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DAY:12/2 揺れる天秤

 欠伸混じりに玄関を開けると、柚葉と一緒に外に出る。

 しかし、体に吹きかけてくる風は芯まで凍ってしまいそうなほどに冷たくて、早速行く気が失せてしまった。



「なぁ、今日って学校休みじゃなかったっけ?」


「もう!そんなわけないでしょ?」


「へーい」


「でも、今週はもう今日で終わりだから頑張ったね。よしよし」


「俺は子供か」


「あははっ。さっきの台詞はとても大人には思えないなぁ」



 アホみたいな言葉に、お叱りの言葉が返ってくる。

 しかし、確かに今日で金曜日。たったの二日なのに、思い返すとえらく濃い時間を過ごしてきたような気がした。


(まぁ、凛とこんなに早く近づけるとは思わなかったけどな)


 予想するに、きっとそれはキャメ吉君のおかげだろう。

 最大で、最強の共通点。

 凛が特に深い想いを持っているらしいそれがなければ、もしかしたら会話の糸口すら掴めずに終わりを迎えていたのかもしれない。



「これでも、大人っぽいって評判なんだぜ?」


「へー、私は聞いたことないなぁ。例えば誰がそんなこと言ってるの?」


「俺だな」


「それ、ただの自作自演だよね」


「実は演技派なんだよ」


「あはははっ。大ちゃんに演技はできなそうだなぁ。壊れたロボットみたいな動きになりそう」


「……確かに、一理ある」


「あは、ははっ。認めちゃうんだ、それ」



 楽しそうな笑い声が再び響く。

 やっぱり、今日の柚葉は機嫌がとてもいい気がする。

 いつも楽しそうなやつだが、それでも、朝からここまでテンションが高いのはあまり見ない。

 

 まぁ、悪いことではないのだが、朝からこれだと疲れてしまわないかとちょっと心配になるレベルだ。  



「元気で羨ましい限りだ。けど、そんな調子で一日持つのか?」


「…………持つよ、きっと。だって、こんなに楽しいんだもん」


「ふーん。俺にもその秘訣教えてくれよ」


「ふふっ。内緒」


「なんだよそれ」


「…………クリスマス」


「ん?」


「クリスマスになったら、教えてあげる」



 今日一番の笑顔に、人差し指が添えられる。

 お預けをされた気分ではあるが、無理やり聞くわけにもいかないので諦めるしかない。

 

(……凛も、柚葉も、クリスマスってか)

 

 どうやら、女子にとってのクリスマスはいろいろと秘密を隠しやすい日らしい。

 もしかして、サンタさんとやらは秘密とやらも一緒にプレゼントする人物なのだろうか。

 つい、そんなことを思ってしまった。



「はいはい。こんなに待ち遠しいクリスマスはガキの時以来だよ」


「ふふっ。私もだよ」



 どこか、艶やかさを感じる魅惑的な微笑み。 

 いつもとは違う、思考を奪われる様なその姿に、俺が軽口を叩き返すことはできそうになかった。















 そのままなんとなく、どちらとも口を開かぬまま歩き続け、やがて昇降口に差し掛かった時。

 目の前に可愛らしい巾着袋が差し出され足を止めた。



「なんだ、これ?」


「お弁当」



 少し照れ臭そうな様子に、やはり調子が狂ってしまう。

 しかし、もし彼氏役とやらのためにしているのであればさすがにそれはやり過ぎだろう。

 毎日早起きまでしてしてもらうようなことではない。



「……ありがとう。でも、明日からは別にそこまでして貰わなくていいからな?」


「ううん。私がしたいんだ」


「なんで?」


「…………………………十二月は、花嫁修業強化月間だから」



 よくわからない答え。

 柚葉も言っていて苦しいと感じているのか、若干目が泳いでいるのがわかる。


(……ほんと、律義なやつだな)


 昨日、送られてきたメッセージに念押しでお礼は必要ないと伝えたが、過ぎるほどに律義な柚葉のことだ。

 もしかしたら、何かをせずにはいられないのかもしれない。



「じゃあ、仕方ない」


「うん……うんっ!仕方ないよ」



 断っても無駄。

 それに、別にどうしても断らなくてはいけないようなことでもない。

 まぁ、材料費くらいは、何かしらで返してあげるのが筋ではあるだろうが。


 

「………………………………こりゃ、余計に働かないとな」


 

 嬉しそうな笑顔を、曇らせるわけにはいかない。

 全てから守るとは言えないけれど、それでも、手の届く範囲くらいは手を伸ばそう。

 

 変わらない自分に、変わった状況。

 今の自分だからこそできることがきっとあるはずだから。









◆◆◆◆◆







 

「おはよう」


 

 柚葉の席で分かれた後、昨日ぶりのつむじに向かって声をかけるとゆっくりと凛がこちらを振り向いた。

 


「……はよ」



 若干気の緩んだ顔は、それだけ近づけたということなのだろうか。

 少なくとも、挨拶をしてくれるようになったことに関しては確実に前進しているのだと理解できる。



「眠そうな顔だな」


「……あんたもね」



 端的な感想を相手に伝えるが、もしかしたら俺も似たような顔をしているのかもしれない。

 少しだけムッとした顔が、非難するような声をこちらに返してくる。

 


「凛ほどじゃないさ」


「大和には負ける」



 お互い負けず嫌いなのか、言葉がぶつかり合う。

 別に本気なわけじゃない。でも、ついつい相手に言い返さずにはいられないのだ。



「「……………………」」



 再び、同時に口を開きかけやめる。

 これ以上は、不毛だ。何も言わずに視線でそのことを伝えると、相手も同じことを思っていたのか頷きが返ってきた。


(……似たもの同士なんだろうな)


 お互い、よくわからない拘りというか、子供じみた意地があるのだろう。

 前に出たら引けず、たとえ穴だらけになっても進み続ける。

 

 同じ穴の狢、それを本能的に理解していたからこそずっと忘れられなかったのかもしれない。

 まるで、自分の半身のように、そう感じてしまって。 



「そういえばさ、休みは何してるんだ?」


「…………特に何も」


「ずっと家にいるのか?」


「用事もないから」



 そして、知れば知るほどやっぱり放っておけなくなるのだ。

 自分が周りに包み込んで貰ってる不器用さ、ある意味では自分勝手で、一人で完結してしまうようなその世界をずっと持ち続けているから。

 


「………………………………明日さ。ちょっとゲーセン、行ってみないか?」


「…………もしかして、今週オープンするとこ?」


「ああ。さすがに、リサーチ済みか」



 どちらかというと、あまり売れない部類なので置いてある店そのものが少ない。

 しかし、そのゲーセンの親会社が関係していることもあり、キャメ吉くんグッズが期間限定で置かれるという情報がSNSで回っていたのだ。


 当然、個人的に興味があるし、元々今週末はそこに一人で行くつもりだった。

 


「…………元々、行く予定だったし」

 

「ははっ、そっか。やっぱり、考えることは一緒みたいだな」



 きっと、同じように楽しみなのだろう。

 つまらなそうな表情は姿を消し、その目には期待の色がこれ以上無いほどに見て取れる。

 

(相変わらず、変なやつだ)


 まぁ、自分も似たようなものなのでそれを言う資格はないのかもしれないが。



「……………………うん。いいよ、行っても」


「そりゃ、よかった。待ち合わせは……また考えとくから連絡先くれよ」


「ん」



 そして、凛が携帯を取り出したとき、それについているストラップが揺れ、こちらの手にぶつかるように動き回り始めた。


 

「持ち主に似て攻撃的なやつだな」


「…………これは、挨拶。実は、社交的だから」 


「ははっ、そりゃ恐れ入った。全く気付かなかったよ」



 どこかで聞いたような軽口に、思わず笑いが漏れた。

 そして、そのよくわからないプライドが、凛の性格をこれ以上無いほどに表現しているのだと思わされる。


(これが、変化を生むのかはまだわからないけど)


 無理やり雄介に変えさせられた俺のアイコンと、初期設定のままの凛のアイコン。

 それでも、前よりは何かが変わっていくのだと信じたいと、強く思った。 

 










共に歩むとしたら、どちらがいいのか。

個人的には、あまり同じ性格の人と付き合ったことがないのでなかなか、難しいところですね。


それと、見切り発車で始めたこの作品の個人的なテーマは『変わった時と変わらない自分』、『二つの可能性』にしたいと今のところ思っています。


きっと、時間逆行物としては、あまりその題材を活かせておらず軽微な変化しかない作品だと思っています。

一応、恋愛的なハーレムはあまり筆が進まず、ルート分岐みたいなものを実験的に使ってみるつもりですので、そういったのじゃないんだよなぁ、って人のために後書きに記しておきます。



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― 新着の感想 ―
[一言] 作者様の構想があると思いますが、一読者としましては須藤さんエンドがみたいかなと思います。 悲しい最期だった少女が救われることを願って。
2022/08/28 15:54 退会済み
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