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巻き戻った時の中で、もう一度

 週末、仕事からの帰り道、人のせいで発生した残業を思い返し、愚痴を言いながら歩く。



「クソッ。あのバカ上司はほんと使い物にならねぇ」


 

 自分の評価をあげたいからか、勝手にわけのわからない仕事を貰ってきては、部下に丸ごと振っておしまい。

 しかも、簡単なものだからなんとかなったとはいえ、肝心な期限は週を間違えて伝えて。

 青ざめた表情の後輩に、思わず文句を言いに行けば、ならお前が手伝えと言い出す始末だ。

 


「…………とりあえず、明日だな」


 

 今日、何か話があるやらで会う約束をしていた幼馴染に二度目の謝罪メッセージを送る。

 一度目は残業が決まった時、そして、今。

 仕切り直しは明日でいいという、彼女らしい優しい返事に、本当に申し訳なく思う。

 


「黙ってる方が、賢かったんだろうが」


 

 時間通りに帰れるよう仕事のスケジューリングは完璧だった。

 見て見ぬふりをしておけば、約束通りに行くことができただろう。


 しかし、今週は子供と旅行に行くと楽しそうに話していた後輩が、休日返上になるのがわかっていてそれを見過ごすことはできなかった。

 本当に、愚かな性格だと自分でも思ってはいても。

 

(……………………まぁ、そろそろ俺も結婚を考えなきゃいけないんだろうが)


 最近は友達も皆結婚してしまったせいか、遊ぶ相手がいなくて寂しいのはある。

 しかし、それ以上に、親父とお袋を安心させてあげたいという気持ちが強かった。

 彼らが直接、そう言ってきたことは一度もないけれど。

 


「……するならするで。早く相手でも、探し始めるか。年齢的には、彼女というより婚活とか、見合いだろうしな」



 思えば、俺も今年で三十歳。

 幼馴染からは冗談交じりに、結婚するかと誘われはするものの、一年ほど前に彼女と別れて以降は、そういう相手は一切いない。


 別に初めての彼女というわけでも無いし、それなりに経験を積んできたつもりだが、毎回振られる理由は大体似たようなものだ。

 

 『私のこと、好きじゃないんでしょ?』とか、『本命がいるんでしょ?』とかだ。

 

 後者については全くの冤罪だが、自分なりには好意を示してきたつもりだった。

 だけど、それはきっと彼女達が求めていたものとは違ったのだろう。

 女性というのは、本当に鋭い生き物だと毎度のことながら感じさせられる。



「…………たぶん、あれだよな」

 

 

 なんとなく思い当たりはある。

 ドラマチックな過去の恋愛が忘れられないとか、死に別れた恋人がいるとか、一切そういうわけではない。

 ただ、頭から離れずに、ずっと記憶に残っている人がいる、ただそれだけだ。

  

 昔の彼女でもなく、そもそもほとんど話したことも無いのに。何故か、忘れることができない。



「やめたやめた!飲んで忘れよ」


 

 そして俺は、全てを吐きだすように大きな声をあげると、コンビニの明かりの方にフラフラと近づいていった。

 

 






◆◆◆◆◆







「ふぁあ。頭が痛…………くない?」



 確か、昨日は慣れないワインを買って、一本開けて、二日酔いは確実だと思っていたんだが。

 いや、むしろいつになく体が軽いな。



「あれ?というより、ここって」

 


 しばらく帰っていない実家の部屋。

 もしかしたら、酔った勢いでここまで来てしまったのだろうか。

 

 まぁ、それならそれで仕方がないし、明日帰ればそれで済む話だ。

 


「二度寝、最高~」



 せっかくの休み。難しいことなんて考えている暇はない。

 偶然鳴り始めた目覚まし時計を叩いて止めると、俺は再び眠りについた。















「起きろっ!!!!」


 

 しかし、突如響いた鼓膜を突き破るかのような声に思わず飛び上がる。

  


「うわっ!なんだよお袋っ!びっくり…………あれ、その顔どうした?」



 やけに若い顔。美容とかそういったことに興味のない人だったと思っていたが、最近になって急に目覚めでもしたのだろうか。



「は?わけわかんないこと言ってないで早く支度しなさいよ」


「え?支度?なんの?」


「……はぁ。学校のに決まってるでしょうが。とりあえず、ほら、顔洗ってきな」



 追い出されるように背中を押されわけもわからず洗面台の方に向かう。

 学校って、冗談だとしてもさすがに無理があるだろ。

 

 大学に通ってたのだって、もう十年以上前のことなのに。



「………………あれ?」



 心の中で愚痴を言いながら鏡に映った自分の顔を見て固まる。

 見慣れたおっさん顔はどこにもいなくて、それは、まるで本当に学校に通っていた頃のような若々しい顔で。



「えーーーーーーーっ!?」


「うるさいっ!!ご近所さんに迷惑でしょうがっ!!!」


 

 そして、俺はお袋にげんこつを食らわせられた。








◆◆◆◆◆


 






 ひりひりと痛む頭を撫でながら、少し忘れかけている学校への道を歩く。

 夢かとも一瞬思ったが、この痛みは本物で、とてもまだ眠っているとは思えないほどだった。



「本当に、どういうことなんだ?」



 区画整備で無くなったはずの商店街。

 十数年前に流行ったドラマのポスター。

 それに、制服の切り替えで今は誰も着ていないはずのものを周りの皆が身に纏っている。



「よくわからんが。まっ考えても仕方ないか」 



 お袋譲りの大雑把な性格は、もしかしたら今日一番役に立っているかもしれない。

 不可思議な現象を考えることに飽きたともいうが。


 とりあえず、仕事行かなくていいのはラッキーだし。



「おっす、大和やまと!今日はずいぶん、遅いじゃんか」


「ん?ああ、雄介ゆうすけか。久しぶり」


「はぁ?昨日も会っただろ?」

 

「あー、そっか。じゃあ、昨日ぶり!」


「……頭でも打ったか?」



 海外赴任でヨーロッパに行ってしまって以来、三年ぶりに見る幼馴染の顔に思わずそう返すと、怪訝そうな顔をされる。



「とりあえず、今朝はお袋にげんこつ喰らった」


「なるほど。それで、余計にアホになったと」


「うるさい。成績はお前のがずっと悪いだろ?」


「いやいや。お前は、どっか抜けてるからなぁ」


「そうか?」



 記憶を掘り起こしてみると、そんなことを言われたことは何度かあった気がする。

 別に、天然とかそういうわけでは無いとは思うが。



「そうそう。なんか、ズレてるとこあるし」


「ふーん。まぁ、個性ってことでよろしく。よくわかんないし」


「ははっ。確かに、自分で分かってたらズレてないわな」



 そんなことを話しながら昇降口に入ると、靴を脱いで教室へ向かう。

 時間が近づいているのか、駆け足気味の周囲を見ながら、みんな若いなーとアホみたいなことを考えつつ、やがて見慣れたクラス札を見つけ扉を開けた。



「おはよー」



 時計を見ると、チャイムが鳴るギリギリの時間。

 遅刻魔の雄介がいる時点で若干諦めていたが、どうやら間に合ったらしい。

 

 

「あははっ。二人ともこんな時間なのにぜんぜん焦ってないじゃん」


「俺は、雄介と会った時点で諦めてたんだ」


「「いやいや、走れよっ」」


「疲れるから無理」



 マイペース上等。おっさんの記憶に引きずられているのか、走る気力なんて全く湧かなかったし。

 一応これでも無遅刻無欠席で通ってたはずだ。

 なら、一回くらい遅刻チケットを使ったところで問題はない。 



「おはよう」


 

 徐々に思い出し始めた、過去の記憶。

 そして、忘れていない自分の席。  

 その目印に挨拶をすると、記憶通りの一瞥が出迎えてくれて、なんだか少し嬉しくなった。



「ははっ。今日も、よろしく」


 

 不審者を見るような訝しむ表情。

 慣れ合う気なんてないと、無言で伝えてくるかのようなその雰囲気。

 

 それでも、俺は嬉しかったのだ。

 ずっと、頭から離れなかったその人、須藤すどう りんともう一度会うことができて。



とりあえず、出オチになったらすいません。

時をかける少女を見ていたら、つい逆行物書きたくなってしまって。

一応中編位をイメージしています。

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