子どものように服を握り、大和の足をその場にとどめていた。


(…………………思ったことを、言おう)


 変に考えれば考えるほど、私は失敗する。

 それは、これまでの人生で学んできたことだ。 

 だったら、素直に――心のままに、そう思った。



「…………一人は、寂しいよ」

 

「っ!」


「…………もう少しだけ、ダメ?」



 誰にも言わず、誰にも言えず、ずっと心の内に秘め続けてきたこと。

 いい子でいようと、我慢してきた。

 これ以上重くならないようにと、抑え込んできた。


 でも、それこそが私の偽らざる本音。

 本当は弱い私の、心の奥底。



「……………………わかったよ。こんないい部屋、探検せずに帰るのはもったいないしな」


「…………散らかしたら、怒るから」



 相変わらず、素直じゃない人だと思う。

 そこが、いいところといえば、良いところなのだと思うけれど。



「怪獣は暴れるもんだろ?」


「……私の思う怪獣は、お行儀よく座ってるイメージ」


「はははっ。マイルール押し付けすぎ」



 だんだんと、その人となりを知ってきた今は、それが大和なりの優しさなのだとわかる。

 きっと彼は、寂しいと言った私を、いつも以上におどけて、笑わせようとしてくれているのだろう。

 短い付き合いではあるものの、それがなんとなくわかった。



「知らなかった?」


 

 素直じゃない私と、それ以上に素直じゃない大和。

 意地の張り合いで、勝てる気はあまりしない。

 でも、たぶん私は……今まで自分を抑え込み続けてきた私の中には、大和でも勝てないような強い想いが芽吹き始めているのだ。



「私ね……大和が思ってる以上に…………すっごく、わがままなんだ」



 今度は、絶対に手に入れる。

 私の大事なものを、必ず。そんな、暗闇育ちの燃え盛る思いが。

  







ちょっと、難産。

まだ悩み中です。

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― 新着の感想 ―
[良い点] 相変わらず尊い [一言] 悩み中、ですか
2022/10/07 20:00 退会済み
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