71.第9話「黄金龍の唸り声」(3)
水の音が空間に響き渡る。
そこは大浴場で、シグとフブキが入浴中だった。
ギルダーとエイジが戦い始めた後、森の近くで待っているのもアレだからと一度宿屋に戻ることにした二人。
戻った二人は宿屋の大浴場で朝風呂を入ることにした。
浴場には水風呂もあり、雪女であるフブキはそちらに入っている。
ちなみに現在この場には二人しかいない。
「そういえば、あそこに来るまでフブキちゃんたちはなにをしてたの?」
お湯に浸かって気持ちよさそうなシグがフブキに聞く。
普段も布面積は少ないが、裸のシグは褐色の肌と豊満な胸がさらに目立っている。
「分かんない。 ギルダーについて行ってただけだから。」
フブキは軽くそう答えた。
フブキは普段拘束具のような服を着ているため、裸になると白めの肌と意外と豊満な胸が目立ち始めている。
さらによく見るとフブキの周りの水が少しだけだが凍り始めていた。
普段着ている服が身体から発せられている冷気を抑えてくれていたようだ。
「フブキちゃんは本当にギルダーが好きなのね。」
「うん、大好き。」
ちょっとしたガールズトークをする二人。
足を伸ばしながら伸びをするシグ。
動くことによって水の音が浴場に響き渡る。
「ふぅ・・・。」
後ろに寄りかかりながら天井を見るシグ。
半目でボーッと眺めていた。
「なんか勢いでついて来ちゃったけど、私は黄金龍相手に戦えたりするのかしら・・・。」
二日後に起きる戦いに不安を感じるシグ。
入浴中のためか、その姿はとても色っぽく感じた。
「勝つよ、絶対。」
フブキはしっかりとシグの呟きを聞いていた。
その証拠にキッパリと宣言をしている。
また、普段ヘラヘラしているフブキが珍しく真面目な感じで喋っていた。
「私もいるし〜、ギルダーもいるし〜、そして皆もいるしねぇ〜。」
しかしすぐにいつもの調子に戻った。
体をゆらゆらと左右に揺らしている。
それと同時に水風呂に少々波ができた。
「ふふっ、ありがとう。」
そんなフブキを見て、感謝の言葉を送るシグ。
励ましてくれたことを理解した。
入浴を終えた後、纏めていた髪を下ろしてタオルで拭いて、ドライヤーで髪を乾かす二人。
その後は体を拭いてから宿屋の浴衣を着て、自分たちが泊まっている部屋へ向かった。
部屋へ戻るとシグはグラスと酒瓶を持ってベランダにあるテーブル近くの椅子に座る。
そしてテーブルにグラスと酒瓶を置いた後、グラスに酒を注いだ。
そして注ぎ終わるとグラスを口に近づけて、酒を口内へ流し込んだ。
また飲酒を始めるシグだった。
一方でフブキは部屋の中央辺りでうつ伏せに倒れていた。
髪を洗ったばかりなので仰向けではなくうつ伏せに倒れているようだ。
「この旅館、気に入ったわ。」
シグはグラスに注がれた酒を眺めながら、そう呟く。
ただ、単純に旅館が良いから気に入ったワケではなかった。
その頃、森の中では一人のホブゴブリンと一人のレッドキャップが仰向けの状態で倒れていた。
お互い息を切らして疲れており、自身の武器も手から離れて地面に捨てられていた。
「すまなかった、迷惑をかけてしまった・・・。」
空を眺めながらレッドキャップのエイジはホブゴブリンのギルダーに謝罪をする。
露わになっている不気味な口元が動いている。
先程までエイジはレッドキャップの習性である殺人欲の禁断症状に陥っていて、危険な状態となっていた。
しかしギルダーがエイジの戦い相手をしたおかげで症状が治ったようだ。
「んなことより、正気に戻ったのならさっさと二日後に向けての準備をしろ。」
ギルダーも空を眺めながらエイジに言い放つ。
その約5秒後、立ち上がったギルダーは落としていた剣を拾い鞘に収める。
そしてなにも言わずにその場から去って行った。
そんなギルダーを仰向けの状態のまま目で追うエイジ。
そして視界から彼がいなくなると目を瞑った後、不気味な口でため息を吐くのだった。
町のはずれでは、大勢の影があった。
それは「人」ではなく、大量の甲冑だった。
ご存知ガイの甲冑と瓜二つであり、彼が隠しながら少しずつ持って来ていた「武器」だった。
ガイは幽霊なので、なにかに乗り移らなければ「現世」へ干渉することができない。
故に、この甲冑たちは彼の"武力"でもあるのだ。
ガイは全部の甲冑たちを浮かばせる。
そして近場の森の中へと隠すのだった。
作業が終了した後、自身が乗り移っている甲冑の兜以外の装備も一緒に森の中に隠す。
そして兜のみの状態で浮遊して移動し始めた。
この状態が一番楽だと判断したのだろう。
実際は兜が無くても存在はできるのだが、「現世」へ干渉できなくなるため最低限の装備をしているのである。
ガイは町へ戻らず、甲冑を隠した森とは別の森の方へ移動した。
高度はかなり高いため、見下ろす形で森を見ている。
すると森の中から一人の男が出て来た。
先程までエイジと戦っていたギルダーだった。
彼は特に余所見をせず真っ直ぐ町へ帰って行った。
数分ほど遅れてエイジも森から出て来た。
禁断症状はすっかり治っており、問題なく町へ帰って行く。
そんな一部始終をガイは上空から眺めていた。
ふとガイは町の周りを飛び回っていた。
特に理由はない。
するとガイは遠くの方に二つの人影があることを発見する。
町への来訪者かと思い、ガイはしばらく眺めていた。
しかし影はどちらも一向に動かない。
正確には片方の人影は腕だけは動かしていた。
奇妙に思ったガイは近付くことにし、兜に宿った幽霊は空中を浮遊しながら二つの人影に接近する。
道端に二人の人間がいた。
どちらも中華風の青い道着を着ており、おそらく拳法家の様である。
地面にうつ伏せの状態で倒れている緑髪の男の拳法家に、肩を貸そうとする金髪の中性的な拳法家の姿がそこにあった。
「どうしました?」
宙を飛ぶ兜が話しかける。
すると金髪の拳法家が「え、兜が浮かんでる・・・!?」と驚く。
金髪の拳法家の声はそこまで高くはないが男声にも女声にも聞こえる感じで、見た目の容姿も合わさってパッと見ただけでは性別が分からない。
だがよく見ると喉仏が目立っていたため男性のようだ。
「ボクは幽霊だ。 それより大変な状況の様だけど?」
ガイは兜を浮かばせながら二人を交互に見る。
すると金髪の拳法家は緑髪の拳法家を一度見た後、再びガイの方を見る。
「すまないが次の町まで運ぶのを手伝ってくれないか? 友人が空腹で倒れてしまったんだ。」
金髪の拳法家は真剣な顔つきで助けを求めた。
緑色の拳法家は力が出ないのが首がガクンと項垂れている。
「おう、お安いご用さ!」
ガイはそう言うと、後ろを振り向き「少しだけ待ってくれ。」と一言述べた。
金髪の拳法家はなにが起きるか当然分かっていなかったが、言われた通り黙って待っている。
すると遠くの方から空を飛んでいる二つの影がこちらに向かっていた。
それはどちらともガイの甲冑で、片方は兜だけが無かった。
やってきた二つ甲冑は近くで着陸し、兜の無い甲冑の上にガイが宿っている兜が乗っかった。
「よし、彼はボクに任せて君はそっちの甲冑に乗ってくれ。」
そう言うとガイは緑髪の拳法家を担いだ。
緑髪の拳法家から離れた金髪の拳法家は「そっち」と指された方を向く。
するとそこにはうつ伏せの状態で地面から数センチ浮かんで待機している甲冑があった。
不思議そうにする金髪の拳法家だったが、恐る恐る近づいてゆっくりと甲冑に腰を下ろした。
一連の仕草が本当に男性なのか疑問に思うほど優雅な雰囲気だった。
「よし、落ちないことだけ注意してくれ。」
そう言うとガイは緑髪の拳法家を担いだ状態で宙に浮かび、前方へ飛んで移動し始めた。
ほぼ同時にもう一方の甲冑も移動を開始する。
金髪の拳法家が空気抵抗などで落とされないために、そこまで早くはせずに移動している。
だが普通の人間の走る速さよりは速かった。
数分後、自分たちが待機している町「チャーテット」の飲食店で食事をしている二人の拳法家。
その近くでガイが突っ立っていた。
飲食店はザイルダイトたちがいた所ではなく、また別の酒場風の場所だった。
「本当に助かりました。 なんと御礼をすればいいか・・・。」
金髪の拳法家は丁寧にガイに感謝をしていた。
一方で緑髪の拳法家は食べることに集中していた。
「シェチ、君も感謝の言葉を言って。」
金髪の拳法家が注意する。
すると"シェチ"と呼ばれた緑髪の拳法家は食べる手を止めると、食べている最中のモノを飲み込んだ後にガイの対して頭を下げた。
「助かった、あんたは命の恩人だ。」
勇ましさを感じる声でシェチはガイに対して感謝の言葉を送った。
「大袈裟だよ。 それよりしっかり食べた方がいいよ。」
ガイがそう言うと、それに従うようにシェチは再び食事を始めた。
その様子を見て金髪の拳法家は「ふぅ」と言って微笑みながらシェチを見る。
「それじゃ、ボクはこれで。」
ガイはそう言うと店を後にする。
そんな彼を金髪の拳法家は感謝の念を込めたお辞儀をしながら見送った。




