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DAY:12/1 車輪は回る、ゆっくりと

 しばしの間、目を見開き固まっていた須藤が、何とも言えない複雑な顔をした後俯く。

 


「…………テキトーなこと、言わないで」


 

 静かな、それでいて感情が渦巻いているように感じられる重たい声。

 その表情は、身長差と、長い髪に隠れていることで窺うことは出来ない。

 

 でも、袖の先から見える手は、爪が食い込みそうなほど強く握られていて、今俺は運命の分岐路に立っていることが何となくわかった。



「俺は、本気だ。正真正銘、全身全霊をかけて」



 言いたいことは、理解できる。

 須藤から見れば、ほとんど――いや、これまで一切話してこなかったような奴が、急に調子のいい事を言い始めたようにしか感じられないと思うから。


 だけど、俺にだって事情がある。

 十年以上も、縛り付けられて、逃げることができなかった。

 

 当然、彼女は一切悪くないし、ただ俺だけの理由に過ぎないことはわかっている。

 しかし、たとえ冗談でもテキトーなんて言葉で片付けて欲しいような、そんなものではないのだ。



「もちろん、須藤にそれが伝わらないのは当然だと思ってる。俺は、テキトーで、飽き性で、自分勝手で、そんなどうしようもないやつだということを否定するつもりもない」


 

 俺に対して、悪い印象や悪感情を持つ奴なんて、それこそいくらでもいる。

 同級生だけじゃない、上級生も、教師も関係なく自分の納得できないことに関しては、たくさんの人とぶつかってきたから、それも仕方ない。


 

「だけどさ。さっきのやつは、軽い気持ちなんかで言ったんじゃない。それこそ、人生丸々乗せられてるような、それくらい心からの言葉なんだ」



 ずっと、前に進めなかった。

 そして、何もしなければまた進めなくなるのがはっきりとわかる。

 

 抜け殻のように、ただただ時に流されるだけのやつになってしまうって、はっきりと。



「……………………わけ、わかんない」


 

 理解ができないとでもいうように、困惑した顔がこちらに向けられる。

 しかし、俺自身、相手の立場なら似たような反応をすると思うので苦笑を返すことしかできなかった。 



「はは、だよな」


「…………信じて欲しいとか、言わないんだ」


「言ったら信じるのか?」


「…………わかんない、けど」


「なら、言ってもしょうがないだろ。どうせ、決めるのは須藤なんだから」



 正直なところ、ああだこうだと言い訳するつもりも、説明するつもりもない。

 上手いこと帳尻を合わせたりするのは苦手で、逆に悪い方向へいってしまうのは経験則でわかってるのだし。



「………………………私が決められるの?」


「え?あ、ああ。俺は、一緒に行きたい。でも、決めるのは須藤だ。さすがに、無理強いはできないしな」



 不思議な問いに、一瞬戸惑う。

 何を考えているのかと、その表情を窺うが、須藤はどこか心ここにあらずといった様子で佇んでいるだけで何も読み取ることはできなかった。



「…………………………………………私を、置いて行かないって約束してくれるなら」



 重ねられる言葉。

 やはり、その意図はいまいちよくわからない。

 一緒に行こうと言っているのは俺の方なのに、なぜ彼女はそんなことを問いかけてくるのだろうか。


 しかし、そんなことでいいのなら、約束できる。

 軽い気持ちなんかじゃなくて、ちゃんと心から。

 


「よくわからんが、誓うよ。俺は、須藤を置いて行かない。それに、一回お前が頷いたなら、引っ張ってでも連れていく」



 自分で言ったことは守る。

 何が何でも、たとえどれだけ辛くても。

 ずっとそうやってきたし、これからもそれが変わることはない。



「………………神様に誓える?」


「無理だ。俺、神様のことあんま信じてないから。キャメ吉くんになら誓えるけど」


「ふふっ。なにそれ」



 初めて零れた須藤の笑顔。

 それは、いつもの仏頂面とは全然違って、思わずときめいてしまうほどの魅力があった。



「やっぱ、笑ってた方がいいぞ」


「え?」


「今の笑顔、可愛かった」


「………………………………」



 一瞬、キョトンとした顔をした後、その肌がまるでリンゴのように赤く染まっていく。

 そして、須藤は唇を噛みながらこちらをキッと睨みつけた後、後ろを振り向いて一人で歩き出してしまった。



「あっ、おい!一緒に行くんじゃなかったのかよ」



 せっかくした約束を無視され、慌てて追いかける。

 須藤もそれはわかっているのか、足を鈍らせてはくれたが、それでも止まる気配は無かった。



「…………無理っ!今は、ホント、無理だからっ」


「は?いや、だって」



 時計を見ると、話しこんでいたせいもあって本気で漕いでもどうかという時間。

 しかし、どうやら須藤はしばらく俺を近づける気は無いようで頑なに距離を取り続けている。



「あー……まぁ、いいか」



 怒られるのを承知でせっかく乗ってきた電動自転車は、どうやらここで役目を終えてしまったらしい。

 俺は、時折髪の隙間から顔を出す赤色の肌を何となく見ながら、彼女の歩幅に合わせて歩き始めた。


ちょびっとずつ、それぞれの性格が垣間見えるようになってきた気がします。

それと、めちゃくちゃ書きたいのに、今週時間なさ過ぎてヤバみです(笑)

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― 新着の感想 ―
[良い点] あー関係が進展する前のこの関係も良き
2022/07/09 19:28 退会済み
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