73.第9話「黄金龍の唸り声」(5)
町の少々高い場所へ移動したドウジとキョウカ。
先程までイェルコインとザイルダイトがいた場所だ。
「初めてこの町に訪れたときから、この場所に来てみたかったんですよね。」
キョウカは落下防止用の柵に寄りかかりながら町中を眺める。
そんなキョウカの姿を後ろから眺めるドウジ。
キョウカの長くて美しい黒髪が風になびいている。
「ドウジさんも隣、どうですか?」
キョウカがドウジの方へ顔を向けながら聞く。
数秒だけ静寂が生まれたが、ドウジは遠慮せずキョウカの隣へ移動した。
そしてキョウカと同様に下の方にある建物たちを眺める。
「良い眺めでしょう?」
キョウカは笑顔を見せながらドウジに言う。
そんなキョウカを無表情で見るドウジ。
目に瞳孔が無いため視線は分からないが、恐らくキョウカに向いているのだろう。
ドウジは「ああ。」と返事をした後、顔を再び下にある町の方へ向ける。
キョウカも同様に下の町を眺めている。
ドウジが羽織っているマントが風になびく。
その状態で黙ったまま大体一分くらいが経った。
少々沈黙が続いたが、やがてドウジの方が口を開く。
「あそこにいるヤツはモンスターではないのか?」
ドウジが「ナニカ」を見つけた。
その「ナニカ」を指すように腕を突き出している。
キョウカはその腕の先を見た。
その先には体がゲル状でできた青緑色の生物が歩いていた。
足のようなモノが無く、まるでナメクジのように移動している。
「スライムの方ですね。 見た目はともかく、彼らも『人』です。」
キョウカは答える。
人型ではないが、スライムのような生物にも人権が与えられているようだ。
「この世界では本当に多種多様な種族が共存しているのだな。」
ドウジは遠くにいるスライムの通行人を眺めながら言う。
すると今度は狐の姿をした獣人を見つけ、他にはおそらく魚人であろう者も発見する。
そんな者たちを見て、ふとドウジは思った。
「あの黄金龍とも、共存はできないのだろうか。」
そんなドウジの言葉を聞いて、やや驚愕している表情を見せながらドウジを見ているキョウカ。
思わず口に出していたことに気づきキョウカに視線を向けるドウジ。
"黄金龍"とは当然ナルキのことである。
つまり、ナルキとの和解の道をドウジは考えているということだ。
強くなる願望を持つドウジがだ。
「意外でした。 ドウジさんからそのような言葉を聞くとは・・・。」
微笑むキョウカ。
そんな彼女から視線を外し、下に見える町を眺めるドウジ。
「俺は別に戦闘狂ではない。 戦わず問題を解決できるのならそれに越したことはない。」
ドウジはハッキリと自分の意見を話す。
それを聞いたキョウカは再び微笑んだ。
しかしすぐに表情がやや悲しそうになる。
「既に試した方がいたらしいのですが、その方は攻撃を受けてかなり重傷を負ってしまったそうです。 ですので、話し合いでの解決は不可能だと思われます・・・。」
キョウカは説明する。
過去に既に試みた者がいたようだ。
ドウジはなにも言わなかったが、納得した様子を見せた。
「和解が出来なかったからこそ、あの龍は"モンスター"と呼ばれているのです。」
そう、キョウカは一言述べた。
しばらくしてドウジとキョウカは再び町へ下りる。
町中を歩いていた二人は、駄菓子屋の前へやってきた。
そこには見知った姿があった。
「おお、お二人でデートかな?」
ザイルダイトだった。
彼は駄菓子屋の前で突っ立っていた。
「え、えっと、ザイルダイトさんはどうしてここに・・・?」
なぜか少し照れているキョウカ。
若干言葉を詰まらせながらザイルダイトと会話をする。
ザイルダイトは後ろにある駄菓子屋に顔を向けたかと思うと、すぐに再びドウジたちの方を見る。
「ちょっと知人に会ってね。 今この中にいるから待っているところ。」
ザイルダイトは苦笑いをしながら状況説明をする。
するとやがて駄菓子屋の中から二人の子供が現れた。
人間と獣人の男の子たちだ。
手には菓子が入ったビニール袋を持っている。
「ザイルの兄貴、選び終わったぜ。」
「おう、そうか。」
ザイルダイトは人間の男の子と会話をした後、駄菓子屋の中にいる老年の女性にお金を渡した。
状況から見るに、子供たちのお菓子の支払いだろう。
支払いを終えるとザイルダイトは再び子供たちの元に戻る。
「また何かあったら頼ってくれよ。」
「ああ、その時は頼む。」
会話を終えると男の子たちは菓子が入ったビニール袋を片手に去っていった。
ザイルダイトは二人の姿が見えなくなるまで見送ると今度はドウジたちの方を向く。
「先程の子たちは・・・?」
キョウカが早速聞いた。
ザイルダイトも聞かれることを予測していたのか、軽く笑う。
「俺の親戚の子たち・・・、と言ってもすぐに嘘とバレるか。」
ザイルダイトはそう言うと、子供たちが走り去って行った方向を向く。
「優秀な情報屋さ。 少し調べたいことがあってね。」
ザイルダイトは身に付けているコートにあるポケットにそれぞれ両手を入れながら話す。
風に吹かれてコートの背面に付いている二つの細長い布が靡いている。
「それはなんだ?」
ドウジは"調べたこと"について聞こうとする。
「それはまた宿に戻ったときに話そう。」
するとザイルダイトはドウジたちの方を振り向きながらそう答えた。
そして二、三歩前に歩いた後、ドウジを見上げた。
「それよりドウジ、この後なにか予定とかあるか?」
ザイルダイトが珍しいことを聞いてきた。
その質問に対しドウジは「いや、特には。」と答える。
するとザイルダイトは軽く笑う。
「んじゃ、ちょっと勝負しないか?」
ザイルダイトはニヤッと笑いながら言う。
一方ドウジは首を傾げていた。
とある場所にザイルダイトはドウジとキョウカを連れてきた。
町の目立たない場所にある広場だった。
その場所にはバスケットボールのゴールがある。
「一体なにをするのだ?」
ドウジはザイルダイトに聞く。
すると振り返ったザイルダイトはドウジに向けて「ナニカ」を投げた。
反射的に「ナニカ」をキャッチするドウジ。
それはバスケットボールのボールだった。
「ドウジはバスケをしたことあるか?」
ザイルダイトは聞いてきた。
突然のことで沈黙するドウジだったが、質問に対して「ない」と正直に答える。
それを聞いたザイルダイトは急にバスケットボールのルールを説明し始めた。
ドウジは"なぜ今バスケットボールのルールを説明しているのか"という疑問を脳裏に浮かべてはいたが、とりあえずザイルダイトの説明を黙って聞いていた。
数分後、ザイルダイトの説明が終わるとすぐにドウジは聞いた。
「なぜバスケットボールの説明を今したのだ?」
ドウジは持っていたボールをザイルダイトに投げ渡しながら聞く。
するとザイルダイトはボールを指で回し始めた。
「まあ待て、そろそろ来る頃だろう。」
ザイルダイトはよく分からない言葉を口にする。
するとドウジたちが来た道とは別の道から数人の人物が現れた。
それはよく知る人物たちだった。
「お、来たか。」
振り向きながら呟くザイルダイト。
その目線の先にはガイ、シグ、ギルダー、フブキ、エイジがいた。
「こんなところに呼び出して、どういうつもりだ?」
ギルダーがザイルダイトに問い詰める。
するとザイルダイトは持っているボールを前に出して見せながら言い放った。
「今からここで小規模の簡単なバスケットボールをしようと思う!」
ザイルダイトの言葉はこの場にいる全員の耳に入っていった。
正確に言えばガイには耳は無いのだが、今はそんなことどうでもいいだろう。
「お前はなにを言っている?」
早速ギルダーが疑問を持つ。
するとザイルダイトはボールを片手に持ちながら答えた。
「まあそうだな・・・、ちょっとした『思い出作り』ってところさ。」
ザイルダイトはガイたち5人がいる方へ軽くボールを投げた。
飛んで行ったボールはシグがキャッチした。
「そんなことに何の意味がある? 二日後には"ヤツ"が現れるんだぞ。」
ギルダーは続けて聞く。
するとザイルダイトは少しだけ口角を下げた。
「だからこそだ。 あまり言いたくはないが、全員で騒ぐ機会が今後ある保証はないかもしれない。 だから俺は『今』その機会を作りたいんだ。」
ザイルダイトは仲間たちを順番に見る。
そして両腕を広げた。
「『思い出』作ろうぜ。」
ザイルダイトは笑みを浮かべながら提案をする。
その光景を見た仲間たちは全員困惑した表情を見せた。
しばらくザワザワとしていて誰もなにも言おうとしなかったが、一人の人物が動き出した。
イェルコインだ。
彼女はザイルダイトに近付くと顔を上げて声をかけた。
「アタシ、スポーツは得意じゃないから得点係をやらせてよ。」
そう発言した。
それを聞いたザイルダイトと他の皆は意外そうな顔をする。
「本当になにを考えているか分からないな、あんたは。」
イェルコインは呆れているような言い方でザイルダイトに言う。
だがその後、笑みを浮かべた。
「でも、『思い出作り』は嫌いじゃないよ。」
イェルコインの言葉を聞いて口角を上げるザイルダイト。
するとその後、次々と賛同意見が出続けた。
「まあ、断る理由は無いかな。」
「バスケならやったことあるから任せて。」
「私もやるぅ〜!」
「悪くはないな。」
ガイ、シグ、フブキ、エイジも賛成して、残りは3人だけとなった。
「私もスポーツは苦手だから観てるだけにさせてもらいます。」
キョウカはそう答えた。
その後、ドウジの顔を見た。
他の仲間たちと同様にドウジの返答を待っているようだ。
仲間たちの顔を一人ずつ見るドウジ。
少々困っている様子を見せた後に、息を吐いた。
「俺も、断る理由はない。」
ドウジはそう言う。
彼も賛成したということだ。
残るは一人。
仲間意識が低めの"男"のみだ。
皆の視線を一斉に受ける。
しかしギルダーはサラッと返答した。
「俺は断る。」
そう言って歩き出した。
そしてそのまま去って行くと思ったが、隅の壁にもたれかかり皆を見ている。
「だが協力者のよしみだ。 観戦はしてやる。」
そう一言だけ告げる。
ギルダーの言葉を聞いてドウジ以外は笑みを見せた。
そして「思い出作り」のバスケットボールを始めるのだった。




