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DAY:12/2 転機:早乙女 柚葉

 特に面白くもない授業が何度か続き、迎えた昼休み。

 颯爽と歩き出した凛を今日は引き止めずに見送っていると、先ほどまで寝ていたのか、顔に手の跡をつけた雄介がこちらにフラフラと近づいてくるのが見えた。



「大和ー。飯買いに行こうぜ」


「悪い、今日はパスだ。弁当あるし」


「ん?珍しいな。今日、お前の誕生日とかだったっけ?」


「いや、全く違う。というか、うちのお袋は誕生日でも弁当なんて作らないからな」


「じゃあ、なんで………………あー、やっぱいいや。なんとなくわかった」



 不思議そうな顔をしていた雄介は、どうしてかそのことがわかったらしい。

 苦笑いしながら柚葉の方に視線を向けた。



「お前さんも、罪な男だねぇ」


「おいおい。言われなくても、材料費分くらいは何か返すって」


「…………こりゃ、柚葉が少し可哀想になってくるな」


「可哀想?なんで?」


「アイツは…………いや。一回自分でちゃんと考えてみろよ」


「は?あ、おいっ」


「今日は、それをじっくり味わえるよう一人にしてやる。じゃあな、唐変木」



 もうこれ以上は話す気はないとでもいうように、雄介が背中を向けて歩き始める。

 一回自分で考えろ、突き放すようなその言葉だけを言い残して。



「……なんなんだよ、ったく」



 ぶつける先のない独り言が周りの喧騒に消えていく。

 これでも、幼馴染たちのことくらいは大体知っているつもりだったのだ。

 でも、柚葉がクリスマスに教えると言っていたことも、雄介が考えろと言ったことも、今の俺には全くわからない。

 

 

「……………………わかんねぇよ」

 


 もしかしたら、二人は大人になってからも何かを抱えていたのだろうか。

 俺が気づかず、見過ごしてしまったものを、黙ったまま。


 そう思うと、なんだか仲間外れにされてしまったような気がして、無性に寂しく思えた。

 









◆◆◆◆◆








 

「大ちゃんっ!!」


「うおっ!?なんだよ、急に大声なんか出して」


「何回か呼んだんだけど、気づかなかった?」


「え?マジで?」


「………………大丈夫?なにかあった?」


 

 心配そうに揺れる瞳。

 ふと、周りを見渡すと既に同級生たちの姿はなく、とっくに下校時間になっているのだということに気づいた。

 


「…………いや、何もない。ただ、ちょっと考え事してただけだ」



 どうやら、昼間のことは俺の思う以上に胸の中につっかえてしまっているらしい。

 今日はずっと上の空で、他のことは何も考えることができなかった。 



「本当に、大丈夫?何か、変だよ?」


「…………なぁ、柚葉」


「なに?」


「…………お前はさ。今の俺達の関係に、不満とかあるか?」


「え?どうしたの急に」


「……なんとなく、思っただけだ」



 自分で言っていても、要領を得ない問いかけだと思う。 

 でも、どうしてか聞かずにはいられなかった。

 

 もしかしたら、それはただ俺が安心したかっただけ、それだけなのかもしれない。

  


「…………大ちゃんが言う、俺たちの関係ってなに?」


「え?…………そりゃ、今みたいな、さ」


「…………仲の良い姉弟みたいな関係ってこと?」


「…………まぁ、そんな感じだ」



 一言で言うなら、ずっと築き上げてきた幼馴染としての関係。

 何の気兼ねもなく寄りかかれて、重荷になんて微塵も感じることのない、そんな関係。

 


「……………………………………今日の朝、クリスマスになったらって言ったの覚えてる?」


「ああ」


「…………あれ、やっぱり無しにするよ」


「…………どうしてだ?」


「ふふっ。今のままじゃ何をしても私の独り相撲にしかならなそうだからかな」 



 不意にあがった笑い声に、しかし、追随することはできなかった。

 なぜなら、そこに宿ったものには寂しさしか感じられなくて、そして、射抜くような真剣な瞳がこちらをジッと見つめていたから。

 


「………………私は、不満があるよ。今の関係。昔からずっと、変えたいって思ってた」


「っ……なら」


「私はっ!……私はね、大ちゃん。貴方自身に気づいて欲しいんだ。思っていること――抱えている想いに」



 誰もいない教室に、柚葉のあげた大きな声が響く。

 まるで悲鳴のようにさえ聞こえてしまうそれに、俺は次の言葉を繋ぐことなど到底できず、ただ黙ることしかできない。



「…………だから、クリスマスの日にもう一回聞くよ。私の……ううん。大ちゃんの望む関係が、どんなものなのか」

 

「………………わかった」


「ふふっ。ありがとう」


 

 そして、大声を上げた瞬間浮かんでいた僅かばかりの後悔の表情は消え去り、どこか、覚悟を決めたような強い笑顔がこちらに向けられる。

 

 俺は、いつになく強い意志を乗せられたその瞳に、ただ頷くこと以外の選択肢を持つことができなかった。 


本当は、もっと後に差し込む予定だった話なんですがちょっと、ここに入れます。 

そもそも、それが消極的な遅滞戦術に近いものだったとしても十年以上気づかれなかった恋心。

柚葉ちゃんはスタートラインに立つとこから物語が始まるのかなと思いまして。


また読み返して変に思ったら変える予定です。

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