72.第9話「黄金龍の唸り声」(4)
「チャーテット」の町中を歩く大男がいた。
ドウジである。
彼は昨日の夜に月を眺めていた場所を通っていた。
すると向かいの方からこちらへ歩いてくる二人の人間がいた。
一人は高そうな黒い帽子とスーツを羽織った背の低い杖を突いた老人。
もう一人はか眼鏡をかけたスーツ姿の女性だった。
老人はドウジの前に来ると足を止めた。
「また会ったのう、若人。」
老人は帽子で見えずらい目でドウジを見上げる。
ドウジもゆっくりと老人を見下ろす。
この老人が誰かは話す前からドウジは既に気付いていた。
「黄金龍を倒しに行くのか?」
老人は口角を上げながら聞く。
どこか愉快そうだった。
「戦いは二日後だ。 戦いに向けて身体を休めている。」
ドウジは老人を見ながら説明する。
それを聞いた老人は「ほっほっほっ」と笑う。
「実に頼もしい。 其方になら世界を任せられるだろう。」
純粋な信頼感か、もしくは冗談か、判別しにくい言い方で老人は言う。
そして再び軽く笑う。
「だがのう、黄金龍が最上位だと思っているにならそれは間違いじゃよ。」
少々顔付きが冷静な感じに変わる老人。
同時に雰囲気も変わっていた。
だがドウジは動揺しない。
「そんなことは分かっている。」
ただ一言そう答えた。
それを聞いて老人は再び表情を緩める。
「それを聞いて安心したぞい。」
老人は再び笑う。
するとずっと後ろで立っていた女性が老人の隣へ移動する。
「社長、そろそろ・・・。」
女性の言葉を聞いて老人は笑うのをやめた。
「おお、そうじゃの。 では、頑張ってくれたまえよ。」
老人はそう言うとドウジの横を通ろうとする。
だがドウジの隣を過ぎた後、足を止めた。
「ああ、そうじゃ思い出したわい。」
そう言った後、ドウジの方を向く。
「もし強くなりたいのなら、ここからずっと北へ遠く行ったところに大きな岩山があるのじゃが、そこにわしの知人の仙人が住んでおる。 『ガイエンの紹介』とでも言えば修行をつけてくれるじゃろう。」
話し終えると老人は「ではな。」と言ってそのまま去って行った。
付き人らしき女性はドウジに丁寧に一礼をした後に老人の後をあ追って行った。
その後ドウジは一切振り向かず、そのまま再び前へ歩いて行った。
ドウジから離れた後、老人の付き人である女性は一度振り返ってドウジの背中を見る。
その後すぐに前へ向き直す。
「良かったのですか?」
付き人の女性は老人に聞く。
当然言葉足らずなので老人は「なにが?」と逆に聞く。
「先程の会話内容から察するに、社長はあの男性が黄金龍を倒す前提で話しておられました。 ですがそうと決まった訳では・・・。」
女性は疑問を老人に言う。
しかし老人はすぐに答えた。
「レイナくん、わしの見る目を疑うのかね?」
老人は軽い感じで言う。
しかしそれを聞いた付き人の女性はハッとした。
「い、いえ、滅相もございません・・・!」
付き人の女性はかけている眼鏡をいじりながらすぐに答えた。
老人は「ほっほっほっ」と笑う。
「わしには分かるのだよ。 彼は強いよ、将来性も含めて。」
老人はどこか楽しそうにそう語った。
ドウジは橋の上にいた。
下では川が流れており、手すりを乗り越えれば落ちてしまうだろう。
「ドウジさん?」
するとそこにキョウカがやってきた。
彼女もドウジに近づくために橋の上に乗った。
両者共にしばらく橋の下の川を眺めて黙ったままだった。
だが先にキョウカが沈黙を破った。
「ドウジさんは、もし黄金龍を倒したらなにがしたいですか?」
キョウカがドウジを見ながら聞く。
ドウジは川から視線を動かそうとしない。
「戦いの前にそう言うことを聞くと死んでしまうと、俺の姉ちゃんから聞いたことがある。」
ドウジは意外な返事をした。
キョウカも思わず目を丸くする。
「ご、ごめんなさい・・・。」
キョウカはとりあえず謝った。
そして再び川へ視線を戻した。
「俺の目的は一つ、強くなることだ。」
だがドウジはキョウカの質問に答えるのだった。
当然キョウカは少し驚くが、声は出さなかった。
「ドウジさんはそればかりですね。」
冷静になったキョウカは微笑みながら言う。
別に悪い意味ではなく純粋な疑問だった。
「生まれた時からそういう風に育てられたからな。」
ドウジのその話を聞いてキョウカは表情を変える。
彼女はドウジの顔を見上げる。
ドウジはそれに気付いたのかキョウカの顔を見るために見下ろした。
するとキョウカは恥ずかしくなったのか慌てて顔を下へ向けた。
「えっと、ドウジさんって子供の頃はどういうことをしていたのでしょうか?」
キョウカは恥ずかしさを誤魔化すために話題を変えた。
するとドウジは黙ってしまった。
それに気付いたキョウカはなにが起きたか分からないため、再びドウジの顔を見るために見上げる。
するとドウジの片方しかない目が半目のまま固まっていた。
そんなドウジを不思議に思うキョウカだった。
「酷いモノだったさ。」
ドウジはそう一言だけ述べた。
そしてどこか物悲しさを感じる声色だった。
珍しいドウジの姿を見てなんとも言えなくなるキョウカ。
彼女は再び話題を変えようと考え出す。
だがドウジはキョウカの方へ体ごと向いた。
「気を遣わせて悪かった。 俺は平気だ。」
ドウジはキョウカに優しく言う。
キョウカはどこか申し訳なさそうだったが、なにも言えなかった。
彼女は本音を言えば過去のことが気になっている。
しかしそれ以上に迷惑をかけたくないと思っているのだった。
ドウジとキョウカは広場の方へ移動した。
そこでは子供たちが楽しそうに遊んでいた。
その様子を眺める二人だった。
「逆に、キョウカの子供の頃はどうだったんだ?」
ドウジがキョウカに聞く。
その質問に少し驚くキョウカだったが、すぐに微笑みながら答えた。
「最初は普通に村で暮らしていましたが、16歳の頃からイェルと共に『魔導学園』で魔法を教わりました。」
キョウカはどこか楽しそうに話している。
彼女にとって大切な思い出なのだろう。
(そういえば、前に少しだけイェルコインから聞いたことがあったな。)
ドウジはキョウカたちが誘拐された時にイェルコインから聞いた話を思い出した。
口には出さなかったが。
「まあ、その『魔導学園』でも色々と厄介な事などもあったのですけど、今となっては良い思い出です。」
キョウカは微笑みながら話す。
本当に楽しそうだった。
そんな彼女の顔をまじまじと見つめるドウジ。
「えっとドウジさん、どうかしました?」
無言で見つめてくるドウジが気になるキョウカ。
すると視線を広場の方へ戻すドウジ。
「いや、ただ黄金龍は確実に倒さねばと思っただけだ。」
そう述べるドウジ。
なぜ彼がそう思ったかの真意に気付けずにいるキョウカだった。
広場ではうっかり転んで泣いている男の子がいた。
しかしお姉ちゃんらしき子が男の子を慰めた後に、背中におぶってどこかへ連れて行った。
おそらく怪我を治すために家に帰ったのだろう。
「さっき俺の子供の頃は『酷いモノ』と言ったが、全てがそうではなかった。」
ドウジは急に話し始めた。
キョウカはそんなドウジの顔を見上げる。
「その一つが、俺の姉ちゃんだった。」
ドウジは視線を広場に向けたまま顔を動かさないでそのまま語り始める。
「姉ちゃんは俺がどんな辛い目に遭ったとしても、常に俺の味方でいてくれた。 俺がこの世界に行くことを伝えた際にも、俺を快く見送ってくれた。」
ドウジは冷静な声色で語る。
それほど真剣に話しているのだろう。
「俺は恵まれた方だ。 本当に悲惨な過去を持っている奴らと比べたらな。」
ドウジはそう言うとキョウカの方を向いた。
「守らなければならない、世界を、人々を。」
ドウジは真剣な顔つきでキョウカを見る。
少々押され気味なキョウカだったが、やがて笑みを浮かべる。
「ええ、もちろんです。」
そしてそう返事をした。
ドウジとキョウカはそのまま二人で町中を歩き回っていた。
するとドウジはある店の中で「ナニカ」を見つける。
だが足は止めずにキョウカに近寄った。
「なあキョウカ、この世界にもテレビってあるのか?」
ドウジが見つけたモノ、それは「テレビ」だった。
今まで見てきた町の雰囲気などからそういう電化製品、ましてや電波放送系の物があることに違和感を感じた。
「ええ、ありますよ。 一家に一台とまでには普及しておりませんが、それでも町くらい発展している場所ならば最低でも合計二台くらいはどこかの民家に置かれていると思います。」
キョウカは丁寧に答えてくれた。
ドウジもそれに納得する。
「やはり、まだ俺はこちらの世界で知らないことが沢山あるようだな。」
ドウジは周りを見渡しながら言う。
そんなドウジの姿を見てキョウカは静かに笑った。
「ドウジさんがよければ色々と教えましょうか?」
キョウカは笑顔で言う。
「いや、流石に大変だろうから俺がキョウカに聞いた時だけでいいさ。」
ドウジはそう返事をした。
それを聞いたキョウカは「分かりました。」と言った後、視線を前に戻す。
再びキョウカの後ろをついて行くように歩くドウジだった。




